デスペラード編 第18章〈教練Ⅹ〉
カーンカーンカーン
大きな鐘の音が鳴りロブロム王都にある疑似勇者騎士団候補生たちが教室を後にしていく。
新たな疑似勇者候補生を迎え入れてから1か月近くたとうとしていて、この国も厚着をしないとかなり寒い気候になっていた。
「今日の雑学は興味がありましたね!魔力!精霊の正体の仮説!!もしも本当に魂が精霊の正体なら魂に干渉する事ができる魅了魔法も説明がつきます!!!」
鼻をフンスッと鳴らしながら長袖にマフラーを巻いたフラウが嬉しそうに早口でそのすごさを説明していた。
この国の精霊研究に関しては世界の研究機関と比べても遜色ないどころか、こと精霊に関していえば世界でトップの研究をしているといっても過言ではなかった。
「そうですわね、まさかレイスに注目するなんて思ってもみなかったのですが、確かに魂と定義したら彼らが何故感情の詩を媒介にしているのかの説明もつきますわね、ただまだ荒い部分が多いと私は思いましたわ」
「え?!どんなところが?!」
顔をグインッと食いつくようにアルシェの言葉にフラウが反応する。
「ええ、もしも精霊がすべて魂なのでしたらすべてレイスになりませんか?私達はレイスの力を使い魔法を使用していると、レイスが魂そして精霊なのであれば辻褄は合いますが分類がしっかりと別れているでしょう?であれば魂ではない別の何かが正解なのではないかと」
「どういうこと?」
「そうね分かりやすく説明するわ」
そしてアルシェは自身の考えを述べ始める、魂=精霊なのであればそれはレイス=精霊も同義だ、しかし実際は精霊は鑑定眼のみでしか視認できなくレイスの様に肉眼で視認できたりしない、もしも精霊が魂なのであればレイスの様に魔法による攻撃でダメージがあるはずだが、精霊はレイスに与える魔法を媒介する魔力であって魔法でのダメージ判定はない。
要するに精霊=レイスではなく正式な回答は、魔法=魔力=精霊にならなければならないこの事から精霊はレイスに近しい魂に準ずる何かであって、魂そのものではないといった回答の方が正しいのではないかとアルシェはフラウに説明をした。
「確かに…そうだね、魂の存在を攻撃できる魔法の元が魔力で、その魔力は精霊そのものなのだったらレイスとは違う何かだよね…すごいなアルシェは」
「当然ですわ!!」
フラウに褒められたアルシェは顔を赤らめながらふふんッと反り返りその大きな胸を強調した。
『すごい!すごい!本当にすごいよ!!アルシェちゃん!!!あの授業でよくそこまでたどり着いた!!ほめてあげよう!!』
フラウの右肩当たりの空間がいきなりねじ曲がり小さな女の子が出現しながら元気な声でアルシェの周りを凄い凄いと言いながら飛び回る
「あら、ハルありがとう!貴女と会うのは1か月ぶりかしら?」
ハルと呼ばれた小さい女の子はウン!!と元気な返事をして未だにアルシェの周りを飛び回っていた。
「凄いって何がすごいのハル?」
『精霊たちが魂じゃないってことに気づいたことがだよ!!!みんな大体そこで勘違いを起こして精霊たちの本質を見失っちゃうのに!!』
フラウに聞かれたハルは素直にそう答える、ハルたち妖精は精霊に愛されその力で魔法の軌跡を人間以上の速さで使用する稀有な存在だ、そんな彼女が精霊は魂ではないとはっきりと言ったのが何よりの答えだった。
「ハル、貴女は精霊が何か知ってるの?教えてくれたらうれしいのだけど」
『アタシ達も正確には分かんない!でもね彼らは魂なんかじゃないよ!なんかねこうモヤッてした何かなんだ!精霊たちに魂があるなら私たちはお話しできるんだけど、精霊たちはおしゃべりなんかしないよ!!一方的にこれがいい!!とかこうしたい!!とかしか言ってこないの!だから精霊たちは魂じゃないの!』
「正体は分からないけど魂に近い何かなのは間違いなさそうだねアルシェちゃん!」
「ええ!そうね」
フラウに問われアルシェもそれを肯定する、そうしながら三人は食堂の方に向かい歩いていると食堂の前で何やら人だかりができているのが分かった。
「おいあれ!あの二人!またボロボロにされて帰ってきたよ!」
「特に男の方ひどいありさまだなズタズタじゃねーか、あの噂本当だったのかな?」
「えーそれだと幻滅しちゃーうまさか第一騎士団副団長まで上り詰めた人が候補生をいじめているなんて」
集団の方に近づくとそのような陰口が聞こえてくる、半月前から上がったピュートンに対する陰口、それは勇者と戦った候補生を副団長を下ろされたピュートンがいじめているといったものだった。
勿論この噂はフラウやアルシェも知っているが、しかし三人は素知らぬ顔で集団を掻き分けて、噂されている二人の方に向かっていった。
「またボロボロにやられたんですの?」
「ええ、歯が立たないどころか攻撃一つまともに与えられないわ、まるでバド…私の師匠と戦ってるみたい」
「てめぇーはまだいい方だよなテミス、アイツ俺には助言の一つもくれやしねぇ、そればかりか俺をイラつかせる言動ばかり取りやがって、当た真ん中真っ白でうまく演算できねーじゃねーかクソ!!」
アルシェが渦中の二人にそう言いながら近づくと、テミスとアキレシスはそれぞれが違う反応を示した。
テミスからは信頼や尊敬の念を込めた言葉に聞こえるが、アキレシスの言葉は恨み節しかなかった。
「仕方がないのではなくて?テミスさんは既に無詠唱を使えるようになっていますが、貴方ときたら未だにできてないではありませんか、確かピュートンさんの初めの課題は無詠唱の獲得そして無詠唱を用いた戦闘を体に叩きこむでしたわよね?」
「ああそうだよ!!でもな!!アイツははじめっから俺には助言なんて一言もねー!!アイツが俺にはじめなんて言ったか分かるか!?この程度ができないでアルシェさんにあんな生意気を言ってたんですか?だぞ!!!ふざけんじゃねーよ!!!!その上俺は戦闘訓練でサンドバック状態だ!!!!なにがしかたねーだ!」
今までの鬱憤が爆発してアキレシスはその矛先をアルシェに向ける。
それもそうだろう彼が言ったことは全てが本当だ、一か月前食堂を後にした、フラウ、テミス、アキレシス、ピュートンの四人はピュートンに連れられアルシェやスミスとテミス達が戦った実技演習場に出向いた。
そこで行われたのがピュートンを仮想の敵とした実技授業その中で三人はある課題を出された、それが無詠唱を獲得しそれを使用しての戦闘訓練だった。
その初めの訓練に合格したのはフラウだけで、テミスとアキレシスはその後もボコボコにピュートンにしごかれたのである、その中でアキレシスにピュートンが放った言葉が先の彼が言ったことであった。
そうして合格したフラウだけがアルシェ達と同じ授業を受けていという事なのだ。
「貴方、見込みがないと切られたのではありませんか?」
「…んだとてめぇ」
アルシェとアキレシスの間をバチバチッと火花が散っていると錯覚するほどにその場の緊張感が増していった。
「みんな早く食べないのかい?」
不意にテミスとアキレシスの背後からそんな言葉が掛けられる、そうその人物こそ他の騎士団員や候補生、果ては食堂を利用する兵士たちが噂していた人物であるピュートン本人だった。
それに気づいたアキレシスは振り向くなり怒りを露わにしてピュートンを睨みつける。
「誰の所為でこうなってると思ってるんだ?てめぇ…」
「僕の所為ではないだろ?君の責任だ、君は頭がいいと自称している割に無詠唱で魔法を発動できないと来た、君のその天才的な頭で早く無詠唱の答えに気づいてくれよ?出来ないと君はどんどん彼女たちに実力を離されて行ってしまう、まあ僕はそれでもいいのだけれど?所詮君とって僕は敬意を払えないただの烏合の衆の一人なのだろうからね」
「挑発してんのか?ここで捻り殺すぞ?!」
「できもしない大きな事を口に出すんじゃないよ?惨めに見える」
先ほどまでアルシェとアキレシスの間で起こっていた争いが今度はアキレシスとピュートンの間で起こり始めていた。
その場にいたアルシェもフラウも見たことのないピュートンの姿に少しだけ恐怖する、彼女たちが知っているピュートンはとても穏やかで優しくとてもこんなことを話す人間ではないと思っていたのだ。
「てめぇぶっ殺…」
ドサッ
殴りかかろうとしたアキレシスだったが、いきなりその場に倒れ込み動かなくなる。
「はぁ成長しないなぁ~、誰か彼を医務室まで運んでやってくれ」
「「はい!!」」
その場にいた兵士二人と目が合い二人は即座に行動を起こす。
「流石ですねピュートンさん今のは見えませんでした」
「ありがとうテミスさんそれじゃみんな食事に戻ろうか!」
ピュートンの号令で野次馬をしていた人たちが散らばり食事を再開する、しかしフラウとアルシェの二人は何が起こったのか理解できないと少しだけ頭を悩ませていた。
テミスがピュートンに対して何も違和感を感じてない事、それにアキレシスが急に倒れた事、二人の頭は情報が山となって思考を停止させていた。
「二人も一緒に食べましょう」
「え、ええ」
「は、はい~」
考えられない頭で二人はテミスの提案をすんなりと受け入れると四人は近くの空いている席に座り食事を始めた。
「そ、それであれはいったい…」
考えてもキリがないとアルシェが先ほどのことを二人に聞こうと切り出す。
「あれはいつもの事よ」
「い、いつも?ピュ、ピュートンさんも?い、いつもあんな感じなんでしゅか!」
フラウは緊張のあまり語尾を噛んでしまう、そのおかげか周りの空気が少しだけ和らいだ気がした。
「そうだね、彼とのやり取りの時は大体あんな感じ、だって彼もう答えを知ってるからね、しかし彼は何をそんなに焦っているのか今は強さだけをひた向きに追いかけてる、それが原因で周りに注意が向かなくなっていって視野を狭めてる、その証拠に一か月前彼はアルシェさんをその衝動に任せて殺そうとした。何があそこまで彼を焦らせ追いつめたのかは知らないけど、ただ今は彼が衝動に任せて全力を出しても、僕は越えられない壁だと認識してもらうしかないんだ、出ないと彼は彼自身の衝動に呑まれ道を外れてしまう、そのために僕もわざと彼を挑発しているんだよ、彼が冷静さを取り戻すまで」
「なるほど」
「そ、そうだったんですね!」
二人は納得がいったように胸をなでおろす、考えてみれば簡単なことだ、どれだけ激情型の人間だろうとあそこまで態度を180度変える人間はそうはいないだろう、彼は詠唱破棄を独自のやりやすいように改良し、それを頭で演算できるほど天才的な頭脳を持っている、そんな彼が考えなしに人にあたっている方が不思議なのだ。
「まあとにかく彼が次に目を覚ました時もまだ同じようだったら、今度は全力を出させたうえで腕の一本くらいは覚悟してもらうしかない」
「ひぃぃ」
ピュートンの冷たい視線と本気とも思える声音に、フラウは変な悲鳴を上げ、アルシェは生唾をゴクリとさせた。
「ピュートンさん!!二人が怖がってるじゃないですか!全く…二人もあまり彼の冗談を真に受けないでね?」
「じょ、冗談?」
「そ!フラウはすぐにアルシェと合流したから知らないのも無理ないけど、ピュートンさんって冗談が好きみたいなの」
呆れたように言うテミスに「いいじゃないか!!」と間抜けな声を上げながらピュートンは一人冗談に対する思いを語っていた。
「そ、そうですよね!!ピュートンさんがそんな怖い人なはずありませんよね!そんなかわいらしい妖精と契約したんですもん!!」
「「「え?」」」
フラウの言葉にアルシェやテミスだけではなくピュートンまで素っ頓狂な声を上げた。
どうも寝巻です!
今回は…衝撃の真実!!!のオンパレード!!!そして次回はやっと教練が終わってデスペラード編が動き出します!!
いやー今回のピュートン、お前妖精って何よ!!!って感じですよね、てなわけで今回はアキレシスサイドのお話の続きです!!季節は11月半ばごろでしょうか?秋から冬に移り変わるそんな季節…
いや寝巻よ現実と二か月くらい違うじゃねーかクソ!!!
そうこれ実は11月に投稿予定だったんですが、別の作品のインスピレーションが湧いてそっちのプロット書いたせいでこっちを書く時間がなくて…へへ(*´∀`)♪
今月は後1回の更新もしくは…2回になるかもです!!!
実は寝巻も仕事変わって書きやすくなったんで投稿増やしてもいいかなーって思ってるんですが、やる気パラメーターがいつ下がるのか分からないので適度に書いていきたいです。
ストックはあるんですが何度も読みなおしたり書き直したりストックとは言えない出来なので修正次第順次予約投稿で掲載していきます、が!!!もし3月になってもやる気パラメーターが上向きなら週三回月12回くらいの投稿になるかもです!!
まぁ寝巻の性格上ありえませんが…( ;∀;)
Twitterもやっているのでよろしければフォローしてお持ちください…って言ってんだけど寝巻さんここまで全部の後書き見たけどTwitter張ってなかったのよね…まいいか
寝巻小唄で調べれば多分出ます(笑)!
ではまた次回お会いしましょう!




