彼女の後ろには、王子がいる
読みに来て下さって、ありがとうございます。
最後の語り部は、第一王子キグナスです。
第一王子キグナス side
影と呼ばれる護衛達が、サイラスとグレイスを襲った生徒達を拘束した。
奴らは、退学の上、国外追放して傭兵共に売り渡すか?国境の兵士として前線に配備して鍛え直して使うのも、有りだな。
「ああ、グレイス。大丈夫だったか?」
私は、立ち尽くすグレイスを掬い上げて、世間の令嬢が騒ぐ、お姫様抱っこなるものをしておいた。
まったく、誰が流した噂か知らないが、ここで仲の良い所を見せつけて、噂を払拭せねばな。
婚約破棄だなんて、冗談じゃない。どうして、可愛くて愛しいグレイスを、他の男にやらなければいけないんだ?
私のものに決まっているだろう。
義弟にだって、そうだ。いくら可愛い女の子の様な義弟だとしても、男だぞ。どう見たって、グレイスを欲しがってるじゃないか。見ろ、あの悔しそうな顔を。
グレイスは、義弟を心配しつつも、顔を赤くしている。
「キグナス殿下、私は大丈夫ですので、降ろして下さいませ」
「顔が赤いぞ。大丈夫じゃなさそうだ」
さて、このまま執務室に連れて行って、愛でるとするか。
「殿下、お持ち帰りは、厳禁です」
マルセルが、ボソッと呟いたが、無視、無視。
怪我がないか確認して、介抱するだけだってば。信用ないな。
ちょっと、念入りに確認したり、するかも知れないけどな。
午後の授業は、グレイスと共に休んで、私は、じっくり念入りにグレイスの怪我が無いか確認し、ゆっくりグレイスを介抱した私は、今は、グレイスを膝の上に乗せ、グレイスに菓子を食べさせている。
ふむ、まだ介抱の途中とも言うな。
「殿下、いい加減にしないと、グレイス様が、今度は人事不詳になってしまいますよ」
「その場合は、ベッドに連れて行って介抱しても許されるな」
膝の上のグレイスが、益々、顔を赤らめて、頭をブンブンと横に振った。
介抱するだけだ。介抱。
執務室のドアがノックされ、マルセルが開けた扉から、グレッグがスッと入り込んだ。
「報告書を、お持ちしました」
彼は、私に1枚の紙を手渡した。『結婚許可証』?だよね。
「今回の件の主犯は、そちらの書類の通り、私の方で、拘束済みです。後は、国王陛下の承認をお願いします」
セリーナ嬢、拘束されたんだな。まあ、結婚はね、一生の拘束だよな。
「あれ程、我が家の嫁に相応しい者は、中々居りません。キチンと調教して、私共々、子々孫々、今後のお役に立てるかと思います」
早速、子供をたくさん作る気、満々だよね。
「王家の勅命が必要?」
「いえいえ、セリーナ嬢の子爵家には、こちらから少々睨みを効かせて、これからご挨拶に参ります。
叩けば、ホコリくらい、いくらでも出そうですよ。承認のみ、お願い致します」
まあ、落とし所としては、丁度良いかな。私の失態にもならず、こちらの件は、有耶無耶に。
「あの、調教って」
グレッグが退出すると、少し青ざめた顔で、グレイスが私に小さな声で聞いてきた。
うーん。そんな顔も、可愛いよね。食べてしまいたいぐらいだ。
「まあ、グレッグの家の嫁になる為の試練?かな」
私がそう言うと、グレイスは、少し安心した顔になった。まあ、言い方だよね。
「調教か~。調教。調教は、調教ですよね」
いや、何か、お前が言うと、いやらしく聞こえるのは、私だけか?
また、妙な妄想をしているな。グレイスの前で、妄想するな。グレイスが、汚れる。グレイスに空気汚染だって、するかもしれない。
「おはよう、グレイス」
私の学園での1日は、グレイスの馬車を迎えてグレイスを教室までエスコートする事で始まる。
「おはようございます。キグナス殿下」
グレイスの綻ぶ笑顔で始まる1日の朝は、至福の時となる。
グレイスの弟のサイラスが白けた顔で私に挨拶するが、私の知った事では、無い。
「朝は、姉上の出迎え、昼休みは姉上の教室にまで迎えに来て二人っきりで昼食、授業が終わると殿下の馬車で公爵家まで送っていただいて」
最近では、いつも、お義姉様の後ろには必ず殿下が居る様な気がします。
と、サイラスが独り言ちる。
良いんじゃないかな。それで。うん。
Fin
「殿下、卒業後は、どうするんですか。ストーカー廃業ですか?」
「失礼だな。講師として学園に通うか。研究員として在学するか、悩ましい所だ」
「じゃあ、私は令嬢の体育の講師とか保健医の補助ですかね」
「お前は、私の側に控えて仕事しろ。風紀が乱れるだろうが!」
役得が欲しいマルセルでした。
これにて、このお話は、お仕舞いです。読んで頂いて、ありがとうございました。
途中、ちょっとダークになりつつも、書いて楽しかったです。
連載中の『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』も、よろしくお願いします。




