デスペラード編 第23章〈畏怖〉
「ホルン俺は夢でも見てるのか…?」
「夢じゃないわよ…」
ソルトの言葉に、目の前に広がる光景から目が話せないでいるホルンは小さく呟く。
「ねぇ二人もこの魔物達から部位を切り離して欲しいの」
魔物の死骸の上で耳の先を切り取る作業をしていたロインズは、ソルトとホルンに手伝うように促すが、それに答えたのは商人のアルバだった。
「か、解体をしないのであればこれを」
そう言いながらアルバは透明な石を荷馬車の荷物の中から取り出す。
「これはなんなの?」
「え?知らないんで?」
「私が冒険者登録をしたのは年も昔だから分からないの」
不思議そうな顔をしたアルバはロインズの言葉を聞き「長命種のハーフでしたな」と頭を下げながら取り出した透明な石の説明を始める
アルバが取り出した透明な石は約五十年前に使用され始めた魔力を保管できる石なのだそうだ。
この世界のすべてには魔力が宿るが、生命が命絶える時魔力がその体から抜け落ち消滅していくのに目を付けた人物がいた。
その当時の冒険者局には、その場で解体ができる人物が居なかったり、止むを得ない事情で討伐した魔物の回収が不可能な時に耳の先端だけをもっていって魔物を特定しそして討伐報酬をもらうシステムを採用していたのだが、近年になってこのシステムの脆弱性が現れた。
一つ目は似通った特徴の魔物の特定が難しい事
二つ目がそれを利用し職員と冒険者が1ランク低い似通った魔物の耳を偽装し提出して裏でお金を得ている人物がいたことが発覚した事
この事件があり冒険者局の職員だったその人物はその石に可能性を見出した、それは偶然ではあったが彼が冒険者のパーティーの付き添いに言っている時に、その透明な石の近くで魔物を討伐するとその石は濁り色を変えたらしい、そしてその職員は石を持って急いで冒険者局に戻りその中を鑑定眼で確認すると討伐した魔物の名前が浮き出たのだ。
そうして今では魔物を討伐だけする際には皆この石をもって冒険に出るようになり、不正も起こらなくなったとアルバは説明した。
「そうなの、それじゃもらっておくのこれは使い捨て?」
「いいえ、その中に入った魔力は魔力薬に使われるらしいから冒険者局から返されるときはまた透明な状態で帰ってくるよ」
「魔力は混ざっていても分かるの?ここに広がってるのは一種類じゃないけど」
「ええ、魔力を抜くときにその魔力が何のものなのか何体討伐したのかも今じゃあ分かるようになったんでそこは安心してくだせぇ」
アルバの説明に納得がいったのかロインズはその透明な石を使い周囲の消滅しかけている魔力をその中に吸収した。
「ロインズさんってランクはおいくつですか?」
放心状態だったホルンはアルバとの会話が終わったロインズにそう尋ねる、彼女は未だに目の前で起こったことが信じられないでいた。
「えっと…」
「アラヴィスに着いてから知るのでもいいんじゃねーかホルン」
「ソルト…あんた気にならないの?だって八百近い魔物を二人だけで倒したのよ?私たちはあれを見ただけで脅えが止まらなかったのに」
そうこの場に居る五人の目の前には総数約八百近い魔物の死体が転がっているのだ。
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数刻前、魔物の森から木々を掻き分けて三メートル近い巨体のオークロードが彼らの前に姿を現し、続いてそこからはオークロードよりもでかいオーガロードが姿を現したのだ。
ホルンとソルト、そしてアルバまでもが悟った、これは魔物の大氾濫が起こったのだと、そして運悪く自分達がこの街道を進んでいる時に起こってしまったのだと。
氾濫は魔王出現とは異なる、これを統率しているのがBランク以下の種族の中から生まれるAランクの王、そして彼らは大軍を率いて近くの国に押し寄せてくることなのだが、今回はその王のランクが一つ上のオーガというAランクの種から王が誕生してしまい、あまつさえその王は別の種の王を従えてアラヴィスに向かっていく途中だったのだ。
この脅威は確かに高いが魔王の脅威よりは低くその国に在籍しているAランク以上の冒険者だけで対処可能なのだが、彼らはその魔物たちが狙っているアラヴィス王国に向かう途中の魔物の軍勢の先頭と運悪く出会ってしまった。
三人は絶望した、次々と森から出てくる魔物にそしてそれを率いているのが推定Sランクのオーガロードだったのがさらに三人を絶望へと追い込んだ、自分達の命運もここまでなのだと。
しかし残りの二人は違う感想を抱いた。
「いい練習相手ができました!師匠あいつらやってきます!!」
そんな陽気な声で荷馬車に乗っていたバルド・アポロもといバドンはホルンやソルトが気付く前に一直線にロードへと駆け出していた。
「周りは任せて」
そのロインズの言葉が彼に届いたのか彼は振り向かず手を上げるだけで返事をしすさまじい勢いで二体のロードへと迫る、その光景にホルンは「ダメ…」と小さい言葉をこぼし彼の背中を見つめるしかできなかった。
「大丈夫彼は強いの、こと接近戦ならなおさら私より強いから安心してほしいの」
後ろでどこからともなく取り出した杖を掲げて空中に魔法陣を描きながらロインズは魔法を行使する
そのロインズの一撃にロードを囲むようにできていた魔物たちの壁は崩壊し、次の二発目でロードを残し約八百もの魔物は絶命した。
「今のは…」
そうつぶやいたソルトの言葉にすかさずロインズが答える
「私が使用したのは魔法じゃないの、あれは魔導、あるパターンの文字列で魔法を起こすことのできる魔法国家ガーデンが開発した、魔力を自身からではなく外にある魔力を使用する行ってみればズルなの」
その言葉を聞き二人は絶句する、魔法国家ガーデンそれは約三百年前にあった魔法先進国家、今は名前を変え姿を変え魔法学園都市と名乗っているエリート魔術師しか在籍しないその言葉に三人は言葉を失った。
ロインズが魔導を使用した理由は、彼女自身の魔力を練った魔法ではこれ以上の威力を伴いこの三人を危険な目に合わせてしまう可能性があった、それを考慮して威力を外部に任せる魔導は彼女にとってかなり便利なものなのだ。
そして三人の衝撃はそれだけではなかった。
ロード二体を相手取り素手で彼らの攻撃をいなしながら、目の前で戦っている青年は笑顔を浮かべている、その光景は子供に稽古をつけている親のような光景だったのだ。
「ほらほら!!そんなんじゃ俺には一発も当てられないぜ!!」
遠くから三人の耳にそんな言葉が届く、あのロードはホルンやソルトが相手取っても一体も倒せない様な化け物なのだ、それをあんな子供をあしらうようにすべての攻撃をいなしながら小さい打撃を与える存在に三人は恐怖を感じた。
「もうすぐ終わりなの、採取の準備をするの」
その言葉に三人はハッとロードと戦っているアポロへと目を向ける、しかし彼は未だに小さい打撃しか与えておらず二体のロードは無傷に見えた
「あ、あの本当に…」
ドオォン
ソルトがロインズに言葉を掛けようとした時アポロが戦っている方からすさまじい音が聞こえた、そこにソルトが視線を戻すとオークロードがほぼ無傷の状態で倒れ伏しそしてオーガロードも口から血を吐き出し同じく大きな音を立てて倒れる
「今彼は小さな打撃を使って外傷をさせないで相手の中にダメージを蓄積して倒したの、確かどこかの国に内部を破壊できる技があるのだけど、それをまねたのね」
ロインズの何事もない漢字に三人はさらに動揺を隠せないでいた、死ぬと恐怖を抱いた大軍勢を二人だけで彼らは収めてしまったのだ。
これは彼らが知る限りで二度目の驚愕だった。
そして現在彼らは全ての魔物から魔力を集め終わらせアラヴィスの王都に進路を再び移動しだす。
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「おいおいこれはどういうこった?!」
赤髪で体験を背負った二十代後半の男は目の前に広がる死屍累々の魔物の屍を見て頭をかいていた。
「これって大氾濫よね?この魔力の感じからして一時間以上はもう立ってるわね」
茶髪の猫耳が特徴な女性が落胆をしている赤髪の大剣使いの後にその現場に着きその場の魔力を感じ取る
「ロン以外にまさかこんなことができる人がいるとは思いませんでした」
「あれだろあれ!?なんつったかロブロムの疑似勇者候補生のあの二人がやったんだろ?」
「候補生になって半年で血の女帝と稲妻の騎士の二つ名がつけられた疑似勇者候補生の中でも群を抜いて強いあの二人ですか?」
「そうそうそれそれ!!ひゃぁ~こりゃスゲー」
金髪の女性と黒髪の大男がそんな会話をしながら二人に合流する。
「ちげーなあの二人ならもっとここら一帯は血の海になる、これはまた別のだれかだろうよ」
「はぁ!?ロンみたいにできる人があの二人以外に居るって事?!何それ信じられない!」
「信じなくてもいーけどこれを見ろ」
そうして赤髪のロンと呼ばれた人物は倒れている二体のロードの亡骸の腹を容赦なく切り裂く、外傷が一切見られないその二体の体内はロンが切り開いた瞬間飛び散った。
「ちょっと何すんのよ!!かかっりそうだったじゃない全く…」
茶髪の猫耳の女性が文句を口にしようとした時言葉を失った、周りの二人も同じだったようでそのロード達から勢いよく飛び出たのは彼らの臓物だったのだ。
「俺がこれを開くまでこいつの内臓全部グルグルと回転していた、外傷はないし内部破壊ではこうならない、これやった奴は相当のバケモンだよ」
「本当に…」
「これは…」
「やべぇじゃねーか」
ロンの言葉に三者三様に言葉を返す、ロード達の内臓は彼らが付く一時間前からずっと回り続けていたのだ、これを可能にするのは計算された魔力操作と寸分たがわないところに拳を打ち付け、同じ量の魔力を相手に与え続けなければいけないのだ。
これと同じ現象は大魔法天空の大渦柱で行われる方法と酷似していた、一定の魔力で空気をからめとり一定数回転させながら巨大な竜巻を発生させるのだがこの魔法の恐ろしいところは、発生させた竜巻は三日間消えることなく回り続けあたりに大破壊を巻き起こす国が総出で使用する様な大魔法なのだ。
その手順と同じことをこのロード二体に外相を与えず倒したものは行った、そしてもし正しいく作動していたのなら、後数時間でこのロード達の体は周りの魔物を巻き込み始め塵のように細かく分解され消滅して、彼らにも悟らせることはなかっただろう。
「この数を倒すのと同時に掃除までしようって考えは嫌いじゃねーよ、俺はできねーがこれをやった奴は疑似勇者の二人にも引けを取らない、いやそれ以上の存在になるかもな」
彼のその一言だけでその場のパーティーは自覚する、今現状この世界に居る世界最強だと名乗る者たちが今年頭角を現し始めた者達より下なのだとそれに歓喜し同時に畏怖の感情を抱く
「まあ考えても仕方ねぇよ!俺らは俺らでできることをやるだけだ!」
このパーティーのリーダーである男ロンのそんな言葉に場の空気が少しだけ和む、世代交代はいつだって行われてきた、次に世代交代をするのは自分たちなのだとSランクパーティーそして今この世界の冒険者たちのトップに君臨するクラン世界を歩く者達は心にそれを刻んだのだった。
初めに謝罪です!!投稿がずれて申し訳ありません
書いている途中で設定の間違いに気づき今後の展開に関わる事だったので書き直しました。
今回は畏怖という事で目の前で自身の想像を超える出来事って尊敬もするけど恐怖もしてしまうんですよね!
今回はバドンの壊れっぷりが書けてうれしいですね!!彼がこれからどんな道を歩むのかお楽しみください!
ではまた次回!




