デスペラード編 第40章〈ならず者X〉
毎週日曜月曜のどちらかで投稿させていただいております。
面白かったり興味があれば星やブックマークをしてお待ちいただければ幸いです。
その他の詳細は後書きにて書きますそれではお楽しみください
「ぐすっ…ど、どうして?どうやって、ここに…」
拘束を外され、冷静になった頭でフラウは現状の確認を行う。
魔封じの付与が施されたこの部屋には、入れ口は一つしかなく窓など侵入できそうな場所は見渡す限りどこにもない、なのに今目の前に居るバルドはどこからともなくこの部屋に侵入してきていた。
「この盗賊団はギルドから討伐、捕縛依頼が出ていて俺が受けたものです、それに精霊が必死に俺に訴えてきたんです、助けてほしいと…」
バルドは平然とした顔で他の囚われていた亜人達の拘束も魔力が無い状態とは思えないほどの素早い手際で解いきながら答える。
「ここに侵入できたのは闇魔法の影移動ですね、影の中に潜り隙間から入ってきましたが、この部屋には魔力が無いので入った瞬間に効果は切れちゃいました、すごいですねここ、一切の魔力が無い…」
魔力はこの世界のすべてに作用している、だから魔力が無い状態では普通の生物は立つこともままならない。
「凄いのはバルドさんですよ!私、体を起こすのだけでも精いっぱいなのにそんな動けるなんて…」
バルドもここに居るみんなと同じ条件のはずなのに、彼だけは普段通りに動けている事にその場の全員は素直に驚く。
「はは、この場に魔力はないだけで、体内には魔力は微量ながら残ってますからね、魔力の回復はできないまでも多少魔力が残っているならこれくらいは楽ですよ、この結界ももう少し制度を上げれば完全な無魔力状態になるんですがね…」
「え?」
フラウは自身の中に魔力を感じない、他のみんなも同じ気持ちだったのかバルドの言葉に首をかしげていた。
「今も無魔力状態じゃ?」
フラウがそう聞くとバドンは小さくフフッと笑い
「本当の無魔力の中じゃ生物は一分と持ちませんよ」
とそんな事を軽く言いながら、すべての亜人達の拘束を解き終わらせる。
「それじゃここから出ますか!」
「ど、どこから?」
勢い良く立ち上がったバルドは肩をグルグルと回しながら、よっこらせっと立ち上がる。
「え?正面からですが?」
その言葉を聞いたフラウはあっけにとられ、彼の次の行動に驚きを隠せないでいた。
「お邪魔しまーす」
そう言いながらバルドは一つしかない扉をさも当然のように開け放った。
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青髪の男の部下に連れられたエルフの女性は絶望していた。
(どうして私はここでこんな男たちに犯されているんだろう…)
彼女には好きな人がいた、同じエルフ族で、部族長の息子だった。
エルフ族の容姿は皆整っていて、彼女自身も見飽きているくらいだったが、部族長の息子である彼だけはなぜかいつも目で追いかけてしまっていた。
好きだと自覚したのは彼が美しい女性と二人だけで狩りに帰ってきた時だった。
仲睦まじそうなその二人の姿を見て彼女は心臓のあたりがズキリと痛くなったのを感じた時(ああ私が彼を目で追っていた理由はこれだったんだ…)と好きだったことを自覚したのだ。
そんな彼女は(彼女も美しいけど私も同じくらい美しいはずよ!)(彼を私の者にしてやる!)と志したはいいが彼女良心がそんな醜い心を静め結局何もできず見守ることしかできなかった。
そんな彼女の憂さ晴らしは狩りに当てられた、食事の為に狩る魔物に自分の鬱憤をすべてぶつける、魔物を狩れた時のスカッと晴れやかになる心の気持ちよさに彼女は狩りにのめり込み、いつしか部族の中でも凄腕の狩人になっていた。
そんな彼女にも慢心が出てしまい人間に囚われた。
いつも使う狩場に人間は罠を貼り彼女が注意をおろそかにしているところを捕らえられてしまったのだ。
そして地獄の二日間が始まる、彼女は自身の目の前で繰り広げられそうな吐き気を催す行為を止めようと声を上げそして彼女は男たちに嬲られ始めた。
気力を失い、希望を失い、いつしか彼女の心はあの時感じた醜い心に染まり切っていた。
自分だけが助かればいいあんな苦しく汚らわしい行為を、サル共に犯されるあんな醜い行為を一刻も早く終わらせたいと。
そして人間の女性が二人捕まりお役御免になった時彼女は心の中で呟いた。
(無様ね…)
と、もう自分には関係ない自分は少しの間自由なんだと、私の為にも少しでもいいから彼らの相手をしてほしいと、悪いのは捕まったあんた達なんだからと心の中でほくそ笑んで…
「俺は少し外の警備にあたる、夜が更けたらずらかるからヤリスギんなよ!」
そうして後から部屋に入ってきた青髪の騎士団員は外の警備に回る。
「ガハハハッいい頭だな!!!部下の為に自ら監視役なんて!!!」
「本当にいい人の元に拾われたぜ!!」
男どもが口々にそんなことを口にする…
そんな中エルフの女性は涙を流す…
「もう、いや…助けて…」
掠れた声でそうつぶやいた、その声に他の2人も共感したのか声も出せない状態で涙を流し始めた。
「お邪魔しまーす」
そんな時だった、魔封じが施されているはずの部屋からそんな陽気な声で一人の青年が姿を現したのは…
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(これは…)
扉をあけ放ったバドンは絶句する。
目の前に広がった光景にバドンは心の中で嫌悪し、そして彼の瞳にその場に居るべきではない少女の姿を捕らえてしまう。
「てめぇ!どっから入ってきた!!」
「ぶち殺せ!!侵入者だ!!!!」
一瞬の静寂の後に半裸の男たちが近くにあった武器を拾い上げバドンに切りかかる。
(・・・・・・・・・・)
この建物に入った時に抑えたはずのどす黒い感情にバドンは呑み込まれるそうになりその感情はいけないとぐっと堪える。
『彼女を助けて…』
(こいつらが憎い)
(誰か助けて…)
(マ…マ)
精霊の声に続き精霊たちは三人の声をバドンに届けてしまった。
どす黒い感情はもう何にも縛られることはできず、暴走を始める、精霊の願いを聞き届ける為に…
「らああ!!」
「しねえええ!」
そう切りかかってきた男たちは自身が死んだことを自覚できない、
グチャリ…
と二体の肉塊がその場にできる
「ひぃ」
盗賊団の誰かが小さく悲鳴を上げる
「に、逃げ…」
それを皮切りに恐怖が伝染し彼らは逃げようと踵を返すが、彼からはもう逃げられない…
踵を返した一番外の扉に近い男に向かい彼は疾走する、その速度は常人では考えられない速度で、周りの男たちは突風が部屋の中にいきなり吹き出したと感じた瞬間、後ろに居たはずのバドンは既に出入り口の扉の前に立っていた。
「バ、バケモ…」
扉に近い男は言葉を発する前に首をはねられゴトリッと床に転げ落ちる。
「し、死にたく…」
言葉を発する者、音を立てた者から次第にバドンが切って捨てていく
《そうだ!!!もっとだ!もっと壊せ!消せ!潰せ!殺せ!もっともっと殺して殺して殺して殺して殺して殺してお前の心をぶっ壊せ♪》
狂った声は最後は楽し気にバドンに語り掛ける、彼は自身の変化に気づくことはない、人を殺める彼の顔は薄暗い笑みを浮かべ楽しそうに盗賊団を追いつめる…
「こ!ここに来ればお前は何もできねーだろ!」
魔封じの部屋に腕輪をはめて最後の一人が逃げ込んだ、この部屋には魔力は入っては来れず入ってきた人間は魔封じの影響で魔力を大幅に消失して動けなくなる、完全に相手の魔力を奪うわけではなく死亡しないギリギリの魔力は残してしまうが、魔力枯渇の状態であるのは間違いないので逃げ込んだ男は青髪の男が戻ってくるのをここで待とうと算段を立てていた。
しかし男は知らない、バドンはマナロスト状態でも普通に動けるのだ…
「アハハ!そんなところに居ても無駄だよ!」
人が変わったかのような狂ったような感じでバドンは魔封じの部屋に踏み込む、一歩その部屋に入った瞬間霧がかかったようなバドンの頭の中は正気に戻る
「あれ?…俺は…」
「ガハハハッここは魔封じの部屋だ!腕輪をもってねぇてめぇじゃ俺には勝てねーよ!!!」
男は勝ち誇った顔をしているが、バドンが困惑しているのは先ほどの自分にだった。
自分がやったことはすべて覚えているのに、あの一瞬だけバドンは彼ではない誰かだったと自分自身に恐怖する。
「団長が帰ってきたらお前らはおわ…り?」
頭の晴れたバドンは今は自身の事を置いて、目の前の仕事を優先することにした。
「な、なんで動け…」
「微量の魔力があれば誰だって訓練すれば動けるよ」
スタスタと歩いていき動揺する最後の盗賊団員をバドンは捕縛した。
「あ、あのバルドさん?」
先ほどのバドンの豹変ぶりを見ていたフラウは恐る恐るバドンに声を掛ける、無理もないだろうあんなものを見せられては誰だって恐怖してしまう。
「もう大丈夫ですよ!さあ!外に出ましょう!」
「は、はい…」
バドンは自身の動揺を押し隠しフラウに笑顔で語り掛ける、先ほどの薄暗い笑みとは違う笑顔に彼女はそっと胸をなでおろしていた。
「ハ、ハルは!?」
ハッとした様子でフラウは親友の妖精であるハルの居場所を探すとすぐに檻に入れられたハルの姿を発見する事ができた。
「この檻にも魔封じが施されてるみたいだから早く出してあげよう」
バドンはフラウの肩を叩き、そう提案する、檻には錠が掛けられていたのだが、バドンはそんな錠を難なく破壊して中に居たハルを救い出した。
「魔力枯渇時間が長くて衰弱してるね」
妖精は魔力、精霊と親密な関係にあり、魔力である精霊は彼女達の生命維持装置の役割をしている、魔力が無ければ生きられない彼女達には魔力枯渇状態は餓死に近い症状と言えるのだ。
「だ、大丈夫なんですよね!?」
「ああ、大丈夫だよ、衰弱してはいるけど息は正常で顔色もこの短時間でよくなってるし時期に起き上がれるよ、飛び回ることはできないだろうけど」
フラウの不安な声や表情に、優しい声色でバドンは彼女に声を掛ける。
ともかくハルはバドンの近くに居る限り死ぬことはないのだ、何せ彼は…
「それじゃハルちゃんも無事だしここから脱出しようか!」
そして女性三人に服を着せ盗賊団の小屋を亜人達を連れてバドンは外に出る
「チッ警戒すべきは本拠点の方だったか…」
「ですね頭…」
外に出たバドン達を待ち構えていたのはスキンヘッドの男と騎士団の鎧を身にまとった頭と呼ばれた青髪の男だった。
「悪いがそいつらは返してもらうぜ?」
黒い笑みを浮かべ青髪の騎士団の男がそう告げバドン達の前に立ちはだかった。
今回のお話どうでしたか?
っとお聞きする前に謝罪遅れてすみませんでした!
体調が悪いのとやる気が出ないのと仕事がきつかったのとが重なり続きを掛けませんでした。
本日は二話投稿なのでここでは謝罪をさせてくだせぇ…まあ見てる人がいるかは分からんのですが(笑)
では二話目もお楽しみに!バイバーイ




