第095話 運命を変える一枚
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「クソッ!どうなってんだ。アイツからの通信が途絶えた。」
「良いから集中したらどうだ?それとも真っ向勝負なら勝てないか?」
「さっきまで負けてた奴が粋がりやがって。それで勝ったつもりかよ。この勝負だけは勝たないといけないんだよ俺はよ。」
どうしてこの勝負に固執するのか分からない。
賞金として出る金額は確かに馬鹿に出来るような金額ではないが、悪事を働いてまですることではない。
何か余程の理由があったのかも。
そうだったとしても俺達に関係のないことなので同情の余地は一切残されていないけど。
凛の番なのに、二人が話しているせいでカードを出して良いのか迷っている。
落ち着くまで待っていてはいつまで経っても進まないと感じたのか話も終わらぬ間にカードを出すことに。
その流れに乗って次々とカードを出していく参加者達。
水泳部の番になったが、まだサッカー部に噛み付いていて気付いていない。
「水泳部、直ちにカードを出してください。」
長考ではないことは明らかなので、遅延行為と判断されて注意のアナウンスが流された。
それすらも耳に入っていないのか、興奮気味に暴言を吐き散らす。
勝たないといけない理由というのは、相当な意味があるらしい。
観戦していた生徒達も事の異常さに気付き噂話を始めている。
これを待っていたばかりに動き出したのは教師陣。
何か理由があれば退場させることが出来る。
そうした後に、ゆっくりと話を聞くつもりなのだろう。
今は、それが水泳部の為でもある。
これ以上の醜態を晒すよりかはマシだろうな。
暴挙を起こしているのが誰であれ、水泳部の代表として出ているのだから主語が大きく噂されかねない。
「おい、水泳部。退場だ、こっちへ来い。」
「待ってください。俺は、俺はこの場から立ち去ってはいけないんです。負けてしまったら・・・」
「そうですよ、先生。まだ彼がやれると言っているので続行しましょ?」
音もなく近付いて来るのは鬼龍院雅。
なんで怯えていたのかようやく理解した。
一枚噛んでいたのは鬼龍院だったのか。
イベントがある毎に問題行動を起こすのは俺達に対する嫌がらせだな。
「鬼龍院か。いくら、君の頼みだからと言ってもだなー。」
「先生は最近お子様が生まれたそうですね。」
「それがどうしたんだ?」
「子供の顔を見る前に離婚しないと良いですね。」
全てを知っているような物言い。
何か弱みを握っているのは確かだ。
鬼龍院がどのような人物であるか教師である人間が知らないはずもない。
あの発言は単なる脅しとは違うと感じ取っているだろう。
教師でも関係なく制圧してしまったか。
こうなれば、そのまま続行だろうな。
「良いから出したらどうですか?」
その言葉の後に水泳部のイカサマ野郎に近付いて耳打ちをする。
直後、怯えた様子でカードを出し始めた。
ようやく再開し始めた大富豪を見て満足そうに立ち去る鬼龍院。
このイベントで勝っても三万しか手に入らないのに、どうして勝ちに拘るんだ。
勿論金額で言えば決して安くはないが、ここまでして手にいれる必要性があるのか。
「それでは、私は邪魔みたいですので。結果、楽しみにしてますよ。」
場は完全に乱れた。
空気が変わった事をどの生徒も理解している。
しかし、誰も噂話の一つすらしない。
裏で鬼龍院が絡んでいると知ったからなのだろう。
それほど恐怖の存在として広まっているのか。
「どんな事情があるのかは察したが、同情の余地はないな。やっている事は不正その物だったのだから。」
イレブンバックをここで切る。
後に残しておくと上がられる可能性を高めてしまうので賢い選択と言えるな。
自業自得の結末に向かう水泳部に慈悲など一切掛けないようだ。
そして、それは凛も同じ。
結果は果たして。
勝負はサッカー部と恋愛支援部の一騎打ち状態になっている。
他の者は手札が悪いのか参加することすら難しい。
場に出されたカードを見て、とりあえず出せるカードを出しているようなそんな状態。
アイツに至っては長考したのちにパスをすることがほとんどだ。
考えているのは、この先に待つ地獄のこと。
そんな相手に負けるはずもなく。
「悪いが俺は勝たせてもらうぞ。」
手札に残されているのは二枚。
ここでペアを出されてしまえば、サッカー部の優勝が決まってしまう。
しかし、こちらも残りは二枚。
出されるカードによっては勝ちが決まる。
手に取ったのは一枚のカード。
まだだ、まだ勝機は残されている。
場に置かれたカードには絵が描かれていた。
それもただの絵ではない。
奇抜な格好をした白塗りの男が大玉に乗りながら芸を披露している絵。
最後までジョーカーが残されていたのだ。
禁止上がりのルールがある為に、ペアで上がることが出来なかったのは唯一の救いか。
一つだけ勝てる方法はあるからな。
ルールの一つとして採用されているスペ三返し。
これを利用することが出来れば、俺達の優勝だ。
勝負の行方はシンプルになったな。
「ウチがもらいました。スペードの三、あります。」
しっかりとこの状況を読んでいたのか、凛の手札にはスペードの三があった。
スペ三返しは発動した時点で場は強制的に流れる。
この瞬間、勝ちが決まった。
俺は思わず走り出した。
この優勝に対する興奮が抑えられなかったことと、凛の活躍をみんなで分かち合いたかった気持ちがそうさせるのだ。
いつもならクールに決めて出迎えるはずなのに。
しかし、他の三人も気持ちは同じらしい。
凛が勝ったと分かった瞬間には、飛び出している。
さながら甲子園の優勝シーンのようだ。
「勝った!勝ったよウチ!」
「ちゃんと見てたぞ。」
「すごいよ星海くん!君のおかげで美味しいご飯が食べられそうだ。」
「それに賞金だってアタシ達のもんだ!」
会場の真ん中で大喜びしているが、賞賛の拍手が一つも送られてこない。
勝ちを狙っていた部活にとって、俺達は妬ましい存在であるので仕方ないか。
「えっー、それでは優勝の発表をしますので、みなさんお集まりください。」
放送部のアナウンスを聞いて、ダラダラと集合を始める生徒達。
「これより、表彰式を始めます。優勝した恋愛支援部の代表者は前に。」
糸井先輩が代表者として前へ。
校長が優勝した俺達に向けて、長々と言葉を贈ってくれるが正直疲れているので頭にスッと入ってこない。
それなのに、疲労は同じかそれ以上あるはずの糸井先輩は真剣に話を聞いている。
ならば、最後の体力を振り絞って俺も聞くように心掛けよう。
あくまで心掛けるだけだけど。
「それでは、賞金の方を校長先生から授与させていただきます。」
卒業証書を授与する時の音楽が流れ始めて、それと同時に全生徒が疎らな拍手を。
自分達が優勝しくて悔しいはずなのに、拍手は欠かさない所はこの学校の真面目さが出ているな。
その分、露呈した暗い影を落とす部分もあるけど。
鬼龍院だけじゃない、教師の倫理観や生徒のいじめもそうだ。
俺はその全てに手を差し伸べられる程の力が無い。
だからこそ、目の前にいる人だけは救いたい。
そう、改めて思った。
「みんな!打ち上げいくよ!」
気付けば表彰式も終わり、生徒達は解散している。
考え事をしていたせいで出遅れた俺は駆け足で後を追いかけた。
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