成長加速 魂の座
窓の外の緑は、
北国の短い夏をできるだけ
受け止めようとするかのように、
日一日と葉を茂らせ、
急速に濃くなってゆく。
オレもまた、赤子の肉体を
成長させることに集中していた。
意識は肉体から発するものであるから、
肉体が健康であれば意識も活発になる。
反対に、今のオレのように未熟な肉体では、
長時間意識を遊離させておくだけの力がなかった。
この新しく転生した世界は、どんなところで、
どんな危険があるのかを知るためにも、
意識離脱の技は必須と思えた。
この世界の新しい母親は、
オレが泣くたびに乳を含ませ、
下の世話をしてくれた。
父親も、
帰宅すると必ずオレの様子を見に来て、
なにくれとなく世話を焼いた。
オレは一日を寝て過ごしながら、
肉体の成長を早めるため、
意識を自らの体内に没入させ、
細胞の分裂し増殖する様や、
栄養が血管を通って
各臓器に届けられる様を観察した。
人体の内部はまるで一つの宇宙であった。
細胞の一つ一つが、
自律的にその役割を果たし、
それらが組み合わさって
より大きな機能を果たしていた。
心臓では、
筋細胞がたゆまず肥大化を続けていた。
送り出される血液に乗った赤血球は、
大動脈を通り、
その先の毛細血管に行き渡って、
あらゆる細胞に酸素を運んでいる。
免疫を担う細胞は、
体内に侵入した異物を取り囲み排除する。
ごく稀に、
新しい病原菌の痕跡が得られた場合には、
その情報をじっくりと分析し学んでゆく。
骨細胞の働きで
大量のカルシウムが固着され、
骨が急速に伸び、
また硬く丈夫に構築されて行く。
細胞達の発する化学言語の奔流が、
無音の交信網を形成し、
複雑な工程を律している。
まるで好景気に湧く
都市の開発工事の現場のように、
いやそれ以上に
赤熱するかのような
高速の代謝が昼夜を待たず進行し、
大量の栄養と全身の休息を必要としていた。
オレはこれらのプロセスを観察し、
時には自分の思うように介入を行った。
その作業の合間、
ふと前世の記憶にないものが
体内に存在することに気づいた。
それは腹腔内、臍の下辺りにあり、
わずかながら発光しているようだ。
豆のような大きさで球形をした器官である。
光の粒の流れが、
その器官から流れ出て、
また流れ込んでいるようだ。
光の粒は、
オレの意識と同質の手触りがあるばかりではない。
粒の細い流れを辿ると、
オレの意識体に繋がっていることがわかった。
もしかすると、
これはオレ自身を発生させている器官で、
意識体と肉体を結びつける
魂の座なのだろう。
オレは迷わず、その器官への血流を増やして、
成長を促したのだった。




