デスペラード編 第25章〈正体Ⅱ〉
冒険者局の酒場を抜けた先、冒険者たちがよく使う依頼を受ける受付では、受付嬢と紫色の髪をした少女が言い争いをしているのが聞こえてくる。
「お客様、申し訳ありませんが今のギルドの規定でそれはできないんですよ…」
「貴女じゃ話が通じないの!!!上に掛け合って!!」
「そういわれましても、貴女様のギルドカードの整合性が取れるまで数日かかりますので、でき次第ご連絡を…」
そんな会話がその受付の前で5分以上続いていた。
受付をしているのはロインズだ、彼女のギルドカードは数百年更新されてはおらず、彼女がギルドカードを提示した際にそのランクを見て受付嬢が彼女を疑い、ギルドカードの情報が幾万も保管されている冒険者局の本拠地へその整合性を確かめる為、冒険者局が運用する独自の魔法を駆使して彼女のギルドカードを二人に許可を取り送ったのだ。
結果は後日届くらしいのだが問題はその後、一緒に来ていたバドンがギルドカードを発行しようとした時に起こった。
ロインズは彼のランクをAランクから始めてほしいと交渉を始めたのだ、これには受付嬢もできませんと拒否をしたのだが、彼女は昔の知識にあった高ランクの者からの推薦であればランクをその者より一つ下の状態で始められる昔の冒険者局で使用できた方法を持ち出したのだ。
これに受付嬢が「現在はその者の性格や社会性を見極める為にその取り決めは百年くらい前に消えているんです」と説明をしたのだがロインズは「Bランクでもいいの」と食い下がり、そこから受付嬢と彼女との五分にも及ぶ攻防戦の始まりが幕を開けた。
「ロインズさんギルドカードの整合性を確かめてもらってからでも遅くないですから今日のところは…」
「さっきから騒がしいぞ、そこで何をやっている」
バドンがロインズを受付から引きはがそうとした時、冒険者局の二階に通じる階段の中腹あたりからドスの効いた低い声が受付嬢と彼女の場所に向けられは発せられる
「ギルマス!実はですね…」
そうして降りてきた人物に受付嬢が事の詳細を話す。
「なるほど、俺が対応しよう、次回からまたこのようなことがあれば俺を呼んで構わん、俺もギルマスとは呼ばれているが冒険者局の職員である事には変わりないのだからな、それでは件の二人は俺と二階へ来い」
そうしてギルドマスターと呼ばれた男に続く形で、ロインズとバドンは二階に上がる、二階に上がるときにバドンはふと受付嬢の方に目をやると顔を火照らせギルドマスターを目で追っているのが分かった。
(ああ、あの人かっこいいもんなぁ)
そう内心で思い回りに目を向けると、他の冒険者たちはギルマスに嫉妬の目を向けていた。
後の話だがバドンが他の冒険者から聞いた話では、彼らを担当した受付嬢はこの冒険者局の看板娘なのだと分かるのは少し先のお話…
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「それで?バルド君だったかな?彼をAランクもしくはBランクにしてほしいとの推薦の件だが」
冒険者局の二階の奥にあるギルドマスターの部屋に通され、ギルマスと机をはさんで座る形をとり席に着いた直後に彼からそういった質問が飛んできた。
「そうなの、さっきの受付の女性も説明したはずだけど、冒険者局にあるランク推薦方式を用いて彼のランクをBもしくはAランクにしてほしいの」
「若い娘が随分と古いギルドのルールを持ち出してくるてくるんだな」
「私は貴方が言うほど若くないの、それはカードを確認すれば分かると思うけど?」
ギルドマスターの答えに平然とロインズは答える、そんな二人をバドンは見守ることができず、どうかロインズが暴走しませんようにと心の中で願うのが精いっぱいだった。
「お前は自分がAランクの実力を持ってると言えるのか?」
「俺ですか?!え~と…」
唐突に話題を振られバドンは狼狽える、ロインズとやりあえる以上彼の力はSランク以上ではあるのだが、彼自身はちまちま功績を上げて上り詰めることも視野に入れていた。
(ロインズさんが焦る理由には見当はつくけど、それにはまだ猶予が一年以上残されているはずで、最悪の場合でもまだ半年以上は残されているはず、それなのに下で受付嬢と揉めたりギルマスにも上から目線な態度で接してるいつもと違うロインズさんに違和感を感じる…)
バドンはそう思いある仮説を自身の中で立て合っているか不安ではあるが、覚悟を決めた顔でギルドマスターの目を見据え答え始める。
「そうですね、俺は強いですよ、彼女が…エイミーが俺をここまで強くさせてくれました、そしてこれだけははっきり言えます、彼女に鍛えられた俺はこのギルドの誰よりも強いです」
その力強い返事を聞きギルマスは目の前の少年少女二人を交互に見る
(あのカードに書かれているもう一つの名前を知っているという事は、あのカードの持ち主は彼女で間違いないという事か、それにしてもこの少年少し俺の質問に慌てたと思ったが、質問の意図を読み取ってすぐに頭の中で整理をつけて検討をつけたな、なるほど…)
「…すまないな君らを試してしまって」
少し間をおきギルドマスターがそう言いながら、おもむろに胸ポケットからロインズのカードを取り出彼女の目の前に差し出すように置く。
「これで疑いは晴れたの?」
「ああ本部に送って整合性を見てもらうまでもない、君らの実力は本物だと分かった上でカードの本当の持ち主かを試させてもらったのだが、カードの裏の機能で隠している君の名前まで彼が知っているとなると疑う余地はないな、彼のランクについては検討させてもらって我らが提示できる最高のランクから始められるように本部にも伝えておく、決まったらすぐに連絡をさせてもらおう、歓迎する二人ともそしてロインズ君冒険者局に帰ってきてくれて助かる」
そうしてギルマスが二人に握手を求めるように席を立ち手を差し出す、それの行動にバドンとロインズは互いに目を見合わせ、その場に立ち彼と握手をしようとするとギルドマスターの部屋の扉がバンッっと大きな音を立て思い切り開かれる。
「ギルマス!ランク推薦できるSランクが来たってマジかよ!!俺が今年Sランクの試験受けれるようにしてくれ!!!」
緑色の髪をした勝気な顔の男は部屋に入るなりいきなりそんなことを口走る
「お前というやつは…できるわけがないだろう?!それに彼女はもう推薦する人物を決めている!」
「いいだろ!俺だって早く世界を歩く者達と一緒に冒険に出たいんだよ!」
父にねだる子供の様に緑髪の男はギルマスに詰め寄る、その二人の空気に置いて行かれたバドンとロインズはどうすればいいのか分からないといった感じでその様子を見守っていたが、その緑髪の男がロインズに視線を移し今度は彼女に詰め寄った。
「あんただろ!!頼むよ!Sランクが年に一回しか行使できない推薦権を俺にくれ!俺はこのギルドの中で一番つえ~んだ!茨の奴の師匠がSランクじゃなければ先に俺がSランクに推薦されてたはずなんだ!頼むよ!!」
その勢いにロインズは少し恐怖を覚え後ろにたじろぐ、その瞬間二人の間にバドンがスッと割って入った。
「何だか知らないけどこれ以上俺の師匠に近づくなよ?Sランクになりたいんだったら懇願するんじゃなくて自分の実力で認めさせろよ」
「んだてめぇ…邪魔すんじゃねーぞクソ坊主!!」
バドンは何故だか知らないが緑髪の男がロインズに接近した瞬間、彼の胸が締め付けられる感覚がして咄嗟に二人の間に割って入る、バドンと緑髪の二人はその場で今にも争いだしそうな雰囲気を醸し出し始めていた。
「落ち着け二人とも!アポロ君、こいつがした君への無礼大変申し訳ない、そしてこちら側の勝手な提案になるのだが二人が試合をして決めるのはどうだろう?」
ギルマスが今にも殴り合いそうな二人を止め提案をする
「俺達側にメリットがありますそれ?」
それに答えたのは少し声に力が入っているバドンだ、彼は今口では言い表せない様な怒りが胸の中から込み上げ必死にそれを抑えようとしてるがそれが声に乗って出てしまう。
「そう怒るな…メリットならある、この馬鹿はこれでもAランクだ、それを試合で打ち負かしたのならそれを参考にAランク以上のランクを与えやすくなる、君たちが何を目標にしているか分からないがAランク以上であれば君たちの目標もグッと近くなるのではないか?」
その言葉を聞きバドンは少し冷静さを取り戻す。
「俺はいいぜ!乗った!こんなガキよか俺がつえーってとこあんたにも見せてやるよ」
「俺もいいですよ、彼が踏み台になってくれるみたいなんで」
互いの言葉を聞き二人は睨みつけあい火花を散らしている、ギルマスはやれやれと首を振り二人を見据えて口を開く
「では明日の正午俺が指定するギルド闘技場に来てくれ、二人の試合を多くのギャラリーにも周知してもらう必要があるからな」
「こんな時も商売かギルマス?」
「違う、多数の者に新たに来た二人とお前の実力を周知させておくためだ」
ギルドマスターの考えは彼が述べたのと少し別のところにあるがあながち間違いは言ってはいない、彼はバドンとロインズの二人の実力を正しく認識している、そして緑髪の男の実力も、彼が新人に勝てないことも
「どちらが勝つにせよ証人が多い方がお前たちにも何かと理があるだろうからな」
「それじゃ明日だな」
それだけ言い残すと緑髪の男は部屋を後にする。
「巻き込んでしまって申し訳ないが協力してくれ」
「そんな!俺は別にかまいませんから、俺の方こそすみません」
ギルドマスターは緑髪の男が出た扉を見てため息をこぼし二人に向き直り頭を下げて謝罪をする、バドンは完全に冷静さを取り戻したのかギルドマスターの謝罪に慌てたよう返す。
「それじゃ俺らもこれで失礼しますね」
「明日はよろしく頼む」
「ええ」
そう言い残しバドンはロインズの手を引き部屋を出る。
「ディルフォード、貴様は喧嘩を売る相手を間違えているぞ…」
そうしてギルドマスターは椅子に腰を掛けて考え込む、今回来た二人は規格外の実力を持っている、少年は先ほど目の前にしても実力を測れなかった。
年相応の対応力だが頭の回転は速い、そして何より底の見えない実力、しかしギルドマスターが重く感じているのは彼ではなかった。
「ローズ家の失われた娘…太古の魔女…」
数百年前に騎士から貴族になり現在も疑似勇者を輩出している貴族ロブロム国の第三騎士団団長のカイゼル髭を生やした男ヴェスヴィアスの祖先、800年前に生まれたローズ家の異端の魔女の存在がギルドマスターである彼を悩ませていた。
「過去の英雄が生きていたことにも驚きだが、ローズ家は洒落にならん」
血を大事にする一族から生まれた異端の娘、ローズ家は彼女を未だに探している、その存在を抹消する為に…。
再度遅れて申し訳ないです。
ええ、そうです某氏にげーが楽しくて…
っとそんな事より今回はどうでしたか?ロインズさんの過去いやエイミーの過去が少しだけ出ました。
忘れてる方も居ると思うので良かったらデスペラード編序章〈運命〉のワンシーンで出たカイゼル髭の男をお探しください
ローズ家ロインズさんにはどんな過去があるんでしょうかね…
次回はいよいよAランク冒険者対バドンの戦いです!バドンは偽名でバルド・アポロと名乗ってるので時々?マークが出ますが頑張って掻き分けますのでどうぞ温かい目で見守ってください!
ではまた次回!




