第13話
投稿者:土方のわし 2024年9月5日
やったぜ。今日で休暇も5日目という名の「最終防衛ライン突破日」じゃ。
昨日、冷蔵庫という名の絶対零度の収容所へ叩き込んでおいたスープカレー。一晩冷やしたおかげで、菌という名の反逆者も手出しできん、鉄壁の熟成という名の「圧入」を遂げとった。今日はこの余った汁に和風出汁と片栗粉をブチ込んで、ドロドロの「カレーうどん」という名の粘性土に改造することにした。
だが、今日はいつもと気合という名の圧が違う。わしも、おっさんも、兄ちゃんも、一ミリの隙もない真っ白なTシャツと白ズボンに身を包んだんじゃ。
「わしさん、なんで地下足袋に白装束なんですか。現場じゃ考えられんっすよ」
「うるさい。カレーという名の神に対する究極の礼儀じゃ。汚れを恐れる卑しい心こそが、一番おえんのじゃ。至急、純白になれ」
コンロに火をつけ、出汁の香りが鼻をずるずると蹂躙し始める。トップバリュの黄色いラベルを一気に喉の奥まで煽り、わしらは真っ白な姿で、生贄を待つように食卓を囲んだ。
横では太郎の奴が、テレビの『食いしん坊万歳』の咆哮に合わせて、尻尾をプロペラのように振り回しとる。
「太郎、お前もその一ミリの隙もない白い毛を、今日ばかりはドバーっと汚すんじゃねぇぞ」
いよいよ実食じゃ。うどんという名の白い龍を啜った瞬間、カレーの飛沫が一ミリの隙もなく胸元にドバーっと飛んだ。純白という名の処女地に、毒々しい黄色いシミが点々と、出口を求めて広がっていく。
あぁ~~たまらねぇぜ。
「うおっ、おっさんの卑しい汁が飛んできた!」
「兄ちゃん、お前こそ豪快に圧入しすぎじゃ。汁が一ミリの隙もなく跳ねよるわ!」
もはや誰の汁か分からん。そこへ兄ちゃんがおっさんの口に、うどんを一気に突うずるっ込んでやった。おっさんが堪らず啜り上げると、真っ白なシャツに大輪の黄色い花がドバーっと咲きよった。
おっさんの白いシャツが、みるみるうちにカレーまみれの「惨状」に変わりよる。
「兄ちゃん、お前のせいでわしの聖域が一ミリの隙もなく……」
「おっさんの啜り方が卑しいせいですよ。でも、もう気が狂う程気持ちええでしょ」
おっさんは、自分のシャツに滲むドロドロとした「生の報酬」を眺め、悦に浸って黙りよった。
和風出汁とスパイスが喉の奥底まで広がっていく。白い服で食うという背徳の重圧が、旨さを数段跳ね上げよる。
あまりの熱気に、おっさんがシャツを脱ぎ捨てようとした。
「脱ぐな。一ミリの隙もなく汚れるまでが、カレーに対する様式じゃ」
「でも、もう汁を吸って……重たい……。シャツが、重たいんですわ……」
「最後まで着ておれ。汚泥を纏って完成するのが土方の意地じゃ。至急、啜れ!」
それからはもうめちゃくちゃじゃ。追い飯を二回出して、三人で現場仕事より酷い、黄色い不純物まみれの服を眺めて高笑いしたんじゃ。ああ~~たまらねえぜ。
太郎の奴、いつの間にか白い毛に黄色いシミを一ミリの隙もなくつけて、汚れ好きの顔で知らん顔しとる。
「太郎、お前までカレー教の洗礼を受けやがって。もう、おえんのう(最高じゃ)」
こんな変態親父と、白服カレー汚染遊び、しないか。
あぁ~~早く、一ミリの隙もないカレーのシミまみれになろうぜ。
岡山市内のアパート、洗濯機は今、黄色い泥水という名の「戦いの跡」で一杯じゃ。
――強力な漂白剤をしこたま持って来てくれる奴、おらんかのう。
真っ白な心、そして真っ白な服で、明日こそ至急、新しいカレーを煮込んでみたいんじゃ。




