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石の民〜幽体離脱無双〜  作者: つぶり
第一章

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7/16

目覚め

 意識を回復するのに1週間を要した。

これまでオレは10メートルを超えて意識を飛ばすことはできなかった。

ところが先日の豊穣の儀の際には、オレの意識は遥か遠く、

聖地とされている山頂の湖まで行き、

そこで七日余りを過ごしたのだ。


本来の力を大きく超えてそのようなことができたのは、おそらくそこに父親がいたためだろう。

血の繋がった存在を依代にすることで、

自分の肉体を長期間離れることが出来たものと思われた。


 しかしその反動は大きく、この1週間は肉体を離れることもできず、

身体は高熱を発し、意識は混濁した。


 夢の中で、オレは夜空高くを飛んでいる。


下には、大きな黒い屋根の屋敷があった。

その周りには水田が広がり、

張られた水が月明かりを反射している。


植え付けられて日の浅い苗が、夜風にそよぐ様子も見えるほどの明るさであった。

ところどころ空を渡る雲が月光に輝き、

足元の世界は水底の美しさの中で、

静かにまどろんでいる。


 ふと、屋敷裏の竹藪の暗がりに目を転じた。


何かがいる。


見る間に、影のような何がが音もなく飛び出し、

こちらに接近して来る。


『危ない』


オレは本能的に、それが異質な存在だと理解した。


あれは恐ろしい敵だ。


 空を飛び、逃れようとする。

しかし、思うように飛ぶことが出来ない。

次第に高度が下がり、地面が近づいて来る。


敵の影は、田をわたり畦道を超え、

水路を飛び越えて一直線に迫る。


『ミツケタゾ』


冷たく荒い砂礫が意識の表面をガリガリと削り取るような敵意が打ち付けられる。


この世の生き物ではない。


薄れ始めた意識で、オレは聞いた。


『マッテイロ』


 汗にまみれて目を覚ますと、太く頑丈な梁の天井。

そして食い入るように覗き込む母親の顔があった。


あぁ、帰って来たな。


「ママ。パパが死んじゃった」


 オレが報告すると、母は顔をくしゃりと歪ませ、

オレの腹に押しつけて嗚咽を漏らし始め、

しばらくの間泣き続けた。


 豊穣の儀に向かう父を戸口から見送ったあの日。

父の姿が山道の向こうに見えなくなると、

母は、腕の中の我が子が意識をなくし、ぐったりとしていることに気づいた。


慌てて屋内に戻り、ベッドに横たえて毛皮をかけ温めたが、目を覚ます気配は一切ない。

半狂乱となった母は、集落に駆け込んで助けを求めた。


 神男として犠牲を引き受けた家の一人息子を襲った異変に、

集落は大変な騒ぎとなった。


集落中から医師やら、薬師やら、

果ては産婆や呪い師に至るまでが引っ張り出されて、診察やら祈祷やら、

呪いやらが行われたが、赤子は一向に目を覚まさない。


熱はなく、脈こそややゆっくりだが、

意識だけがない。

ずっと寝続けているような状態である。


父達一行を呼び戻す案も上がったが、

儀式を中断する訳にはいかないとの理由で却下された。


そうして数日が経過する頃には、人々の間には静かな諦めが広がり、

いずれ目を覚ますのではないか、

との意見で一致したのだった。

 

 やがて豊穣の儀で定められた七日が経過した。

父の世話役を務めた男たちは、

山を降りるとその足で真っ直ぐ、家にやって来た。


「申す。豊穣の儀は結願致して候」


戸口で母が応える。


「恐悦至極に存じまする。

ご苦労様でございました」


声を震わせながらも、

姿勢を正し深々と頭を垂れる母の、

見る影もなくやつれた様子に、

男達は驚きながらも礼を返した。


「こちらを」


父が最後まで身に付けていた褌と鉢巻きが手渡される。


「あぁあ」


母は父の遺品を胸に抱きしめ、

嗚咽を上げながらその場に崩れうずくまった。


男達は何をすることもできず、

もう一度お辞儀をすると、去っていったのだった。


 近所の者たちは、母の様子を心配しては、

食べ物を持ち寄ったり、家事を肩代わりしたりして励ました。


しかし夫を失い、一人息子が寝たまま目を覚まさない状況に、

辛い日々を過ごしていた。


もしも、オレが目を覚ますのがあと少し遅ければ、

「生きる気力を失ってしまうところだった」

と、

母は後になって語ってくれたのだった。

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