終わりと始まり(最終話)
寝不足な体で何とか授業をやり過ごし、部室にたどり着くとしたり顔の部長が待ち構えていた。
「答えはわかったかな」
「あれはミステリというより、ギミックじゃないですか……」
「読者に推理させる、という点では一応推理小説と言っても良いんじゃない?」
「いやいや、ダメでしょう」
「気に入らなかった?」
「それは……」
刈谷が短く区切って投稿したのには意味があった。
タイトルに従って、各話の最初と最後の段落だけを読むと、俺への手紙になる。それだけだけど、それだけのためにわざわざ作られた物語だ。
小説のストーリーは、メッセージを覆い隠すためのものなので、違和感さえ与えなければ割とどんな内容でも良かったんだろう。
むしろ早めに種明かししたかったから、あんなインパクトのないストーリーだったんだ。
この場に刈谷がいたら「ねえ、どうだった?」と得意げに聞いてきただろう。
そして俺が起承転結の弱さを指摘するまでが、彼女が想定する流れだったに違いない。
「……刈谷はミステリを全くわかってない」
「まあね。前にホームズとか例にあげてたけど、有名なタイトルしか読んでないと思うよ」
「多分アイツの中で、推理小説って子供向けの『名探偵〇〇シリーズ』みたいなもので止まってるんだと思います」
「確かにあの手の本って、そういう仕掛けが好きだよね」
具体的にどの本とは出てこないけど、俺のイメージは充分部長に伝わったようだ。
「──今度は俺が、推理小説が苦手なやつでも楽しめる作品を書いてやります」
誕生日プレゼントは、もらったらお返しするのがマナーだ。
作文が嫌いだとか、創作物を読まれるのが恥ずかしいなんて感情は、もらったものを返すという大義名分の前では大したものではない。
文集に載せるのは勘弁してもらいたいが、刈谷がやったように匿名で投稿するのであれば全く問題ない。
極めて私的な自己満足の代物が出来上がるだろうが、これだけ大量の作品が連日投稿されているのだから一つや二つこんなのが混じっていても良いだろう。
「おおっ! まさかの展開!」
「でも俺、小説の書き方なんて知らないし、アイツの誕生日までに間に合う自信ないです」
プロットと言えばいいのか、話の筋やトリックを考えるのは問題ない。
今度は自分が書いてやろうと思い立ってから、ずっとネタを考えているが何とかなりそうだ。
実は寝不足なのは、刈谷の残したメッセージを探していたからではなく、自分が書く話を考えていたからだ。
悪いがタイトルに違和感があったので、謎は簡単に解けた。最終話が投稿されて数分で、俺の謎解きタイムはあっさり終わった。
「そこは努力だよ! 私も協力は惜しまないよ!」
「じゃあ俺が話考えるんで、部長が書いてください」
「え?」
俺たちはたった三人の部活仲間。尊敬する部長をハブにするなんて、俺にはとてもできない。
「過去に文章書くのが苦手な先輩が、タッグ組んで小説書いたって聞きました。──今、協力するって言いましたよね」
「えーっと、ちなみに何文字くらい? お返しってことは、同じくらいのショートストーリー?」
スマホを弄って、刈谷の小説が何文字で書かれているかをチェックする部長。
嫌だな部長。俺はそんなみみっちい真似はしませんよ。
「ちゃんとした推理小説が、そんな短いわけないじゃないですか。しかもファンタジー好きに捧げるんですから、勿論異世界もので世界観も作り込みますよ。文字数なんかに囚われては良いものはできません」
「いやいや。そこまでする必要はないんじゃない? 大事なのは気持ちだよ」
「そう気持ちが大事なので、文字数なんか気にしちゃダメです。やるからには、生半可なものを作る気はありません」
「でも私に書かせる気なんだよね!?」
「部長。二人三脚で頑張りましょうね」
刈谷。俺だってお前が思っている以上に、お前のことが好きなんだ。
部長は受験があるし、今年の誕生日には間に合わないかもしれない。
でも何年かかっても絶対完成させてやるから、気長に待っていてほしい。