ボッチくんはドーナツ屋でヤバイと思ったそうです
「綾人くん、私……『ハートストロベリークリーム』食べたかった」
「うん。わかってる……けど、今日はもう完売してないんだって……。だから……」
「だから?」
「今度の休日にリコが食べたかったドーナツ、買いに来よ」
「……綾人くん。……うん! 約束だよ!」
「あぁ、約束だ。それで、どうする? ドーナツ食べて帰る?」
「もちろん! せっかくドーナツ屋さんに来たんだから!」
「リコ、食べたいドーナツあるのか?」
「う~ん。そうだな~」
リコはメニュー表を見て、食べたいドーナツを探している。
「あっ! これ美味しそう!」
「どれだ?」
「この『ハートアールグレイクリーム』」
「それにするか?」
「うん!」
俺は店員に注文する。
「すいません。『ハートミルクチョコクリーム』と『ハートアールグレイクリーム』ください」
「はい。店内でお召し上がりですか?」
「はい。店内で……」
「396円になります」
俺が支払おうとすると、リコが腕を掴んできた。
「な……何だよ? リコ」
「綾人くん、私の分のドーナツは自分で払うからいいよ」
「ハハハハ……! 何言ってんだよ、リコ」
「えっ?」
「俺がリコの分のドーナツを奢るのは、当たり前なことだろ」
「そう……なの?」
「お客様、お支払は……」
「あっ、これでお願いします」
俺は1000円札を出した。
「1000円お預かりいたします。……604円のお釣りになります」
「どうも」
「綾人くん……ありがとう。奢ってくれて」
「俺は、当然のことをしたまでだ」
「…………やっぱりカッコいい」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。何も言ってないよ」
「……そうか」
★ ★ ★ ★
俺たちはテーブル席に座ってドーナツを食べていた。
「綾人くん……そのー……」
「どうした?」
「綾人くんが食べてるドーナツ……一口食べたい」
「……なんだ、そんなことか」
俺は食べかけのドーナツを一口サイズにして、リコに渡した。
「ありがとう……。綾人くん、はいこれ」
リコは一口サイズのドーナツを俺に渡してきた。
「いいのか?」
「うん。食べて」
「……ありがとう」
俺はリコからもらった一口サイズのドーナツを食べる。
「うん。美味い……」
「あ……綾人くん!」
「ん? どうした?」
「……ヤバい」
「何が?」
「……こっちに……向かってくる」
「……向かってくる?」
「……外道な……女が……」
「外道な女って……まさか!?」
俺は振り向いて確認する。
「…………ヤバッ」
――玲奈が、俺たちのいるドーナツ屋に向かって来ていた。
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