第053話 聞こえてくるのは悪意
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今日のあの騒動には肝を冷やした。
もしも、俺にやる気が無かったのだとすれば、クラスどころか噂が巡り学年全体で敵対視されるところだった。
今とそれほど変わらないと思うかもしれないが、俺の事について無関心な生徒も今は多い。
出来るだけ目立つようなことは避けるのが、高校生活を楽しむ上で必須事項。
「ーーーそうそう。」
台本を教室に忘れてしまったので取りに戻って来たが、誰かが残っているみたいだ。
盗み聞きは趣味が悪いと思いながらも、話を遮る勇気もなく扉の前でタイミングを伺う。
それにしても、わざわざ残って雑談とは青春の真っ只中みたいワンシーンだな。
「ありえるだろ?絶対にいけるんだよ。」
この距離なら教室の会話も鮮明に聞こえる。
声からして御城とその取り巻きだ。
アイツはいつも二、三人の男子生徒を側に置いているから、まず間違いないだろう。
まるで、自分がこの空間を支配している人気者だと言っているようで吐き気がするよ、あれは。
「後少しだと思うだよな俺は。凛ちゃんって絶対にチョロいじゃん。」
「うへぇー、出たよ。あんな根暗のどこか良いんだか。」
「あんな感じの根暗を俺色に染めんのが面白いんだろ?分かってねーなー。それに顔だけで言ったらハイレベルだし。」
「分かる!顔だけは良いよな、顔だけは。」
胸糞の悪い話を聞いてしまった。
今日の件も疑惑から確信に変わったな。
偶にいるんだよ、御城の様な人間は。
自分だけが世界の中心だと思っている奴が。
だけど、それは大きな間違いだ。
結局の所、その中心は他の人の世界では中心ではない。
人の心の数だけ世界があることを知らないのだ。
いや、知っていても無意識的に除外しているかもな。
「早く告れば良いだろ。御城が告白すれば一発だろ。」
「まぁ、そう急ぐなよ。じっくり心まで俺に染めてからいただくんだよ。」
「おいおい、不健全だねぇー!あははー!」
「誰にもやんねーかんな!」
下衆の声が良く響く。
俺とした事が失敗してしまったな。
話の内容に気付いた時には、携帯を取り出しておくべきだったか。
腹立たしい気持ちを抑えながら、どうしたものかと悩む。
とりあえず、この場に長居するのは得策ではないので、あたかも今来たかのように教室へ入る。
「あれー、佐倉じゃんかよ。どうしたんだ。」
俺に対する牽制か。
今の話を聞かれていたら直接本人の耳まで届く可能性があるからな。
「台本を忘れてしまったら取りに戻って来たんだ。」
「そうか、それなら良いんだけどさ。」
何も知らない振りをする。
今はそれで良い。
「御城達はこんな時間まで残って練習か?」
「ん?まぁ、そんな所だな。」
「案出す時もそうだったけど、文化祭に向けて気合い入ってんな。」
クラスの出し物なんてどうでも良いだろうけど。
凛と仲良くなる為の土台ぐらいにしか考えていないはずだ。
しかし、人がいる前では皮をかぶらないといけないのだから難儀だな。
その相手が話を聞いていたとも知らずに。
「あ、佐倉は凛ちゃんの連絡先とか持ってないの?ちょっと教えて欲しいんだけど。」
ここまで来たら狙っているのを隠す気はないのか。
それとも自分が凛を狙っているとアピールする事で周りを威嚇するのが目的か。
どちらにせよ、こんな奴に連絡先を教えてやる必要はどこにも。
「俺が女子の連絡先持ってると思うか?何度も言った様に部活が一緒なだけだからな。」
「それもそうか。悪い悪い、今度可愛い子紹介するから許してくれよ。」
「期待せずに待っておく。」
俺は今、一刻も早くこの場から去りたかった。
そうでなければ、怒りを抑えられそうになかったから。
◇◆◇
星海凛side
ウチは余りにも弱い人間だ。
他人の顔色を伺い、自分よりも他人のことを優先して動く。
それは決して美談なんかではない。
ただ、どうしようもなく怖いのだ。
その先にあるものを想像してしまうと。
「陽太さんと一緒に行こうと思ってたのに、教室に忘れ物か。一緒に戻ろうと思ったけど、止められちゃったし。」
彼はウチと同じで他人を気にする。
しかし、ウチとは全く違う。
他人からの見返りを求めず、例え自分が傷付くことになっても動く。
本当にウチとは違うなー。
部活に行く前にトイレへ立ち寄った。
部室のある部室棟四階にはトイレがない。
事前に行っておかないと数時間は拘束されてしまうので大変なのです。
あ、全然トイレ禁止にされているとかでは無いんですよ。
でも、ウチがトイレ行っている間に相談者が来てしまったら気まずい。
「ーーーまじであり得ないよねー。」
トイレに着くと誰かが話をしているのが聞こえる。
そこまで大声で話している訳ではないけど、それでもトイレに近付けば聞こえてしまう声量。
人がいることを知ったウチは入るのを躊躇う。
そして、結果的に話の続きが耳に入る。
「マジでウザいよね星海。御城くんに色目使い過ぎだし。」
「確かにちょっと顔良いぐらいで調子乗りすぎでしょ。」
この声は、浅間さんの声。
役決めの時にウチを怒った人だ。
そんなことよりも、会話の内容がウチの心を締め付けた。
ウチの悪口。
高校生になってからは、ウチの悪口を言う人がいなくなったと安心していたのに。
トラウマのように中学生の時の記憶が思い出される。
嫌だ、もう二度とあんな思いはしたくない。
「御城くんも邪魔だと思ってるなら、そう言えば良いのにさぁー。みんなに優しくするから勘違いすんだよアイツも。」
ウチは勘違いなんてしていない。
迷惑が掛かると知っていたから自分からはベル役を立候補しなかった。
だけど、これは詭弁だと知っている。
最後に選んだのはウチ自身なのだから。
「ーーーそんでさー。」
トイレを終えた浅間さんとそのお友達が出てきた。
このままでは鉢合わせしてしまうので、急いで近くの角に身を隠す。
ウチ何も悪いことしてないのに。
なんで、ウチを選んだのだろう。
もっと人がいたのに。
なんで、なんで、なんで。
ウチは悪い子なのかも知れない。
また、こうやって自分の不幸を他人のせいにする。
涙が止まらない。
頬を伝う涙がウチの心を刺激する。
「大丈夫か凛。」
顔を上げ、その声の正体を見る。
ウチはその人を見て安心してしまう。
いつもウチに手を差し伸べてくれる人。
「・・・陽太さん。」
陽太さんはウチの隣に座た。
こうやって二人きりでいるのも久しぶりだ。
ありがたいことに友達が増えて来たので、みんなで動く事が多い。
でも、なんだかんだ二人きりの時間が好きだ。
そう思ってしまうのもウチの悪い子だからでしょうか。
「泣いてる理由はトイレで悪口言われてるのでも聞いたか?」
「えっ?なんで?」
まるで見ていたかのように的中させる陽太さん。
「マジなの?今、当てた本人が一番驚いてる。だって、そんなの漫画かドラマの中だけって相場が決まってるだろ?」
「ふふふっ!確かにそうですね。」
あんなに辛い事だったはずなのに、陽太さんの言葉一つで不思議と面白いとさえ思えた。
人差し指で涙を拭う。
気付けば涙は止まり笑顔が溢れている。
ウチはこの時に一つ思った事がある。
譲れないのはゲームの腕前だけかと思ってたけど、どうやら最近はそれだけじゃないみたい。
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