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石の民〜幽体離脱無双〜  作者: つぶり
第一章

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4/16

昔語り 石の民

 山里の冬は暗く、雪に閉ざされた。

窓の鎧戸を雪混じりの風が叩きつける。

板の隙間から侵入する風はひょうという音を立て、まるで死者の叫び声のようだ。


父は朝から集落の男達と狩に出ており、日が落ちてもまだ戻って来ていない。

秋の蓄えはまだあるものの、

「今年の冬は山に獣が少ない」

と、父を迎えに来た男達が話していたのを思い出す。


 母は囲炉裏端でオレを胸に抱き抱え、父の帰りを待ちながら昔話を始めた。


 ーその昔、〝石の人々〟がいた。

石の人々は不思議な力を持ち、

身体から心を離し、

鳥よりも高く空を飛び、

遥か遠くを見たり、

獣を操り狩をしたりすることができたという。


石や木にも意識を宿し、

遠くの者と思念を通じ、

果てには大地すら、

意のままに作り変えたそうだ。


 ところが石の人々には強大な敵がいた。

かつて大きな戦いがあり、その戦で人々は敵に敗れた。

生き残った者が遥かに落ち延びて来て、山奥に隠れ住んだのが、この郷の元々の起こりと言われている。


「谷川でお椀をゆすいではならない。洗濯をしてはならない。」


 これは郷が起こった頃からの決まりで、川の上流に人里があると知られないための掟であった。ー


囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、母の腕に抱かれたオレは、その温もりと共に揺らめく炎を見つめた。


雪が窓の鎧戸を叩く音が遠く、母親の声がゆったりと、まるで火の揺らぎに溶け込むように語る。


ーところが、そうして数百年が何事もなく過ぎたある日。

郷の一人が、新年を祝うための餅を搗こうと、米の研ぎ汁を谷に流してしまった。

そして運の悪いことに、数百年を過ぎてなお、

敵は捜索の手を緩めずに、辺境にまで手先を派遣していたのだった。


 川に白濁した水が流れているのを見た追手は、上流に人が暮らす郷があることを確信した。

襲撃の準備が始まった。


 川を辿って来た軍は、夕闇に紛れ、藪に隠れるように集落に近づく。

郷の人々は、新年を寿ぐ祭りをしている最中であった。

家を出て広場に集い、酒を飲み、唄を歌い、男女で仲睦まじい舞いを舞っている。


 まず、見張りに立っていたものが、弓矢の餌食となった。

間をおかず、人々の輪の中にも雨のように矢が降り注ぐ。

慌てた人々が篝火を押し倒し、火の粉が辺りに舞い散る。

周囲の暗がりから武装した兵士たちが鬨の声をあげて同時に襲い掛かった。


人々は取り囲まれ、斬り殺されていく。思いもしない敵襲に、人々はなすすべがなかった。


 ただ一人、身重のため家に残っていた女だけが、この襲撃の生き残りとなった。

女は、広場から聞こえてくる怒声や悲鳴に、何事かが起こったことを察して、家の裏手に逃げ、川べりの葦原の中に身を隠した。


 敵兵がその音を聞きつけて、近づいてくる。

葦原に踏み込むと、驚いた水鳥が一斉に飛び立った。


 敵兵は、物音が水鳥の立てた物だったと合点し、遠ざかっていく。

女は夜が更けるまで葦原に隠れ、敵が引いたと確信できた後に、焼け落ちた集落に戻ったそうな。


徐々に、逃げ散っていた者たちも郷に戻り始め、やがて村は再興した。ー


「だから、この郷では水鳥は撃ってはならないのよ。」


母はオレの背を優しく撫でながら、丸い瞳を細めて囁く。

笑い皺が柔らかく深まり、陽だまりのような声が深く響いた。



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