始まりと終わり 第一話(20××/6/2 00:00)
耳に入るのは紙を捲る音だけ。二人だけの空間は、お互いの動きが音でわかってしまうくらい静かだが、沈黙が苦にならない。
「おい。手、止まってんぞ」
「あ? ああ。ちょっと考え事してた」
「終わらなくても、絶対に手伝わないからな」
「ええー」
「俺が記録担当。お前は魔石の梱包担当。お互い合意の上で分担したんだから、甘えんな」
俺たちは冒険者ギルドの職員だ。
物語の主人公になるような冒険者ではなく、そのサポート。彼らに依頼を斡旋し、彼らが持ち帰った戦果を処理する。
俺前には魔物の核である魔石が入った木箱。属性と内包する魔力でランク選別して、一個ずつ値段をつけて、後日納品した冒険者に支払いをする。
鑑定は受付時に終わってるので、今は相方が精算時に渡す明細の作成をして、俺は小売店に卸すための梱包をする。
正直やってることは故郷で農作物の選別してた時と同じだ。
時間が経っても痛まない分、こっちの方が楽だったりするのだが、幼い頃から鍛えられた俺と違い、都会育ちの連中はこの作業が苦痛らしい。
「これ終わったら今日はあがり?」
「ちゃんと終わったらな。俺は自分の分が終わったら、先にあがるぞ」
言いたいことだけ言うと、相方は事務作業を再開した。俺の視線の先で旋毛が時折揺れる。
窓から西陽が差し込む。最新鋭の技術だった硝子は、驚くべき速さで普及した。
数年前まで貴族の家にしかなかったはずなのに、部屋の窓ガラスはずっと前からその状態でそこにあったかのように薄汚れている。
兄が畑を継いで、何も持たない俺は兄の手伝いをするか自立するかを迫られた。嫁をとって家の中心になる兄のサポートで一生を終えるなんて耐えられなくて村を出たが、結局やってることは他人のサポート。
暖房のない小さな部屋は、夜が近づくにつれ部屋の気温は下がるのだが、一人じゃないからか不思議な温かみを感じる。
お互いに特に気を遣ったりはせず自然体で過ごす、この時間が好きだ。