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隣の子爵家のお嬢様とぼく

作者: あおたん
掲載日:2025/12/14

ぼくには大好きな女の子がいる。

子爵家のお嬢様で、隣のお家に住んでいる子だ。


彼女は、いつだってきらきらしていた。

朝の光みたいな金色の髪に、湖みたいな碧い瞳。

そして、笑うと世界まで明るくなっちゃう笑顔。

彼女を好きになるのに、そう時間はかからなかった。


男の子なんて、きっとみんなそうだろう?

女の子が笑ってくれた。

それだけで全部がきらきらと輝きだしてしまう。

とても、簡単な生き物なんだ。


彼女より、ほんの少しだけ早く生まれたぼくは、

小さい頃、彼女のお兄ちゃんみたいな存在だった。


今はね、こんなぼくだけど。ちゃんと本当の話だよ?


転ばないか見張って、寒くないか気にして。

眠っている間もそばにいた。

守るのは、当たり前だと思っていた。


一緒に外で遊ぶようになった日々は、宝箱みたいだった。

かけっこをして、木の実を拾って、こっそり味見して。

怒られて、それでも笑って。

彼女が振る舞ってくれたご飯は、世界でいちばんおいしかった。


それだけで、胸が弾んだ。




でもね。

楽しい毎日はそう長くは続かなかったんだ。


女の子は男の子より先に大人になる。

どうやらそれは、本当のことみたい。


「はしゃぎすぎ!」「散らかさない!」


少しでも気を抜くと叱られた。

いつの間にか、ぼくはお兄ちゃんから弟に降格していた。


それに。

彼女とぼくとの違いはそれだけじゃなかった。

彼女は、きらきらしながら、少しずつ遠くへ行ってしまったんだ。

社交界に、舞踏会に、お勉強に、お茶会。

彼女の世界はどんどん広がって、ぼくの知らない色で満ちていった。


どんどん離れて行っちゃう彼女を見ていると、ちょっぴり寂しくて。

だから、ちょっとだけ怒ってしまったこともあったよ。


そして、あの日。

こっそりついて行った舞踏会で、ぼくは見てしまったんだ。

女の子が恋に落ちる瞬間ってやつを。


窓の外から眺める舞踏会は、まるでお花畑みたいに色とりどりで。

ぼくは嬉しくて、くるくる回った。そんな時だった。


彼女、ある男の子に声を掛けられて。

それで。へんてこな顔したんだ。


頬は真っ赤、目はきらきら。ぼくの前だったらすぐに笑うくせに。

あの人の前では恥ずかしがって笑顔を隠した。


ああ、そうか。

ぼくはもう彼女の恋の相手じゃないんだなって。

初めてちゃんと気がついた。


悲しかったけど、泣かなかったよ。

泣かなかった……、つもりだった。


でも、必死に涙をこらえていたら、

彼女に見つかってしまった。


「ついてきちゃ駄目よ!」


少し震えた声で、彼女は怒った。


うん。

ぼくだってわかってたよ。

帰りの馬車で、彼女は一言も話さなかった。

家に帰って、ぼくはこっそり泣いた。


これが、ぼくの初めての失恋。


それでも、ぼくは決めたんだ。

振り向いてもらえなくてもいい。

隣にいられなくてもいい。

彼女を笑わせる存在でいようって。


笑っている彼女が、いちばん好きだったから。


それからの毎日は、穏やかで、あたたかかった。

たくさん、たくさん笑わせた。

彼女の恋が本物だってわかっても、

その男の子とも仲良くした。




──でもね。

最近、体が言うことをきかなくなってきちゃったんだ。

走れなくて、跳べなくて。

尻尾をぶんぶん振って、笑わせることも難しくなった。


今は、彼女のお家で、布団にくるまっている。

昔、ぼくがかけてあげた布団を、今度は彼女がかけてくれる。


すっかり、立場は逆転さ。

彼女が流した涙を拭ってやることだって出来やしない。

男の子は女の子を笑わせなきゃいけないのに。

情けないよね。本当。


「ベル、ご飯よ。すこしでいいから」


君が初めて作ってくれた、ぼくだけのスープ。

やさしくて、あたたかい。


「ベル、抱っこ?」


へへ。少しくらい、いいだろう?

君だって、昔はぼくを枕にしてた。


「ねえ、ベル。覚えてる?あなた、よくお茶会に乱入してきたわよね」


覚えてるよ。

君に会いに行ったんだ。

ここにいるよ、って伝えたかった。


「それに、舞踏会にまでついてきた。庭でくるくる回っちゃってさ」


なんだ。気付いてたのか。

次は、もっと格好良く回るからね。


「あとさ──」


うん。

全部、ぜんぶ忘れないよ。


言葉にできないけれど、

撫でられるたび、ぼくの心は、きらきらする。


もし、もっと長く生きられたなら。

最初から、違う運命だったなら。


それでも、きっと。

ぼくは同じ選択をした。


君のそばで、

君の笑顔を、見守ることを。


「大好きよ、ベル」


うん。

ぼくも、大好きだよ。


きらきらした君の世界が、これからも、ずっと。

朝の光みたいに続きますように。



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