140文字小説まとめ21
海で遊ぶと、足を引っ張る女性の幽霊がいるらしい。だから、思い切り海に遊びに行った。海を泳ぐ内、急に足を引っ張られた。振り返ると、恐ろしい形相の女性がこちらを見つめている。
「俺だけ、死にきれなくてごめんね」
心中した時、先に逝った彼女を抱きしめ、一緒に海底へと沈んでいった。
『自ら』
お母さんが、この間出ていった。お父さんと一緒は嫌じゃないけれど、お母さんもいてほしい……。友達とお出かけしている時も、学校から帰る時も、無意識のうちに探してしまう。それが功を成したのか、お母さんを見つけた。知らない男の人と、笑い合っていた……ああ、もう『お母さん』じゃないんだ。
『さみしい』
太陽が、僕の肌を赤くするために、意地悪していた。前には、ひとりでには絶対に開いてはくれない、壁が立ちはだかっている。叩いても押しても引いても、ダメだった。今回に限って、鍵を忘れてしまうなんて……。親は、出かけているから……。大丈夫、待ったら来る……できるだけカゲのとこ、涼ん、で
『はいれなぃ……』
「何故警察を辞めて、探偵に……」
彼は、綺麗な笑顔で語った。
「グレーなところも関係なく自由に捜査できますし……警察だからといって、法に従事して罰さなくて良いんですよね」
「私に汚職の濡れ衣を着せて、のうのうと平和に生きている貴方に、重い罰を与えられるんですよ。元同僚さん?」
『探偵の皮』
また、大きく背伸びをした。背伸びしすぎて、爪が割れちゃったから、爪切らないとな。
「ん? どうしたー?」
先輩は、そんな私を知らずに笑顔を向けてくる
「背伸びしたら、大人になれるかなって」
なんだそれ、と先輩は笑って、美人の恋人を見つけて走っていった。爪先が、じん、と痛んだ。
『ふかづめ』
太陽が、僕の肌を赤くするために、意地悪していた。前には、ひとりでには絶対に開いてはくれない、壁が立ちはだかっている。叩いても押しても引いても、ダメだった。今回に限って、鍵を忘れてしまうなんて……。親は、出かけているから……。大丈夫、待ったら来る……できるだけカゲのとこ、涼ん、で
『はいれなぃ……』
家の物置に、神様に嫁入りする方法の本を見つけた。神様が醜く恐ろしい姿である事が詳細に書かれていて、読むのをやめた。イケメンだったら考えたのに。しかし今、神様が私を攫いに来る夢を見ている。これは、夢、だ……
「夢じゃないよ、君を迎えに来たんだよ」
あの本を、見つけてくれたから。
『神様の嫁入り』
「ねぇ、あそんでよ!」
見知らぬ子供が、私を呼び止めた。あまりにも可愛らしいかったから、日が暮れるまでたっぷり遊んだ。子供は満足したみたいで、嬉しそうに去っていった。
昔話ではよく聞くけど……現実で見るのは、初めてね。
黄金色のしっぽが、子供のお尻で、元気よく揺れていた。
『隠れてないよ』
強い日差しを、枯れた花が生えた、植木鉢に浴びせた。元気に、大きくなってほしい。お水もたくさん上げて、陽の光も今までたくさん上げてきたのに。どうして君は、こんなに元気がないの?
「……もう、限界なの。受け止めきれないの」
花はか細く囁いて、日が暮れる瞬間、静かに息を引き取った。
『耐えきれない想さ』
「こっち、行きたい」
隣でまったり歩いていた彼女が、俺の手を引っ張った。……待て、この道は……。止まった足音が、閑静な住宅街をより際立たせる。彼女は、笑顔を浮かべた。
「ずっと、貴方の浮気を改めさせる方法考えていたけど……浮気相手の元へ送ってあげる方が、一番良いって思いついたの」
『手放し』
お金、足りない。お母さんの誕生日プレゼント、買えない……せっかく大きな花束プレゼントしたかったのに。
「……ごめんなさい」
一輪だけでも、綺麗だし……それでいい、大丈夫。
「お金は、これで十分だよ」
店員さんが朗らかに笑った。
「花束を無事買えた、君の笑顔が、残りのお代ね」
『お代は、笑顔』
お爺ちゃんが、ぼんやり縁側で座っている。そろそろご飯の時間だから、声かけないと……。
「お義父さん、御飯できました」
「……おお、ありがとうございます。圭子さん」
今日も孫の私は、わざとお母さんのフリをする。お爺ちゃんと呼ぶことも、私の事を思い出すことも、限りなく、ないだろうから。
『お母さんごっこ』
待ちに待った、愛する人との結婚式だ。周囲の人から反対されても、生涯かけて愛すと誓い合った私達を、誰にも止められない。私は純白のドレス、彼には純白のタキシードを着せた。
「病める時も、健やかなる時も……来世でも、将来愛し合う事を誓います」
私は彼が眠る棺に入り、毒薬を一気に飲んだ。
『冥婚心中』
巨人は静かに、涙を流した。私は巨人の手に乗っているから、時節涙で全身が濡れる。
泣かないで、どうしたの?
優しく声を掛けても、巨人はさめざめと泣くだけだった。その内、地上が水浸しになって、水没してしまった。我に返った巨人は、紺の状況にまた泣いた。私はただ、巨人の掌にすり寄った。
『悲しみだけじゃ、』
猫が、心配そうに私を見上げていた。私は元気よ、大丈夫よ。でも、震える手は収まってくれない。猫は気遣ってか、私の頬を舌で慰めた……ごめんね、ありがとう。
飼い猫なのか、野良なのかも分からない。けれど、この猫は私の生きる希望だ。
今日も窓を開けて、あの猫が来るのをいつまでも待っている。
『慰めを待つ』
野原を駆け巡ると、草花が私の足元を擽る。何十年ぶりだろう、ここを走るのは。大人になって、全く足を運ばなくなってしまったから、久方ぶりに赴いて、胸が無邪気に高まる。これで、社会の荒波も駆け抜けられそうだ。
「ありがとう」
そのままの勢いで波に飛び込む私に、草花は鼓舞するように揺れた。
『童心に返る』
「これ、あげる!」
子どもから、おはじきを二個もらった。
「ほしいおもちゃ、さがしてくれたから!」
笑顔で去っていく背中に、思わず声を掛ける。
「店員のお仕事だから、いいんだよ?!」
小さな背中はあっという間に、店の外へと飛び出した。私の手にある清らかなおはじきが、一瞬だけ輝いた。
『純粋なお礼』
あの子は運動が出来て、あの子は頭がいい……私は何にも、持っていない。
「そんなことないよ、あなたにもすごいものがあるよ」
「……どこですか?」
相手は口をつぐんで、絞り出すように答えた。
「優しい、ところ」
何回も聞いた、おんなじ答えだ。胸の底で、また乾いた、ひび割れの音が聞こえた。
『ない』
雲は太陽が好きすぎて、近寄る度覆い隠してしまう。太陽は器が広いから、容易に受け入れる。そのせいで、渡り鳥の僕は飛ぶ度に、いっつも寒い思いをする。震える僕を見た太陽が、苦笑した。
「ごめんね」
太陽はギラギラと輝き始め、雲は暑さに耐えきれなくて散らばった。僕は、離れて飛んだ。
『暑さの原因』
パパの嘘には、いつも騙されている。
ママの手伝いしないと、鬼が叱りに来るよ。
おへそを出して寝ると、妖精が取っていくよ。
お菓子を食べ過ぎたら、お腹が膨れて空へと飛んで行っちゃうよ。
嘘ばっかりだったのに……どうして、もうすぐ病気でいなくなる事は、嘘って言ってくれなかったの。
『うそつきパパ』
高校生ぐらいの男の子が、町内当番のゴミ捨て場掃除をしていた。ご両親は問題があるのに、あの子は立派ね……。
「こんにちは……お掃除、ありがとうね」
おずおず声を掛けると、男の子は笑顔を向けた。
「家を、綺麗にしたついでですよ」
男の子が掲げたゴミ袋は、真っ赤な液体が大量についていた。
『綺麗にしましょう』
世界の各所に、血濡れた赤い花が咲いた。道路を埋め尽くすように、店を覆うように、人を隙間なく飾りつけるように……。開発者である僕は、どんな名を付けようか、考えあぐねていた。花たちの養分になる前に、早く決めなくては……あ、そうだ、こんな名前はどうだろう――突然、視界が赤く染まった。
『花盛りに阻まれて、』
何もない海の底に、僕は一人潜る。向かうは、深海で彷徨う想い人だ。浮力に逆らって、必死に体を沈ませる。……見えた、想い人だ。一生懸命に、手を伸ばす。
「ここが、いいの」
想い人は困ったように笑って、手をはたいた。呼吸が出来なくて、苦しいと思ったのに……。想い人の顔は、晴れやかだった。
『心地良い、ところ』
気まずい……男女のカップルが、住宅街の真ん中でいちゃついてる。夜遅くで人通りもないから、大丈夫だと思っているのか。家を迂回するかどうか迷っていると、ふと女性が男性を睨みつけた。
「ねぇ、ミミって誰? まさか違う女と間違えて、私の事を呼んで……」
「ち、違うよ?」
おし、迂回しよ。
『修羅場の始まり』
死にかけで苦し気な犬の上に、死神が立っていた。鎌を持ち、ボロボロのフードを被って見下ろしている……俺はほぼ毎回、これを見かける。霊感が強いせいだ。今日も知らないふりして、素通りしよう。
ふと死神が、犬に触れる。
『ゆっくり、お休み』
犬の顔つきが穏やかになり、眠るように引き取った。
「死神の弔い方」
急に、目の前が真っ暗になった。今まで笑っていた娘の顔も、それにつられて微笑む妻の顔も、全く見れなくなってしまった。どうして、こんな事に。
「……あの患者様の容態は、どうですか? 先生」
「身体的な問題はないが、自分で事故を起こして、家族を殺した事による精神的な問題は、根深いね」
『まっくら。』
今日も、魔法少女の私は街を救った。街を脅かす怪物を倒して、町の人々から感謝の言葉を貰った。私は皆に手を振って、夜空を横切る。
「次も、派手に暴れて」
俯く敵のボスに、煙草の煙を吹きかける。倒すことなんて一瞬でできるんだから、私の承認欲求を満たすぐらいはしてもらわないと。
『魔法少女の裏の顔』
『今ね、デートしてるの』
愛する妻から、メッセージが送られてきた。いつものか……呆れ笑いが零れる。
『楽しんでます!』
生まれたばかりの息子を抱っこした、妻の写真が送られてきた。
「ちょっと、スマホばかり……」
「分かってる。大好きなお前を見るよ」
こっちのデートも、楽しまないとな。
『遠距離ダブルデート』
泊まった温泉旅館で、殺人事件が起きたらしい。だが、すぐ片付いた。とある旅行客に、アリバイがなく証拠等が出てきたので、任意同行したのだ。現場も、跡形もなく片付いていた。
チェックアウトの準備と殺人の証拠を片付けて、旅館を後にする。楽しめて、よかった。また来よう……人を殺しに。
『楽しめた』
お母さんと、はぐれちゃった。せっかく遊園地に、遊びに来れたのに……。その時、ピエロさんが現れて、優しく手を引いた。お母さんを見つけてくれるかも。ついていくと、サーカスのテントへ入り、ピエロさんは低い声で言った。
「お前は、今日からここで働いて暮らす。お前の母親と、話はついてる」
『身売り』
「このアンチ、ヤダ……」
趣味で、顔出しなしの配信活動をしている恋人が、落ち込んでいた。一つのアカウントを指差して、鼻を啜る。
「好き勝手、言い過ぎなのよ……」
「悲しむなら、もうやめた方がいいよ」
そうしたら、俺だけのものにするために、お前にアンチ活動せずに済むからさ。
『すぐ、そこに』
「一緒にいるよ」
無邪気に笑う横顔に、泣きそうになった。けれど、敢えて険しい表情を作る。
「必要ない」
余命いくばくかの奴のために、時間を使わないで、幸せになってくれ。
これを言ったら、君は無理にでも一緒にいようとするから。
言葉を飲み込み、彼女から強引に背を向け、走り去った。
『わざと別れる方法』
地元に帰省したため、アポ無しで親友の家に突撃した。あいつなら、快く迎えてくれるはずだ。だが、玄関先で即断られた。
「悪いが、今忙しくてな……」
目が笑っておらず、表情に苛立ちが滲んでいた。何だか不気味に思い、すぐ帰った。
その後、親友は逮捕された。自分の恋人を、監禁していたらしい。
『犯罪者』
きゅっと指を握られ、まだ行かないで、と言われているようだ。指を差し出したのは私だけど、仕方ない。もう少し、いよう。離れるのは寂しいからね。
「さっさと家事していきなさいよ……この子は私が見るから」
呆れた母が、横から生まれたての娘を抱き上げる。
繋いだ小さな手が、離れていった。
『はなれて、さみしい……』
「ここで、寝る?」
滑らかな腿を優しく叩き、促してくる。叔母は、まだ自分を子供扱いしてくる。俺は、多感な男子高校生だというのに……。でも、眠気は限界なことは確かだ。この人の幼い息子たちの相手で、疲れたから。
結局、力なく頭を預けた。小さい頃の無邪気な恋心が、蘇った気がした。
『幼い時』
羽がもげてしまった蝶々が、地に横たわっていた。大変だ……僕の羽毛をつけよう。けれど、どうくっつけても、離れていってしまう。その内、蝶々は動かなくなってしまった。
天使の羽は、君に合わなかったんだ……。
助けてあげられなくて、ごめんね。
涙を浮かべながら、そっと蝶々を撫でた。
『慈しむことは、できない』
星空の中を、泳ぐように飛び回る。大きくなったら、やってみたいことが叶った。母や兄弟達の背中を見ずに、たった一匹で星空を飛ぶ。これで、立派な成鳥だね。段々と風が冷たくなってきた……巣に戻ろう。一人で作り上げた、居場所へ帰ろう。再度力強く羽ばたくと、流れ星が僕の後を追いかけて行った。
『成鳥の証』
「『冷蔵庫、開けっ放しだよ』……?」
変なコメントに、首を傾げた瞬間……
ピーー
部屋の奥で、音がした。リスナーに一言伝えて離席すると、なんと冷蔵庫が開いていた……側には眉を顰めた母が、スマホを持って立っている。
「配信もいいけど、身内のメールも確認して」
いや、あんたが閉めろよ。
『コメント連絡』
コンビニに、警察官が来た。何かしちゃった!? と思ったら、買い物に来ただけだった。ご苦労様です。心の中で呟きながらレジをして、商品を手渡した。すると、スーツの方が数人、店に入ってきた。
「離れて! その人は、警察の変装した凶悪犯だ!」
こめかみに、細長く冷たいモノが、当てられた。
『騙し』
「戻っても、楽しい事なんてない。ただ辛いだけ」
「そんな悲しい事、言うな。お母さんだって、お前を心配して……」
「新しくできた彼氏と、イチャイチャしてるよ……どうせ、また放置されて野垂れ死ぬ」
父は辛そうに顔を歪ませ、僕の手を取った。
「……一緒にいくか?」
僕は力強く、頷いた。
『手を繋いで』