第3話
投稿者:土方のわし 2024年5月12日、夜
やったぜ。兄ちゃんのアパートからの帰り、わしは運命の相棒・太郎を拾った。
唐揚げの油とニンニクの匂いを全身に纏い、出口を求めるような足取りで、おっさんと千鳥足で岡山の路地裏を歩いとった時のことや。ゴミ捨て場の深淵から、情けない「極小の生」の震える声が聞こえてきよった。
泥まみれの段ボールの中に、一匹のビーグルが震えとったんじゃ。
添えられたメモには『食費が払えなくなりました。誰か食わせてやってください』。
――あぁー、もうめちゃくちゃや。
わしは迷わず、その泥と絶望の塊をガシッと抱き上げた。
「よし、お前は今日から『太郎』じゃ。わしの飯を一気に突うずるっ込んで、生きる気力を取り戻せ」
「わしさん、本気ですか。犬の食い扶持、土方の稼ぎじゃ大変ですよ」
「うるさい。こいつはわしが元コックのプライドにかけて、世界一肥え太らせてやるんじゃ。見ておれ」
おっさんが濁った瞳でしばらく考え込みよった。
「……太郎、トップバリュのイカ風味と柿の種、どっちを『生の報酬』にしたいか、至急メールで聞いてみましょうや」
「犬にメールは打てん。あと酒を飲ますなと言っとるじゃろ!」
アパートへ連れ帰り、まずはシャンプーという名の「洗浄工事」じゃ。浴室でシャワーを浴びせると、卑しい泥水がドバーっと流れて、中から見事な三色の毛並みが一ミリの隙もなく現れよった。
すると、おっさんが「わし、背中を流してやりますよ」と言いながら、全裸で浴室に侵入してきよった。太郎じゃなくてわしの背中を狙っとるんか、こいつは。
「出て行け! 営業妨害じゃ!」
「わしさん、水しぶきがずるずるして気持ちええですよ!」
「だから出て行けと言うとるんじゃ! 二度と盛り合うな!」
綺麗になった太郎が身震いするたびに、浴室に聖なる水しぶきが爆発する。――あぁーたまらねぇ。
腹を空かせとる太郎のために、わしは速攻でキッチンに立った。冷蔵庫にあったささみを茹で、一寸の狂いもなく、まるで愛を込めるように細かくほぐして皿に出した。
太郎の奴、匂いを嗅いだ瞬間に「ガツガツ」と重戦車のような勢いで食い始めよった。完食して、わしの顔をじっと見つめ、尻尾を千切れんばかりに振りよる。
鼻の奥が少し、火薬の煙を吸った時のように熱くなりやがった。
「ええか太郎、わしがコンクリートまみれになって、お前の肉代くらいドバーっと稼いできてやるからな」
「わしも、たまにトップバリュのつまみを……」とおっさんが安酒を煽りながら口を挟む。
「お前は自分のつまみを太郎に分けるくらいの度量を見せんか」
それからはもう、めちゃくちゃや。太郎の毛を乾かし、おっさんと残りの黄色いラベルを酌み交わし、追加のささみを太郎に捧げた。
帰る場所に、自分を待っとる「出口」があるのは、悪くない。
食い終わった後は、わしの膝の上で太郎がぐっすりと眠りよった。重い。温かい。この質量こそが、わしが土方として踏ん張る重りになる。
おっさんが「世界一幸せな犬、もう完成してますやん」と、最後の一杯を喉の奥底まで流し込みながら笑いよった。
うるさい。でも、そうかもしれんのう。
岡山の夜、太郎の温もりを抱きしめながら、わしは明日への気合を注入した。
明日もまた、砂と火薬の現場が待っとる。
だが今は、この膝の上の重みこそが、わしが生きとる証じゃった。




