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終わりと始まり  作者:
7/8

始まりと終わり 第三話(20××/6/4 00:00) 

「う〜むむむ……」

 ここ数日、たった一つの悩み事が頭を支配している。

 そろそろ相方の誕生日。なのに、奴に何をプレゼントするか全く決まらない。

 喜んで欲しいけど、万年金欠の身としては相手を満足させるようなものを購入できるとは思わない。

 手作り……は、人によっては地雷だろう。

 どうせなら記憶に残るものを贈りたい。


「この間は傷心の俺を見かねて酒奢ってくれたしな。少なくともその分以上のものは返したいよな」


 仕事終わりに独身男二人で酒場にくり出したのは良い思い出だ。

 帰りが遅くなっても、文句を言う相手はもう居ないので朝まで飲んだ。

 今まではミリアに気を遣って酒量を控えていたけど、これからは自由だ。ここは冒険者の町だから、夜通し開いている店も多い。冒険者様万歳!


 俺がギルドのカウンターでああでもない、こうでもないと頭を抱えていると、ドンッとその存在をアピールするかのような乱暴さで「なにか」が置かれた。

 のっそりと音の発生源に顔を向けると、その「なにか」と目が合った。ゴブリンの生首だった。

 連中は瞼がないので、濁った瞳と苦悶の表情が凄い迫力だ。


 数年前の俺だったら、驚いて椅子から転げ落ちてたと思う。

 今はもうそういう純粋な心は失ってしまったので、慌てず騒がず直視する。年取ったな俺も。


「これは珍しいですね。どこで討伐されたんですか?」


 普通のゴブリンであれば討伐の証として、耳を切り取って持参すれば済むのだがこれは特殊個体だ。

 全身だと流石に嵩張るので首だけ持ち帰ったようだ。


「ベインの牧場だ。できたばかりの巣穴だと思ったら、西の山まで繋がっていて大規模な群れができてた。コイツはそのリーダーだった」

「死傷者はいますか?」

「ついでに別の依頼をこなすつもりで、大人数で組んでたから死者はいない。軽症は二名」

「それは良かったです。聖水購入されますか?」

「手持ちのがあるから要らん。鑑定に時間かかるなら、支払いは後日で構わない。とっとと宿に帰りたいんだ」


 損害は少なかったようだが、男達は泥まみれだ。

 冒険者なんて職業を選ぶくらいなので、潔癖症ではないだろうが、それでも早く洗い流したいんだろう。


「では明日の昼以降にお立ち寄りください。新しくできた大衆浴場ですが、ちょうどギルドと業務提携することになったので身分証提示すれば半額で利用できますよ」

「そりゃ助かる!」


 俺の言葉に、男達が湧いた。

 彼らは次々に戦利品を並べると、いそいそと汚れを落としにいった。


「大きな巣穴なだけあって、拾得物が多いなあ」


 魔物を討伐時に得る魔石。指定された魔物を討伐した証として体の一部。

 その他に魔物が隠し持っていたアイテムや財産になるものは、ギルドが一旦預かることになっている。その中に遺品や盗品が含まれていれば、然るべき相手に渡して拾い主には謝礼金を払うのだ。


 まあ、価値のあるアイテムや金貨であれば黙って懐に入れる輩が多いが、もしバレたら罰則が課せられる。

 命に関わるので冒険者は仲間との結束は固いけど、依頼の取り合いでライバルは容赦なく蹴落とすスタイルだから分不相応の道具を持っていれば、すぐに密告される。

 安定とは程遠い職業だから、活動停止措置されたらあっという間に生活できなくなる。


「あれ? これって……」


 想像していたものより小ぶりだが、過去に聞いた特徴と完全一致している。でも、こんな偶然あるのだろうか。


「うーん、ゴブリンの被害に遭ったとは聞いてないから、単純に山で紛失したのを連中が拾ったのかな」


 山を越える際に落とした可能性は十分ある。本物である確証はないけど、俺はその髪飾りをこっそり買い取ることにした。



 誕生日当日。

 俺は仕事終わりに相方を飲みに誘った。独りで過ごす誕生日って辛いよな。


「これ。前に言ってたお袋さんの形見によく似てないか?」

「……どこで手に入れたんだ?」

「西の山にあったゴブリンの巣で見つかった。やるよ」

「やるって……」

「くすねちゃいないぞ。そんなことで職を失ってたまるか! ちゃんと金は払ったさ」

「似てるも何もこれだよ。ほら見ろ、右端の石だけ取れてるんだ」

「本当かよ。すごい偶然だな」

「ああ。俺はこの町で親父達と別れて独り立ちしたんだ……その時に見当たらなくって、荷物全部ひっくり返して探したんだけど、野営した時に落としてたんだな」

「よかったな。じゃあ、それが誕生祝いってことで」


 俺の言葉に涙ぐむと、大事そうに手のひらで髪飾りを包んだ。


「……それにしてもお前。形見のこと、酒の席で少し話しただけなのに、よく覚えてたな」


 過去に思いを馳せるように、同僚であり友でもある男は髪飾りを撫でた。


「当たり前だろ。全部とは言わないけど、お前が言ったことは大体覚えてるぞ」


 一瞬迷ったが、この際だから開き直ってしまうことにした。


「お前が思ってる以上に、お前のことが好きなんだよ。これからも仲良くしてくれよな」

 めでたい日なので、照れくさい感情は今日だけ封印だ。


─ 完 ─

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