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石の民〜幽体離脱無双〜  作者: つぶり
第二章

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狩り

「アレク、ご飯だよ」

「はあい」


 気を練る訓練を終えたオレは、

母の作ってくれた朝食を摂り、

狩に出かける支度をする。


村の皆はオレたちを気にかけ、これまで養ってくれたが、

いつまでも世話になる訳にはいかなかった。

弓を背負い戸口から出ようとすると、

パタパタと小さな足音。


「兄さま、いってらっしゃい」


妹のフィオナだ。

豊穣の儀でその身と命を捧げた父が、

オレたちに残した最後の宝物だった。


「いって来るよ。いい子にしてろよ。」

「うん」


フィオナはこくりとうなづいた。

少し短くなってしまった袖から、

寒さで赤くなった手がのぞいている。


母と、フィオナを守る。

それがオレの決意だ。


あの時。

『ミツケタゾ』『マッテイロ』。


かつて夢の中で見た〝敵〟が、

むき出しの敵意をオレにぶつけながら宣言したことが、常に気にかかる。


オレが日々トレーニングをかかさないのも、

なんとかして敵から家族と自分自身を守るためだった。


しかし、こんな程度で敵を退けられるのだろうか?


不安は尽きない。


 それに、日々食わなければならない。

いつか来る敵も気になるが、

差し迫った問題としてはそちらの方が大きいのだった。


 家を出たオレは、森へ向かう。

谷川が小さな滝を作っているところに来ると、

古い石段が右手の崖に見える。


この先を登ることは禁じられている。

唯一許されるのが、豊穣の儀で火口の聖地に向かう場合だけなのだった。


オレはかつて白衣でここを登っていった父の背中を思い出し、

その胸中を想像した。


 滝を直進し、緩やかな斜面を下って行くと、

湿った土と落ち葉の匂いが鼻をついた。


まだ朝の冷気が残り、白い息が木々の間を漂う。

藪の陰で足を止め、耳を澄ます。


 身体を周囲の環境に同調させる。


呼吸は深く、ゆっくりにする。

脈拍を大幅に遅くする。

体温は周りの気温にまで下げた。


今のオレは、その辺に立つ木々と同じような状態だ。

自分と森の境界が朧になり、広がってゆく。

風が吹き寄せ、そのまま身体を通り抜けていくようだ。


 来た。

ノウサギだ。


100メートル先に、かすかな気配がチラリと揺らぐ。


同心円状に広げた意識の端で、小さな生き物の鼓動が、遠い波紋のように感じ取れた。


 弓を静かに構え、弦を引く。

藪の奥、灰色がかった白毛の小さな影が、

湿った落ち葉を鼻で探りながら進んでくる。

息を殺し、ゆっくりと狙いを定める。


指先から弦が離れると、

矢は細い風を切り裂いて飛び、

藪を抜ける音もなく背後に食い込んだ。

ウサギは一瞬跳ね上がり、痙攣するように二三度もがいて、ピタリと止まった。


 近づき、獲物を拾い上げる。

まだ温かい体が、手の中でわずかに震えている。

矢は心臓近くを射抜いていた。


血の滴る傷口から、赤黒い血が土に落ちる前に、

すぐに対応する。


喉元に石刃を当て、素早く一閃。

動脈を切断すると、心臓の鼓動に合わせて鮮血が勢いよく噴き出す。


土に受け皿のように穴を掘り、

その血をすべて流し込んだ。

ウサギの丸い目から生気が抜けていく。


ごめんな。


 血抜きが終わると、ウサギは急に軽くなった。

肩に弓をかけ、ウサギを逆さにして腰に括り付けると、

谷川のせせらぎを背に家路についた。


 家に着くと、早速皮剥ぎだ。

後ろ足の間にナイフを入れ、皮膚を慎重に切り開く。

春の毛並みはまだ厚く、

灰白の冬毛が抜けかけている。


指を皮の下に差し込み、ゆっくりと引き剥がす。

ウサギの毛皮にはさまざまな用途がある。


 内臓を露わにすると、

温かい肺と心臓がまだ湯気を立てている。

指を温かな腹腔に差し入れ、

腸・胃・肝臓をまとめて引き抜く。

ぐぼっという湿った音がする。


心臓と肝臓は調理用に残し、

残りの内臓は土に埋めることにする。


 残ったのは、骨格に張り付いた赤い肉塊。

小さな体からは、1キロほどの食肉が得られる。

意外と少ないものだが、

この時期のウサギは肉の乗りが良くうまい。

骨はスープの出汁に使う。

 

 ウサギを解体していると、フィオナが嬉しそうに近寄って来た。

手には香草が数種類握られている。

肉の匂いを消して旨みを増す香草だ。


「沢で摘んで来たの。今日はウサギのお鍋だね。」

「あぁ。早く食いたいな。」


母が嬉しそうにオレたちを見守っていた。







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