デスペラード編 第26章〈正体Ⅲ〉
先週はすみません。
冒険者局を後にしたバドンとロインズは宿探しの為にアラヴィス公国の街中を歩いていた。
「バルド、この国には亜人が大勢いるのね」
ふと街中を見渡したロインズがそうバドンに問いかける
「そうですね、ロブロムにも亜人はいましたがほとんどが奴隷で自分もここまで自由な亜人が多いとは思いませんでした」
そう言ったバドンもあたりを見渡す、ロブロムの大きな町ではあまり見慣れないその風景に彼はすこしだけ驚いていた、ロブロムでも亜人は見掛けるが殆どは奴隷だ、しかしアラヴィス公国では一般の亜人の割合が見るからに多い、商人や冒険者、果ては医者の亜人を見かけ二人は感心する。
「この国では色々な亜人の国と同盟を結んでいるからね、その点で言ったらロブロム王国はこの国の大体の亜人に嫌われてるわよ」
二人は見知った声に背後から声をかけられ二人して後ろを振り向く
「よっ!」
「やっほー!アポロ君ロインズちゃん!さっきぶりね用事はもう終わったのかしら?」
「ホルンにソルト!いえ、色々ありまして俺のギルドカードは明日に持ち越しになっちゃいまして、二人で宿探しをしてたんですよ」
とホルンの質問に二人の姿を確認し少しだけ笑顔を見せたバドンが答える。
「二人はパーティーメンバーと合流したんじゃなかったの?」
「それがね二人ともちょっとした案件を請け負ってて合流が夕方くらいになりそうなの」
「だから先にギルドに顔出そうって思ったらちょうど二人を見かけたから声を掛けたんだ!そうだ!良かったら俺らが止まってる宿紹介するぜ!あそこ飯は美味いし寝床もまあまあだから意外と穴場なんだよ」
ソルトの言葉に「まあまあって何よ」とホルンが冷たい目で見るがソルトはそれに気づいていないのか、「案内するぜ!」と張り切って先頭を歩き始める。
「それにしてもよかったんですか?ギルドに顔出さなくて」
「どうせ後で二人が合流したら行くし別にいいんじゃね?なぁホルン!」
しばらく街中を見ながら目的地まで歩いていく中バドンがソルトに質問をすると、ソルトはホルンに確認をとるため振り返るが姿が見えない、それどころかロインズの姿も見えず二人して辺りをキョロキョロと見渡すと屋台の前で二人の姿を発見した。
「おい!何やって…」
ソルトが話しかようと二人に近寄ると二人の手にはいつの間にそんなに仕入れたのかと言いたくなるほどの量の焼き菓子などの甘いものが握られていた。
「いつの間にこんな買ったんですか!ロインズさん!!!」
「私はこの数十年甘いものを食べてこなかったからこれは仕方がないの!!」
「そうよ!私も歩き疲れたんだからこれぐらいはちょっとした自分へのご褒美よ!」
そう言い訳を並べる二人の両手はその言い訳が通じないほどの量の甘い食べ物で埋め尽くされていて、ソルトはその光景に絶句し硬直していた。
「そんな甘いものばっかり食べたらおなか壊しますよ?」
「平気なの!」
「大丈夫よ!」
と息のあった二人の言葉に流石のバドンも少しだけ気圧され「買ってしまったものはしょうがないですね」とため息を一つ吐きこれ以上買わないことを二人に約束させる。
「つ…着いたぞ…」
「ここがそうなのね!」
「少しだけ古臭い外見だけどゴメンね?」
「宿って感じで俺は好きですよ」
とそれぞれが言葉を出すがソルトの言葉にだけは力が入っていない、それもそのはずあの後、二人が食べきれなかった分の甘い食べ物をバドンとソルトの二人で完食し、その代償に絶賛胃もたれ中なのだ。
「アポロ…お前何であんなに食っておいて平気なんだよ…」
「妹も同じ感じでしたからね、甘いものに目がないって言いますか、だから食べきれないのはいつも自分が食べてたのであれぐらいはもう平気ですよ」
悟った笑顔の彼を見てソルトが「あ~」と同情の目を向ける。
「らっしゃい!…ってソルトとホルンじゃないか、お帰り」
「ただいまオバサン!」
「ただいま!お客さんつれてきたよお母さん!」
と二人揃って店番をしているふくよかな女性に挨拶をする
「ここってホルンさんの親御さんのお店だったんですね」
「そうなの!ゴメンね説明してなくて…でもこの国で一番いいお店なのは間違いないから!」
とホルンは少しある胸を張って威張って見せる。
「別に気にしなくていいの、私達は貴女達しかこの国に知り合いは居ないし今の相場が私には分からないから少しだけ宿探しに躊躇ってたのは本当なの、だから私達的にはすごく助かったの」
そう言ったロインズの言葉にホルンは瞳をうるうるとさせて「ロインズちゃーん」と叫びながら抱きつく、彼女は馬車の旅でロインズの事を聞き彼女を境遇に同情をして、先程声を掛けてくれたのも、偶然ではなく彼女達なりに気に掛けてくれて早めに来てくれたからだろうなとその光景を見てバドンは心の中で思った。
「ロインズちゃんは私ともう一人のパーティーメンバーの女の子と一緒の部屋でいい?」
「私は別にバルドと同室でも構わないの」
「ダメよ!絶対にダメ!いくらアポロ君がいい子でも男女が同じ部屋はなにか間違いがあったら大変なのよ!絶対にダメだからね!」
「…そこまで言うなら分かったの」
ホルンの気迫に押されロインズは渋々了承する、そんな二人を見てバドンとソルトは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「それじゃアポロは俺達と同じ部屋でいいか?」
「あ~すみません、出来れば一人部屋でお願いできますか?俺、夜は遅く朝は早くに鍛練を始めるので迷惑になると思うんですよ」
「そっか、ならおばちゃん!こいつに一部屋貸してやってくんね?」
「私達を助けてくれたし安くしてあげて、お母さん!」
ソルトとホルンの言葉にホルンの母親である女将さんは笑顔で「そりゃほんとかい!?ならこれを使いな!」と部屋の鍵をバドンに投げる
「角の部屋だ!その鍵の部屋は貴族様だったりと特別な客しか入れない部屋だが安く貸してあげるよ!」
「そんな!普通の部屋でいいですよ!宿代もしっかり相場通りで…」
「うちの娘とその彼氏を助けてくれたって聞いちゃ黙ってられないよ!これは御礼だと思って受け取っておくのが筋ってもんじゃないのかい?」
バドンの言葉に女将さんはそう返すが、ロインズとバドンの二人はそれよりも女将さんから出た衝撃の事実にホルンとソルトの二人に目を向けると、ホルンは顔を赤くして「もう!」と膨れっ面をしてソルトは照れ隠しに苦笑いしながら頭を指先で掻いていた。
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バドンとロインズの宿が見つかった夜の事
「それじゃ改めて!ロインズちゃんとアポロ君に出会えた奇跡と我がパーティーのこれからを祝して!」
「「カンパーイ」」
ホルンとソルトのパーティーメンバーが合流しホルンの両親が営む宿屋でバドンとロインズの歓迎会が開かれていた。
「改めて自己紹介します!私はホルン!このパーティー夜明け団のリーダーです!そして~」
「副リーダーのグウェン、ホルンの兄だ宜しく!」
「改めてソルトだ!このパーティーの斥候を担当してる」
「アルノアです、後衛で皆さんのサポートをしてます」
夜明け団の面々が挨拶をし終わり座るとバドン達が入れ替わるように立ち上がり4人に自己紹介をしていく
「バルド・アポロです、家名は有りますが貴族と言うことではないので安心してください」
「ロインズなの、ホルン達に出会えたのは私達からしても助かったの」
と二人が自己紹介を終えるとホルンとソルトがここに来るまでに遇った出来事をグウェンとアルノアに詩人が読む物語の様に聞かせる。
「それは本当か!ロインズさんはsランク!?アポロ君はロード二体相手に素手で!!?それは隣国の疑似勇者候補生の血の女帝と稲妻の騎士に引けを取らない偉業だぞ!」
二人の事を聞いたグウェンが子供の様にはしゃいで居るのをバドンとロインズは苦笑いしながら眺めロインズはグウェンの言葉に気になった部分があった様で質問をする
「血の女帝と稲妻の騎士ってなんの事なの?」
それを聞いた夜明け団の4人が「知らないの!!?」と珍獣を発見した様な顔でロインズの顔を見る。
「血の女帝さんと稲妻の騎士さんは隣国ロブロムの疑似勇者候補生で、入団して半月で色々な偉業を達成し二つ名を頂いたsランククラン世界を歩く者の人達と実力を比較されるほどの二人ですよ!」
そうアルノアが説明するが、ロインズはこれまた「クラン?世界を歩く者?」と口に出し首を傾げる
「…マジかクランの事に加えて、現在この国だけでなく世界にまで名を馳せている有名なクラン世界を歩く者達を知らないとは…」
「そっかロインズちゃんはクランが出来る前にはもう何処かにいっちゃってんだね!」
「あ~成る程」
ホルンの一言に「どういう事です?」とアルノアが聞き返しグウェンも首をかしげホルンの言葉に注目している。
「えーっとね…」
「別に隠してないし言ってもいいの」
ホルンが言いづらそうにロインズを見ると一つため息をこぼし彼女は許可を出す。
それを聞いたホルンがロインズの出生と年齢を二人に話すと二人は神妙な面持ちになってしまう
「もう随分古いし気にしてないから、貴方達も気にしなくていいの」
「そうか…そうだな!」
「わかりました!」
と話を聞いた二人は笑顔をロインズに向け返事をする。
夜明け団のみんなはロインズの為に今では全冒険者の憧れのクラン世界を歩く者達についての説明をし始める。
「彼等は8年前まではsランクの4人パーティーでそこから急成長を遂げ今や約100人が所属するsランククランになったんだぜ!」
「クランっていうのはね、パーティーとは違って傭兵団に近い冒険者局みたいなもので、今だと大体8クランも出来ているの!クランには選りすぐりのエリート達が集められて少人数のパーティーではこなせない魔物の依頼やダンジョンの攻略、国に雇われたりしているところもあってその中で一番人気なクランが世界を歩く者!そのクランの団長さんの名前はロンさんって言ってワイルドで優しいのよ!」
「へぇ~師匠が…」
グウェンとアルノアが息のあった呼吸で交互に説明をすしていき、アルノアがクランの団長の名前を口にした時バドンは昔の事を思い出し少し気が緩みボソッと口から出してはいけない言葉を出してしまう。
「あ…」
「師匠って?」
「ロンさんが師匠なの!?」
「嘘だろ!?」
「すごい…」
口は災いの元…と言う言葉が有るように、時すでに遅く皆その呟きに興味津々に目を光らせていた。
そんなバドンはロインズを見るが少し呆れた目を向けてテーブルの上にあるスープを口に運んでいる。
「い、いえ違うんですよ…えっと…そう!!俺に剣を教えてくれた人の師匠がロンさんって言うsランク冒険者だと聞いていたのでそれで思い出して…」
バドンの死に関してはロンはどこかで聞き及んでいるはずで、彼は咄嗟に死んだ自分自身を剣の師匠だという事にしてその場を乗り切ろうとする。
「それでもさ!!!凄いじゃないか!冒険者の憧れであるロンさんに剣を教わった師匠を持つなんて!!」
「ロンさんは弟子を持たないで有名なんだよ!!噂ではたった一度だけ人に教えたことがあるって聞いたけど!もしかしてその人?!その師匠はどこに居るの?!」
グウェンとソルトが「俺らも教わりてー」と輝く瞳で訴えかけるがバドンは二人に心の中で謝りながら本当の事で固めた嘘を二人に話す。
「俺の師匠の名前はバドンと言ってロブロムの辺境の町に住んでいたんですが、半月前、丁度ロブロムの疑似勇者候補生の選抜大会が終わった直後、その村に魔王らしき魔人が現れたそうで、それと戦った結果亡くなりました、多分ロンさんもそれは耳にしていると思います。だからロンさんの名前を聞いて師匠を思い出して…同い年だったんですよ…」
ソルトとグウェンが「あの事件か…」と口々に言いながら暗くなるが、当の本人であるバドンは二人の表情を見て申し訳なさと緊張で胃がキリキリとする痛みを覚え、傍から見ていたロインズはプルプルと笑を堪えていた。
「ロインズちゃんとはその後に会ったの?」
「はい!森をさ迷って居るところを助けられて、魔法の師匠になってもらいました」
「だから魔法も体術もそこまで徹底して達人みたいになっているのか」
「俺よりも師匠達の方が何倍も強いですよ」
さも自分が弟子であったかのごとく口から出任せを言うバドンにロインズも流石に笑いが堪えきれなくなっているので急遽バドンは話題そらす。
「そうだ!明日は俺のランクが決まる試合があるので見に来てくださいよ!」
「ランク決めに試合?誰とやるんだ?」
「名前は分かりませんが緑色の髪でAランクだと言ってました」
ソルトの質問に素直に答えたバドンを夜明け団の4人が驚いた顔で凝視する。
「おい…それって…」
「Aランク冒険者嵐の狂犬じゃないか?」
4人の反応に(あの人そんなに強い人なんだ~)と遠い目をしながら心の中でバドンは宙に思いを馳せ、ロインズはとうとう堪え切れなくなり大きな声で笑いだす。
前書きにも書きましたが先週はすみませんでした。
実を言うともう下書きストックがなくて…(某死にゲーをやっていた自分が悪いんですが…)プロットから引っ張ってきて下書きがない状態から書いてるので少し遅めです。
なので自身の報いとして明日も投稿予定です!
そしてどうでしょう本編は、下書きが無かったので新しい挑戦として台詞多めで書きましたが、皆様はどっちがよかったですか?
いつも道理の描写か台詞多めか、自分的には台詞多めがスムーズだったんですが、その人物の心理描写が書きにくかったので、時と場合で使い分けます。
それではまた次回…
そうだもう一つ謝罪です、前回戦闘あるで!と後書きで言っていたのに蓋を開ければ戦闘なし…すみませんでした。
Twitter等もやっているのでフォローやご意見などはそちらで…(あまりいじめないで…小声)と言うわけでまた次回




