第071話 ウチの気持ちは
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星海凛side
(あぁ、もう少し陽太くんと一緒に居たかったな。)
メイド喫茶に行った後一旦解散なんて言ってみたけど、本当はまだまだ遊びたかった。
だけど、陽太くんが忙しそうにしているのは知っていたから、無理に引き留めることは出来ないよね。
もしも、ウチがワガママを言ってたら、嫌な顔一つせずに付き合ってくれるんだろうな。
「そんなの出来ないよ。だって、好きな人の迷惑になりたくないもん。」
孤独の中で空に向かって呟く。
誰かに聞いて欲しい訳じゃないけど、心の内に留めておくのは辛かった。
本番前の練習まで時間が空いてしまった。
華ちゃんと一緒に回ろうかなと思ったんだけど、華ちゃんも忙しいから回らないみたい。
欲を言えば、華ちゃんとも回りたかったな。
とりあえず、まだ一切見れていない有志の屋台へ行ってみることに。
生徒の出し物と違って、本気でお金を稼ぐ大人達の屋台はレベルが高い。
「どれにしようかな。食べたばかりだけど、お腹空いて来ちゃったよ。」
焼きそば、たこ焼きに綿飴。
本当のお祭りぐらい屋台が並んでいる。
配慮されているのか分からないけど、二年生が出しそうな縁日系は設置されていない。
ウチとしては、食べ物さえあればそれで良いんだけどね。
とりあえずお昼は食べたので、甘い物が食べたくなっている自分がいる。
綿飴も良いのだけど、あれは子供用に置かれているキャラクターの袋に入れるタイプのやつみたい。
結構、人の行き来が多い中であれを持って移動する勇気はないな。
最終的なチョイスは、リンゴ飴、チョコバナナ、冷やしパイン。
ちょっと買いすぎちゃった気もするんだけど、甘い物は別腹って言うし良いよね。
後はどこで食べるかが問題だ。
真っ先に思い付くのは教室なんだけど、あそこは偶に人が来るんだよな。
その都度、気まずい思いをするのは嫌だな。
って考えると校舎裏が良いかも。
あそこなら人通りはゼロだし、集合場所である体育館にも近い。
思い立ったが吉日という言葉もあるくらいなので、早速校舎裏へ。
角を曲がる前に少し覗き込むようにして、人がいないか確認するのを怠らない。
クリアリングはゲームの基本だからね。
まぁ、FPS系の反射神経や動体視力が必要なゲームは苦手な部類なんだけど。
「いただきます。んー!美味しい!」
まずは、冷やしパインから口に頬張る。
五月に入ってから蒸し暑さを感じることも多くなって来たので、この冷たさが心地良い。
そう言えば、ログインしてないアプリがあるので忘れずに起動させておこう。
携帯を取り出すと残りの充電は二十パーセントを切っていた。
例えここで充電が切れたとしても問題ないけど。
何故なら、教室にモバイルバッテリーが置いてあるからね。
良く携帯などでもゲームをするウチにとっては必須級のアイテムである。
「さて、今日のログインボーナスはと。」
ここからがゲームの恐ろしい所で気付けば、時間はどんどん過ぎて行った。
ウチがゲームをやめたのも携帯の充電が切れてしまったからである。
いくら、普段から連絡が来ないウチの携帯だからと言っても充電がないのは大問題だ。
急いで教室に戻ってモバイルバッテリーに繋がなくては。
「こんな所にいたよ。探すの大変だったんだけど。」
ウチの心は一気に暗くなる。
目の前にいるのは、浅間さんだった。
ウチと御城さんの関係を勘違いして、嫌がらせをしてくる人だ。
本当に彼と何もないのに。
「何か用ですか。」
「やっぱりアンタが御城に色目使ったんだろって話。ありえないから普通に。」
「本当にそんな事してないです。話はそれだけですか。」
敢えて強気に言い返した。
そうでもしないとしつこく詰められそうだったから。
普段は、上手く会話なんて出来ないけど、理不尽な悪意とは戦うべきだ。
あの部活を始めてから、そう強く思うようになった。
「調子乗りすぎなんだけど。ちょっとこっち来なさいよ。」
無理矢理腕を引っ張られて何処かへ連れて行かれる。
いつもはゲームに力は必要ないと思っていたのだけど、この時ばかりは抵抗すらも無意味と化す非力さを呪った。
「やめて!離して!」
大声で叫ぶのが、唯一ウチに出来る対抗手段。
だけど、ここは校舎裏。
人がいないのは、ウチが一番良く分かっている。
どれだけ叫んでも助けが来る事はない。
何処に連れて行かれるのかと思っていたら、部室棟の物置小屋に連れて来られた。
ここは外側から施錠が出来るので、もしかしたらウチを閉じ込めるつもりなのかも。
だけど、それが分かった所で抵抗する術もない。
運良く人が通ってくれれば、助けを求める声を出せたのだけど、それも叶わず。
なんでウチがこんな目に遭わないといけないのだろうか。
何一つ悪い事なんてしていないのに。
本番前の大切な時間だと言うのに気持ちは一層暗くなるばかり。
「出番が終わるまで一生ここにいろ。」
「鍵閉めても意味ないから。」
「強がりなんてしても状況変わらないから。」
浅間さんにはこれが強がりに見えるみたい。
それも仕方のないことだけど。
ウチには絶対に助けてくれる王子様がいるのを知らないのなから。
困った事があった時には、必ず手を差し伸べてくれる人が。
取り残された物置小屋の中で彼が来るのを待つ。
携帯の充電が切れてしまったので、助けを自ら呼ぶ事は出来ないけど、きっと来ると信じている。
「迷惑になっちゃってるよなー。後で謝らないと。」
この何もない時間に心は少しずつ暗くなっていく。
涙が零れ落ちるのを我慢しているぐらいだ。
彼に迷惑を掛けている存在であると考えると、どうしようもなく自分が嫌いになる。
今までも自分の事が嫌いになる事はあったのだけど、今回はそれと比にならない。
好きな人を巻き込むというのは、それほど精神的に追い詰められるのだ。
「誰かいるか!」
この声が聞こえてウチの気持ちは少しだけ明るくなる。
我ながら単純な女なんだなと不安になってしまうくらいに。
「陽太くん。やっぱり探しに来てくれたんだ。」
本当に探してくれていたようだ。
その声から相当焦って探しに来てくれたのが伝わる。
「当たり前だ。心配だから凛を探しに来たに決まってるだろ。」
優しく心配してくれる。
それが今のウチにとっては温かくて心に響く。
彼にとって大事な友達の一人であることを再確認出来る。
それがたった一人の特別な存在では無かったとしても、嬉しくて堪らないのだ。
「大丈夫。今すぐに出してやるからな。」
「練習始まってるんじゃないの?こんな所にいて良かったの。後でみんなに怒られるよ。」
来てくれた事が嬉しいのに、陽太くんの心配をしている振りをする狡いウチ。
でも、世の中には狡くならないといけない時だってある。
それが彼の前であるなら特に。
「練習なんてどうでも良い。凛の安否さえ確認出来れば、後の事は何とかなる。それに凛が不在で俺達の舞台が完成する訳ないだろ。」
「・・・ありがとう。」
この真っ直ぐな言葉を聞いて、堪らず涙が溢れる。
泣き虫な自分は嫌いなのに、どうしても涙が止まらないの。
ウチはまた彼に救われた。
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