第013話 輝くものをもって
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「そんなバカなことありえないですよ!もう一回!もう一回だけでいいですから!」
これで勝負は七回目。
その内、星海が勝った勝負は一回もない。
あまりにも弱すぎて、五百時間もプレイしたのか疑いたくなるレベル。
操作面で言えば確かにプレイ時間相当の実力はあるが、駆け引きがあまりにも。
まさか、ずっとコンピュータと対戦してたとか言わないよな。
「最後の一戦だぞ。これ勝ったら星海の勝ちで良いから。」
「本当ですか!?漢に二言はないですよね?よーし!俄然、やる気が出て来ましたよ!」
対戦が始まると俺は驚いた。
先程まで違って動きが良くなっている。
ここまで手加減をしていたのではないかと疑いたくなるほど。
「おっ!さっきよりも勝てそうな気がして来ました!」
隣でプレイしている彼女を見ているとその疑念も晴れる。
画面に夢中になって行動の一つ一つに一喜一憂しているようだ。
そんなことをしている人が器用に手加減などするはずがない。
「これでどうですか!」
良い勝負を繰り広げていたが、見事星海の勝利を収めた。
感心すべきは彼女の集中力と短期間で目を見張る成長を見せた吸収力。
勝つまでの七回はゲームは好きだが才能はない人間かと思っていた。」
しかし、彼女は天賦の才の持ち主に間違い無かった。
「やった!勝ちましたよ勝ちました!」
初の勝利で大きな声を出してしまう。
幸いにもBGMなどの音で大きく目立つ事は無かったが、それでも彼女自身は恥ずかしかったようだ。
両手で顔を隠して全く俺と顔を合わせようとしない。
そんなことは俺にとってどうでも良い。
沸々と湧き上がるこの気持ちを抑えられない。
つい口から本音が漏れる。
「・・・も、もう一回だけやろうぜ。」
「ちょっと待ってください。この勝利を噛み締めてからにもう一戦しましょう。」
星海を喜ばせることになってしまい、余計に悔しい気持ちになる。
当初の目的は、彼女の気持ちを落ち着かせることにあるので成功と言えば成功か。
その後、追加で三回も対戦したが結果は一回も勝てなくなってしまった。
まだまだやり足りない気持ちもあったが、これ以上やっても勝てないと悟ったので一旦止めておく。
「すごい楽しかったです!一人ではゲームセンターに入る勇気もないので、この経験はとても貴重なものになりますよ。」
「これで驚くなら三流。ここにはまだまだゲームがあるぞ!」
携帯をチラッと見ると時刻は十時。
時間的には十分過ぎるほど遊べる。
まずは、音ゲーのコーナーへ行き俺の圧倒的なリズム感を見せつけてやった。
フルコンボするとオーバーなリアクションで褒めてくれるので、天狗になってしまうのはここだけの話。
ちなみにそんな星海は何度やっても目標の点数すらクリアできなかった。
ちょっとしょっぼりとしているところ悪いが、ここまで壊滅的だと少し面白い。
その後にレーシングゲームや、クレーンゲームなんかをやってみたが、どれも楽しめているようで何よりだ。
心配になるのは星海の財布のことだけ。
これだけ遊べば、仮にバイトをしていたとしても一日の出費としては痛手だろう。
「ウチにも友達がいれば放課後にゲームセンターとかもあり得たのかも知れないですね。」
「なんで友達出来ない設定なんだよ。まだ、一ヶ月も経ってないだろ。」
「だってだって、もうスタートダッシュ失敗しちゃいましたから。それにウチの話面白くないって中学の時によく言われていましたから。」
彼女がどれだけの深い傷があり、どれだけ悲しい過去があるのか俺の知り得るところではない。
これは思ってはいけない事かも知れないが、知ったところで気まずい思いをするだけだ。
ならば、こちらからあえて触れるようなことをする必要は全くない。
「もし友達出来なかったら俺がまた連れてってやるから元気出せよ。」
「えぇ!良いんですか!ウチとゲームセンターフレンドになってくれんですか!」
なんだそのダサい名前の交友関係は。
そんな嬉しそうにすることかよと思ったが、星海にとって重要なことなんだろ。
それに約束した以上、漢に二言は無い。
こんなことを思っているが、星海に友達を作れる手伝いをした方が良いのでは無いかと最終的には考える。
友達作る方法があるなら俺も知りたいくらいだけど。
「あっ。それなら恐れ多いんですけど、連絡先とか交換してもらうことは可能ですか?」
「なんでそんなに畏まるんだよ。減るもんじゃ無いし良いぞ。」
やり方は詳しく無い二人なので、試行錯誤の末に登録が完了した。
画面を見ている星海の顔は信じられないものを見ているようだった。
何度も目を擦ったり、頬を抓ったりして現実か確認する始末。
「親から高校へ行ったら友達が出来るだろうからって買ってもらった携帯なんです。学校から帰るたびに増えてない連絡先を見ると心が締め付けられてたけど、意味があって本当に良かった。」
彼女の目は微かに潤いを持っているような気がする。
知らぬ内に恨まれることの多かった俺にとって、誰かの助けになるのは気分が良い。
きっとこの先、あの部活に参加していれば二度、三度だけではないかもな。
そう思うと少しだけ高校生活が明るくなったように思えた。
「結構遊び尽くしたけど、そろそろ藍連公園に向かうか?」
「あの〜、少しだけ我儘を言って良いですか?」
「ん?時間ならたっぷりあるだろうから良いけど。」
「ちょっとだけあれを。」
そう言いながら指した場所にはゲーセンで唯一俺と無縁の機会が。
良いと言った以上、断るのは忍びないが流石にあれをやるのはどうなのだろうか。
「俺とで良いのかよプリクラ撮るの。」
「初めて出来た友達の佐倉さんとだから意味があるんですよ。」
そこまで言われたら諦めるしか無い。
どうやれば良いのかなんて分からないので、指示に従って選択をする星海を横目で眺める。
鼻歌交じりに進めていくところを見ると、かなり上機嫌なのが伝わってきた。
経験のない出来事で恥ずかしさはあったが、当の本人が満足しているなら良しとしよう。
半分に分けられてた内の一つをもらったので、財布を取り出してしまっておく。
「本当は今日夏休み補習になるの覚悟で休もうと思ってたんです。でも、勇気を出して参加して良かったです。」
ゲーセンを出るなり笑顔で彼女はそう言った。
それは好きなゲームにいつて語る時と同じ笑顔。
緊張や不安も無くなったので、そのまま公園を目指す。
歩き出して間も無いタイミングで、星海が急に俺の前へ走り抜けて振り返る。
「このまま二人で遊びに行ってしまいたいくらいですね!」
そう提案して来た彼女は悪戯な笑みを浮かべていた。
今日は時折吹く風が心地良いほどの快晴。
その日差しに照らされた彼女は、今まで見たどの陽だまりよりも明るくてより鮮やかに輝いて見える。
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