デスペラード編 第20章〈邪心〉
ガンッ
キンッ
ロブロム王国を抜けアラヴィス公国にある魔物の森では連日に渡り大きな戦闘音が響き渡っている。
剣を構える青年は自身の体躯より遥かに大きい豚顔のオークと戦闘を繰り広げている、オークは冒険者から奪った剣を用いて器用に青年に攻撃を仕掛けるが、青年は避けることをせず、すべての攻撃の軸をずらし受け流していた。
「やっぱりアイツとは違うな…」
ボソッと黒髪の青年がそんな事を口に出すが、オークの耳には届いていない、いや理解していないのだ。
今彼が戦っているオークは特殊個体でありその実力はAランクにも匹敵するほどの実力を有していたが、彼が半年前に戦った魔王になりえる才覚を持ったオークの足元にも及ばない、あのオークは自身の存在価値を魔人まで昇華させ彼を打ち破った、そんな当時の相手と同等だと一瞬でも思った目の前のオークの実力はそれほど高くなくそんな現実に彼は肩を落とす。
「終わりにしよう」
彼がそうつぶやくと目の前のオークはズドンッと大きな図体を大の字に広げて絶命した。
「バドン半年の間でよくここまで強くなったの、後二体の魔物を倒せれば勇者覚醒を行ってもいいと私は思うの」
「ありがとうございますロインズさん!」
バドンがオークを倒したところに、骸骨姿を黒いローブに身を包んだロインズが彼の後方の森から姿を現す。
「それじゃ帰るの」
「はい!」
そんな短い会話だけ交わすと二人は家路につく、バドンがロインズの元に来てからすでに半年もの時間が経過していた、バドンの魔力が爆発的に増加した事件の後、泣いて謝るロインズに彼は「あと一年以内に勇者覚醒できる肉体を作ります」と宣言し、その言葉以上の成果を見せた。
彼は今魔力枯渇状況下を用いて肉体に負荷がかかっている状態でAランクにも迫るオークの攻撃を通常時と同じようにすべて受け流していた。
それは常人にできることではない、実際に半年前の彼は剣を握るどころか魔力枯渇状態で立ち上がれず圧迫死してしまっている、しかし魔力のいや体内の精霊の爆発的な増加に伴い変革された肉体を持った後の彼は魔力枯渇状態でも多少の立ち歩きできる程度に肉体が強化された。
だがしかし、その後始めた剣の素振りでも肉体が耐えきれないことが分かった、いくら肉体の変革があっても通常より二倍以上に重く感じる剣を振るうことは容易ではなく、何度も腕の骨を折りながら彼は剣が素振りできる程度までその肉体を作り上げた、そして剣を想うよう触れるようになったころ低級の魔物から狩ることをロインズからの提案で引き受けた。
提案をしたロインズは彼女と契約をしている妖精アルプと相談して合計七体の魔物をバドンが魔力枯渇状態化で倒せれば勇者覚醒を使用できる肉体に仕上がると予想を立てた。
そしてバドンはその条件を半年の半数ほどを達成し、先ほどの魔物のであと残り二体の魔物の討伐すればロインズとアルプが提示した条件をバドンは満たすことになる。
「ところでロインズさん質問いいですか?」
「何?」
「あと二体の魔物って何ですか?」
二人は家に帰宅したのちに、食事をはじめその席でバドンがロインズに残りの魔物の情報を聞いた。
ここまで彼は、この家の付近に出没するFランクからBランクの魔物の討伐に成功している。
先に戦ったオークはランク上Bランクに該当しており、あの個体は彼が昔に戦った特殊個体と同じように変異した個体であったためAランクにも届く特別な個体のオークだった。
順当に行けば次はAランクの魔物の討伐なのだが、彼等の家があるアラヴィス公国に位置する魔物の森と呼ばれる場所であっても、Aランクに届く魔物は存在していない、厳密に言えば人類の国家の位置する場所の付近にはAランク以上の魔物は存在しないのだ。
理由は至って単純で、そんな魔物が出たら即座にAランク以上の冒険者のパーティーが殲滅に来るからだ。
この付近でAランク以上の魔物と戦うとなるとアラヴィス公国を抜けた先にある魔龍の谷に行くか、アラヴィス公国とロブロム王国の間に位置するこの魔物の森にあるダンジョンの内部に行くしか戦うすべはない。
しかし今のバドンではダンジョンは愚か魔龍の谷にすら行けない、その理由は…
「後二体の魔物と戦うのにまずバドン、貴方には冒険者局が発行する冒険者証明許可証、通称ギルドカードを作って貰うの」
「ですよね…どちらも冒険者にならないと通してもらえない場所ですもんね」
この世界の各国にある冒険者局から発行される『冒険者証明許可証』通称ギルドカードがなければどちらにも入ることができない、魔龍の谷なら忍び込める可能性が多少はあるが必要のない危険は避けた方がいいだろう、そしてダンジョンの内部に行くにはどうしても許可証が必要なのだ。
ダンジョンの門は太古の技術が使用されており、ギルドカードを通さないとその門は開かれない仕組みになっていた。
何故冒険者局が発行するギルドカードで、太古の技術であるダンジョンの門を開くことが出きるのか?その謎はダンジョンを発見した勇者が関係している、ダンジョンが発見されたのは今から遥か昔5000年前に現れた勇者が、当時でも遺跡になっていた門を解読しその門を開いた、そしてその技術を後世にギルドカードとして残したのだ。
その勇者の素性は一切が不明ではあるが彼が残した偉業は数知れない、先のギルドカードにそれを配布できる冒険者局の設立、そして魔物のランクやそれに応じた冒険者のランクなどの規定をすべて根底から作り上げこの世界に貢献している。
そんなギルドカードをバドンは見たことはあれど作ったことはない、彼は冒険者局に狩人として獲物を購買しに行っていたり、Sランクの冒険者に支持をしたりしたが、冒険者にはなっていなかったのだ。
「そんなに心配ならアラヴィス公国でカードを発行してもらうの」
バドンの深刻そうな顔を見て、ロインズはそう提案した。
ロブロム王国でカードを作ろうとすると、王国の疑似勇者騎士団に入った彼の知り合い二人に見つかってしまう可能性があったからだ。
騎士団は定期的に冒険者から依頼を任される、その依頼をもらってくるのは大体が候補生から抜擢される、この抜擢された人物が彼の知り合いの二人ではかなりまずいことになるのだ。
「お気遣いありがとうございます、でも魔物でもカードって作れるんですか?」
「大丈夫なの、貴方の今の部類は魔物ではなく妖精に近い魔人だから、ほらこれ魔人なら作れるっていう証明なの」
ロインズの気遣いに小さく頭を下げそして今の自分の状態でもカードの発行は可能なのかを聞いたら、問題はないと言うようにロインズから軽い回答がされ彼女はどこからか取り出したカードを彼に見せた。
「ギルドカード?ロインズさんのですか?しかもこれ…」
「そうなの、黒騎士様と別れた後いろいろと便利だから作ったの、あの頃はまだ筋肉はあったけどすでに私は魔人の部類に入っていたからこれで作れる証明はできたの」
「なるほど、それじゃ明日にでもアラヴィスによって作ってきますね!」
バドンの言葉を遮るようにしてロインズが説明をした。
彼はロインズが黒騎士と旅をしていたことを知っている、彼女自身がその旅について行けてたなら、冒険者になれても不思議ではないし何より現状の彼女がめちゃくちゃに強いのだ、それを理解した彼は簡単にその言葉を納得し、一人でアラヴィスに行こうと提案をするが
「面白い魔法が完成したから、私も明日ついていくの」
「え?」
表情の変わらない骸骨顔の彼女の顔をバドンは目を見開き覗き込む、それもそのはずだろう、何せ彼女のフードの下は全て骸骨なのだから…
〜〜 〜〜 〜〜 〜〜 〜〜 〜〜
「ヴッ…ウッッ」
ある国の王の寝室から女性の苦しそうな唸り声が聞こえてくる。
コンコンッ
「入れ」
寝室の扉を叩く音が聞こえベットの上に居る、全裸の大柄な男はメイド服が半脱ぎになっている女性の腰から手を放し、腰の動きを止める。
「くだらねぇ要件だったらその首切り落とすぞクソゴミカス」
大柄の男は扉の方を睨みつけるとそこには何処にでもいそうな老け顔のおじさんが頭を下げながら立っていた。
「我がマイロードよこの国を落とす準備ができました」
「ガハハハッ!そうかとうとうそこまで準備ができたかクソカス!!」
老け顔のおじさんより一回りも二回りも大きい男は全裸でおじさんの横までやってきてその背中をバシバシと叩く
「ゴホッゴホッ…あ、ありがたき幸せです」
老け顔のおじさんはむせ返りながらも褒められたのがそれほどうれしいのか、顔を破顔させ愛するものでも見るような目で全裸でいる大柄の男の事を見つめている。
「男にそんな目で見られても別に嬉しくねーが…ハッ俺のスキルはテメーみてぇな叩いて消えるスキルとは一味違うみたいだな」
「ごもっともでございますマイロード」
大柄の男がそう言うとすかさずおじさんは同意する、今の彼は自身の意志で確かに動いてはいるがそれは目の前の大柄な男のスキルがかなり彼の行動に影響を及ぼしていた。
「あの姉妹はまだ俺やてめぇの事を知らねーんだろ?この女にも飽きてきたとこだ、姉妹そろって俺の性奴隷にして孕ませてやる、てめぇもやるだろオオトモ?」
「マイロードの示すままに」
どこにでもいそうな顔のオオトモはこの世界に来てからある人物を操り監視下に居ている、オオトモのスキルは人形使いで、この世界に来てすぐにその力を発揮させた、それは今彼が破顔した顔で見つめている大柄な男、名をゲイシーと言って、この世界に勇者としてオオトモ達と一緒に来ていた男だった。
オオトモや他の勇者のアンナやソフィア達は彼を知っていた。
彼は三人の世界では凶悪な殺人犯で有名であり子供や老人あらゆる世代の人間を無差別に殺傷し、幼い子供や女性はこの男に弄ばれてから殺害されたものも多かった。
それを知っていた三人は初めに協力してこの男をオオトモのスキルで人形にしたが、先の疑似勇者選抜の戦闘にて最悪なことに彼は目覚めてしまった。
「さぁ俺様の時代の到来だ!!!」
この世界に産み落とされた厄災は自身の欲望のままにこの国に最悪のタイミングで牙をむいた。
今回は月曜投稿です!…
はぁ…とうとう勇者サイドと言いますか、ここまで見てくれている人たちなら感づいているかもしれないですが、自分は悪役を書くのが苦手でどこか見た事のあるような人物像になっちゃうんですよね…
ここからどんどん世界は混乱に満ち満ちますのでどうぞお楽しみに
悪役上手くかけるといいなぁ~
来週は書き上げるペースが早ければ出せますのでTwitterの方をご確認ください!!
それではまた次回




