游花水散 - 気高き花は川面に咲くか? -
仮想中国歴史風の恋愛って歴史のジャンルで良かったのでしょうか?
最近陛下が冷たい。
新しい寵妃姚貴妃のせいに違いない。
ヤバい。寵愛を奪われた妃嬪の行く末は凄惨なものであるのが世の習い。何か手を打たねば。
とはいえ、彼女の縁者を始めとした息の掛かった重臣たちは多く、後手に回ってしまった以上挽回するのは難しい。ならば一族郎党と共に隣国へと亡命するのが唯一生き残る道だろう。
私虞菲の亡命先に選んだのは従姉が重臣に嫁いだ婉の国。その名から想像されるようにかつてこの国洛の公主を娶った重臣が興した国である。(婉は女に宛がう)
なんて皮肉なのだろう。これからこの国の太子に取り入らんとするよう天が私を導いているとしか思えない。
従姉の夫鍾賢は実に頼りになる男であった。私たち一族の亡命をすんなりと叶えてみせたのだから。
というわけで私たちは現在彼の庇護の下この地にて再起を図ることとなった。
そして翌日、私の太子王操への謁見が叶った。
「おお……、それはなんともお労しい。
人を見る目のない王を戴く国に使える者の憐れさを感じずにはいられません。
私もいずれはこの国に継ぐ太子、かの者を反面教師としたいと思いますのでこれからも詳しくご教授をいただけませんでしょうか?」
こ、これはなんという好都合。まさかこうも物事が思うよう進むとは。
とはいえ私も一時は陛下──いや、今はそのように礼を尽くす義理もないわけだし袁昏と呼び捨てで構わないか──の寵愛を得た身、若い太子がこうして靡くのも不思議ではないか。
しかしあまりにもチョロ過ぎる。これではこの国の行く末が案じられる。まあ、それは国母の地位さえ得られれば私の好い傀儡となってくれるという利点もあるのではあるのだが。
本当に太子王操はチョロかった。さすがに太子妃の座までは得られなかったものの、それでも彼の寵姫としての立場を得ることには成功した。いずれは側妃、あわよくば正妃として嫁ぐことも可能であろう。
「喜べ虞氏よ、かの国に攻め込む手筈が調ったぞ!
それもこれもそなたが具に内情を教えてくれたお陰だ。
だが戦いはこれからだ。共にかの昏君に目に物を言わせるべく、これからも協力をよろしく頼む」
まるで私の望みの全てを知るかのように太子は物事を進めていく。なんだか少し怖いくらいに。
遂に婉が祖国洛へと攻め込んだ。そして戦は3日と持たずに終結。どうやら私の渡した情報は太子たちに巧く活用されたらしい。
「ぬ⁈ お前は虞妃⁈
そうか、お前が内通していたのかっ⁈
この忘恩の裏切り者めが!」
引き摺られてきた亡国の王袁昏が私を階下から私を見上げなから睨み喚く。
その様はキーキーと煩い猿のよう。まあ女に盛るだけしか能のない昏君ではそんなものだろう。
「それはとんだ筋違いの逆怨みですわ。
良禽択木という言葉も知りませんの? 賢い鳥は棲む木を選ぶものでしてよ。
況してや女に現を抜かし国を誤る、一顧傾城とは言えまさかそれを本当にやるお馬鹿さんに一国の王は務まりまるわけもなく、これもまた世の習いというもの。
ねえ、そうでしょ?」
かつて私を蔑ろにした者を嘲るように嗤う。
ああ、なんて恍惚感。今、正に私の復讐は果たされた。
階の上から刑に処される袁昏を眺め溜飲を下ろす。
だがしかし──。
「さて、それでは最後のひとりだな」
太子王操の言葉と伴に私は階下へと引き摺り下ろされた。
そして刑場へと連行されてくる一族の者たち。
「で、殿下、これはいったいどういうことでしょうっ⁈」
わけが判らない。
なぜ⁈ いったいどういうわけ⁈
「君が言ったのだろう? 女に惑わされ国を誤る者に王たる資格はなしと。私は君なんかに誑かされ好いように利用される馬鹿じゃないということさ。
そもそも君のしたことは外患誘致という売国行為。そんな裏切りを平然とする危険な者を受け入れる国なんて世界中どこを探してもないだろうね」
「な……」
つまり私は利用しているつもりで逆に利用されていたということ?
「こ、この、恩知らずっ! 鬼っ!
一生呪ってやるっ!」
一族郎党の処刑されていく中、私は有らん限りに王操を罵倒する。
だがそれもいったい何になるというのか。どんなに喚けども待ち受ける運命は変わることなく……。
「解ってるの? 君のその一生とやらはもう直ぐにでも終わるんだよ?」
私を嘲る王操の言葉、それが私の最期の記憶となった。
タイトルの『游花水散』は特定の四字熟語というわけではなく作品をイメージした造語です、ご注意ください。
意味合いとしては、花も水上を漂えば散るだけといった感じを意図しており、この作品の主人公の野心の落ち着く先を表せているのではないかと思っております。
なお、游は遊の異字体であり、日本では遊が、中国では逆に游の方が一般的らしく、游は水上、遊は地上を漂う感じの意味合いらしいです。
※この作品は人を呪わば穴ふたつというものをテーマとした作品です。
主人公が夫(王)の愛を失いその下を離れ他の男性(他国の王子)を頼るも利用され捨てられるという悲劇を描いておりますが、だからといって女性蔑視を意図したものではありません。ご了承ください。




