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石の民〜幽体離脱無双〜  作者: つぶり
第二章

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兄さまの変なところ

 朝、兄さまはいつものように庭の平らな石に座って目を閉じる。


大きな背中の背筋がピンと伸びて、

まるで石像みたい。


兄さまの周りの空気だけ、

いつも少し光ってるの。


でも友だちのラナや、〝アゼ〟のおばちゃんに言っても分かってもらえなかった。


私にだけ見えるんだ。


ああ、〝アゼ〟が何かって?

〝アゼ〟のおばちゃんはラナの親戚で、

ラナのお母さんのいとこのお嫁さんのおばさんで、

ラナのお父さんのひいおじいさんの、

ゴサイの妹の孫にあたる人なの。


ウチの家系からも頑張れば辿り着くらしいんだけど。


うん、私も全然分からない。


小さな村なのよ。

みんな大体親戚だから、違いと言えば、

せいぜい近いか遠いかくらいね。


みんな訳が分からないくらい

こんがらがった関係だから、

住んでる家が村のどの辺にあるだとか、

近くに何があるだとかで

普段は呼び分けてるのよ。


〝アゼ〟のおばちゃんちは、

田んぼの畦が近くにあるから、〝アゼ〟。


簡単でしょ?


なかには、子供の頃肥溜めに落ちて以来、

〝クソツボ〟

の名前をもらった爺さまもいるのよ。


子供の頃の小さな失敗を、

村全体が覚えているというのは、

なかなかに恐ろしいでしょう。


話が逸れたわね。


いま、私の目の前には大好きな兄さまがいる。

私よりずっと大きい石にすわり、

朝日がキラキラ光ってる。


寒そう。


 でも今日は、なんだかいつもと違う様子だ。

足を組んで、

手を膝に置いて、

呼吸がすーっすーって深くゆっくり。

‥ここまではいつも通りなんだけど。


「あっ」


急に、兄さまは声をあげると、

太ももの間の辺りが、

ぴくんって動いた。


顔がちょっと赤くなって、

眉間にしわが寄ってる。


気持ちいい夢でも見てるのかな?


「兄さま、どうしたの?」


そっと声をかけると、「んっ!?」ってびっくりして目を開けた。


なんだか慌ててる。


「フ、フィオナか。…なんでもない。

大循環の修行だ」

「だいじゅんかんの…しゅぎょう?」

「うん。身体の中の気を巡らせるんだ」


ふーん、よくわかんないけど、

太ももがピクピクするのは気のせいじゃなかったんだ。


ちょっと変わった匂いがするけど、

触れないでおいた。


「母さまがご飯だって」

「ぉ、おう、もうそんな時間か」


なんだかいつもより慌てて石座から立ち上がるとき、足元に妙な光の粒がちらつく。


昨日も、兄さまは狩りでとって来たウサギを捌きながらじっと見て、「動物にもあるんだな」とか呟いてた。


変なの。


 朝のお鍋を囲むとき、

母さまが香草を刻む横で兄さまはいつも通り食べてた。


でも、時々遠くを見て、なにか考え方をしたり、

母さまが聞こえないような小声で呟いてる。

私には何のことかわからないけど、

また夢でも見てるのかな。


 夜、母さまは神棚にお祈りする。

中には父さまの形見を納めてあるのよ。

その様子を見ると、いつも兄さまの目は暗くなる。


父さまは、私が生まれる前に「お山に行った」らしい。


詳しいことは村の誰も教えてくれない。


何となくあまり聞いてはいけない話なんだと思う。


兄さまだけが知ってるみたい。

光の粒を追いかけてるとき、いつもより大人びた顔になる。

怖いような、頼もしいような。


 私とは一歳しか違わないけど、

兄さまはすごく大人なんだ。

近所のおばちゃん達もよくそう言ってる。


兄さまが誉められると、私もすごく嬉しくなる。


父さまがいるということがどんなことなのか、

ちょっとよくわからないけど、

私には兄さまがいれば十分だった。


 変なところいっぱいあるけど、

香草を持ってくと、

「フィオナ、ありがとう」と笑ってくれる兄さまは、やっぱり大好き。


今日も石座の横に、山椒の実をそっと置いておく。


目を閉じたまま、「いい匂いだな」と呟く声が聞こえた。

その声を聞いたら、

私のお腹の辺りもぽかぽかとあったかくなった。


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