第011話 親睦という名の拷問
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朝の教室は騒がしい。
ガヤガヤと喋る声がどこからでも聞こえてくる。
静まるのはいつも担任が教室に入ってからだ。
大量のプリントと恐らく何か重要なことが記載された資料があるバインダーを持って入室した。
教師から注意を受ける前に全員が席に着く。
予鈴と共に号令を促す。
「起立、礼。」
やる気の感じられないまばらなお辞儀だ。
それでも教師は咎めない。
毎日、毎日同じような光景が繰り返せば注意も意味をなさないと諦めるのだろう。
静かにプリントを前列に配布されている。
こういう時に何のプリント配布されているのだろうと気になってしまうのは俺だけだろうか。
「よし、全員行き渡ったか?」
その問いには誰も返事をしなかった。
配られたプリントを見て、ザワザワとする教室内。
嬉しそうな表情を浮かべる者が大半だ。
「静かにしろ!今から説明をするから良く聞いておくように。」
この騒がしさは流石に目に余るものがあったらしく注意される。
十六歳になる高校生がこんなことで怒られたら世話がないな。
静かにしていた俺は無関係なので、説明が始まる前にプリントを一読しようと思い視線を下に落とす。
[一年生:親睦交流会]
タイトルからして嫌な予感がしてきた。
親睦とは赤の他人の領域にわざわざ立ち入り、決して楽しくてやっている訳でもない空気読みをするの
だ。
それって陽キャと呼ばれるクラスのカーストトップ以外誰が喜ぶの?
こっちからしたら、強制拷問執行会とかに名前を変更してくれた方が分かりやすくて良い。
「まず、君達は入学してから一ヶ月になるが交流が狭い。入学してから日が浅いというのもあるかもしれないが、同じクラスで話したことすらない生徒がいるのは問題だ。」
本当にそうだろうか。
社会人だって一ヶ月の間だと話したことのない人がいるのは普通のことだ。
むしろ、業務のことでしか会話しないのだから多いはず。
絶対にそうだ。だからこんなイベントは無かったことにしてくれ。
「基本的には目的地である藍連公園までを、こちらで組ませて貰った五人一組の班で動いてもらう。」
「えぇーー。こっちで自由に班を作っちゃ駄目なんですか?」
仮称・陽キャAが不満そうに教師へ講義する。
自由に班を作れたら生徒側は楽しい思うが、これは学校側の配慮を感じられる。
必ずクラスに馴染めない者が余りとして出てくるからな。
他人事のように言っているが、もちろん俺もその一人だ。
「学校側の決定に文句があるなら、後でじ〜くり話を聞いてやるぞ渡辺。」
「いや〜全く持って異論はないです。」
何事も無かったように着席する渡辺という男子生徒。
意外と聞き分けの良い奴だな。
「予定の十二時までに目的地へ辿り着いていれば、多少の寄り道も目を瞑ろう。しかし、大型ショッピングセンターとかに入って補導されることがないようにな。班分けは後ろの方に書いてあるから当日までに読んでおけよ。連絡事項は以上。」
その後もいつものようにホームルームを続けているが、まともに話を聞いている生徒は少ないだろう。
皆、配られたプリントの裏を確認しながら一喜一憂しているからな。
こうなることは想定済みだったようで、あえて怒るようなことはなかった。
俺も同じ班の生徒を確認しようか悩む。
何故悩むのかって?
どうせ見たところで誰が誰か分からないからだ。
加えて交流が少ないので、どの生徒と同じ班になっても大差ない。
しかし、名前を覚えておくだけでも損はないだろうと思い裏返す。
男女の割合は恐らく三:二。若干だが、男子の方が多い。
バランスは考えてあると思うが、偏りがないことを知れただけでも安心だ。
あ、もちろん全員話したこともない生徒でした。
「おい陽太!残念だったな〜俺と同じ班になれなくて!」
「ただでさえ嫌なイベントが発表されたばかりだっていうのに、元気な奴だな。」
「それはお前だけの話だからな。大半の奴は授業無くなるって喜んでるぞ。」
「甘いな。俺が班の人から白い目で見られるのは分かり切った未来。そんなことになるぐらいなら、学校で授業を受けた方が良いだろ。」
いや、待てよ。
そもそも律儀にこんなイベントに参加する必要ないのでは?
授業でないなら欠席すれば解決だ。
哀れみを含んだ気遣いをされることも、全く相手にされることなく悲しい日を過ごす必要も皆無。
俺も班の人も嬉しい素晴らしい案じゃないか。
「お前の考えを先読みして言っておくと、このプリントに書かれているように欠席だと夏休みに補習だぞ。」
どうやら神は死んでしまってようだ。
無慈悲にも降り注ぐ困難が俺を逃さない。
「なんでこんなの休んで夏休み補習なんだよ!おかしいだろ!」
「お前みたいなのがいるからだろ。」
「終わった。今からでも遅くないから抗議しにいこう。」
「そんなことしている暇があるなら、班の奴らとコミュニケーションの一つでも取るんだな。」
「俺に死ねと言ってるのか?」
色んな噂が出回っているせいで俺の評価が底辺だ。
中には少し考えれば分かるような誹謗中傷まで。
いくら神崎に好かれたいからってそこまでするかよ。
最初の内は否定していたが、もう諦めた。
一年生の話題は昼休みになってもそれで持ち切りだった。
聞いてる俺はどんどん憂鬱な気持ちになっていく。
逃げるように自販機へ行くと先客がいたようだ。
背丈は百五〇ないくらいで、紺色のボブと動物の耳が付いたパーカーが印象的な少女。
ん〜?どっかで見た事あるような、ないような。
それより、とっくに自販機から飲み物が出ているのに取り出そうとしない。
何事からと思い失礼を承知で横から覗き込む。
「えい!うおっとと!結構やるなぁー!」
どうやらゲームに白熱しているようだ。
これが携帯のアプリとかなら分かるが、この子はそうではない。
わざわざゲーム機を持参してヘッドホンを付ける徹底ぶり。
キャラが濃すぎて、胃がもたれそうだ。
「ふーー!やはり、最新作よりも無印の方が余計な設定が無くて楽しめる。って、きょえーー!!!」
ヘッドホンをしていれば周りの生徒に気付かないのも無理はない。
が、驚きすぎなのは事実。
「・・・『おま勇』か。」
画面にチラッと見えたゲームが懐かしくて、ついポロッと呟いてしまった。
「な、なな、なんと!『おま勇』こと、『お前が今日から勇者だ』をご存知ですか!隠れた名作として一部のコアなファンしか知らない大作を良くぞご存知で。」
「まぁ、実績全解除するくらいにはやり込んだからな。」
「ウチでも出来なかった実績全解除まで!これはすごい同志を見つけてしまったかもしれないです!」
興奮のあまり俺の手を握ってブンブン上下に振る。
昔から友達の少ない俺はゲームばかりして時間を潰していたからな。
有名どころはやり尽くしたので、コアなゲームをやるのが中学時のブームだった。
まさかこんなところで似たような趣味の奴と会うとは。
しばらくすると冷静になったのかゆっくりと手を離して、距離を取る。
遠くなっても動揺しているのがはっきり分かるな。
「あばばば!す、す、す、すみませんでしたーーー!!!」
走りながら自販機から逃げ出す少女。
これがまた変な噂の一つにならなければ良いが。
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