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星が降る夜に  作者: 蒼蒼
3/5

夢のお話で

「母さん!」

僕は病室のベッドの上で寝ている母親を呼んだ。

隣では妹が母の右手を強く握っている。母の身体にはいくつもの管が通っている。

母さん死なないで。母さん、母さん!…僕らは今まさに母を見送ろうとしていた。

まだあの人は来ていなかった。

心電図の波が少しずつ小さくなり、横から微かに泣き声が聞こえてきた。

「ちぃ、まだ母さんは死んでいないんだ。泣いちゃ駄目だろう…」

震える声で泣き声の主である妹に言った。

彼女は僕が泣いている事にも気付いているのだろう。しかし彼女は何も言わずただ黙って頷いていた。

それがありがたくて、そう思ってしまう自分自身が情けなかった…


…時計を見るともうお昼をまわっていた。

今日は大学の授業はないから急ぐ必要はないんだけど。

外はかすかに雨が降っていた。

なんかすっごい嫌な夢を見ていた気がする…。

「しかし何でちぃは起こしてくれなかったんだ?」

僕は妹に文句を言う。が、返事は帰ってこない。

ここは一人暮らし用のおんぼろアパート。今の声量だったら部屋のどこにいてもきこえるはずなんだけど…。

ふと食卓を見ると、昼食用のお弁当と何やらメモが置いてあった。


お兄へ

起きるのが遅いから手紙にしました。今日はかーくんくんの家に泊まるね~。家のことはよろしく。ご飯は冷蔵庫の中のものを食べちゃってください。では一人の時間を楽しんで~。

               千尋


僕は読み終えると冷蔵庫の上にあった食パンにバターを塗りフライパンにのせて焼き始めた。

かーくんとは幼馴染みの楓くんのことだろう。ちぃは彼とは中学生になった今でもよく遊んでいるという。

僕はちぃのおかげで今こうして普通に生活できているんだと思う。

母さんが死んでから、金銭面ではなく崩れかけていた僕の精神を支えてくれた。

やべなんか涙出てきた。

あそうだ進級祝いにちぃにプレゼントを贈ろう。ちぃの好きなものは……

ーピンポーン!

「……!」

声にならない悲鳴が僕の口からでた。

誰だかは分からない。ただ背中から滝のような汗が噴き出していた。

僕の第六感がドアを開けるなと言っているように…。

「は、はい」

ちょっと裏返ったけど声でインターホンに出る。

あれ?返事帰ってこないじゃん。カメラにも映ってないし。

「もしもーし」

「はい小林です」

「あびゃーーー!」

すぐ横から声がして思わず変な声が出てしまった。

「あれもしかして君寝てた?天使の春華ちゃんが朝から大学に行ってたって言うのに?ってかこの私が来たっていうのに出迎えもないの?そもそも人間みたいな下等生物が高貴な私に関われること自体…………」

まだペラペラとしゃべっている彼女に溜め息がでた。

今まさにこの状況がインターホンが鳴ったときに恐れていた事だった。

星空の夜にカフェ(実際は公園)に連れて行かれた日から2日、一切のコンタクトをとってこなかった。

実際僕もあの日で関係は終わるだろうし、終わらせたいと思っていた。

それなのに…。

「なんで僕の家を知ってるんですか?なんで勝手に人の家に入ってるんですか?なんでそんなに全身びしょ濡れなんですか?」

「あぁ~ちょっと待って!ひとつずつにして!頭がおかしくなりそう」

「もう今更でしょう」

「ヒド!」

そんな馬鹿みたいな会話をしてるうちに夢のことも忘れてしまっていた。……いや別に春華のおかげってわけではないからな。


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