デスペラード編 第17章〈教練Ⅸ〉
「それでその魔力量はどういうことなの?」
ロインズは帰宅早々にバドンに問い詰める、バドンの魔力は昨日まで神の加護で得られる器をもってしてもロインズより少しだけ劣っているくらいの魔力量しかなかった。
しかし今はどうだろうか?増えないはずの魔力が今やロインズが霞むほどの、いや彼女があった事のある中で最強の魔力を誇る古の龍や魔王と同等の魔力量をバドンは纏っているのだ。
「どうと言われましても…気づいたらっていうか魔力を枯渇させた状態で考え事をしていたら、声?が聞こえてきて気づいたらこんなことに…」
「そんな事があり得るわけないの、普通の人間が、いや魔物であってもそこまで馬鹿げた魔力を有している者はいないの、貴方のステータスを見たところ前のと変わりがないのは確認したし、魔王覚醒も使用していないただの魔物が魔王やエンシェントと同じ魔力量を保有できるはずがないの」
現状のバドンの状態はありえないのだ、この世界で最強の名をほしいままにする古代龍や、世界の枠からはみ出た人外の魔王果ては門の向こう側からやってくる勇者と同等の魔力を持つ存在などこの世界には居ない。
現にロインズとて勇者覚醒をしても古代龍や昔見た魔王覚醒を使用した姫様の魔力に遠く及ばない、その事実から導き出される結果が、勇者覚醒を用いたこちらの世界の勇者と門をくぐって現れた勇者では同列の存在になりえないという事だった。
ロインズはそれを知っている、何しろ勇者覚醒を自身で使用したのだから、しかしその結果が今の彼女だ、肉は全て爆散し残ったのは骨と魔王や古代龍に及ばぬ魔力量、すべてが中途半端な魔物の勇者、それを知っているから彼女は否定するのだ。
「ロインズちゃ~ん、すこぉ~しだけ訂正するわねぇ~」
ロインズがバドンのステータス紙と睨めっこをしている時に横からプラムが訂正を入れ始める。
「そのステータス紙ぃ~もう彼には使えないわぁ~だって彼ぇ~私達と同種になっているんですものぉ~、正確には同種ではないんだけどぉ~本質では彼と私達妖精はぁ~同じ種族になってるのぉ~」
「「は?」」
アルプの言葉にロインズだけではなくバドンも口をそろえて絶句した声を出す。
妖精と同じ存在、それは精霊に愛されそして肉体を持たない存在に成ったとアルプは言ったのだ。
「それって、どういうことですか?」
未だに妖精を知らないバドンは説明を求める、その声は迷子になった子供の様に弱弱しかった。
「つまりあなたは妖精と同じ種族になったの、妖精族って言えばいいかしら、貴方はそんな彼女たちと同じになったのそれが意味するのは貴方はもう肉体を持たなくても生きられるって事なの」
「え?肉体を持たなくていいって…いや、ハハッ…だって今俺の心臓も血液も流れてるんですよ?それを亡くしてもいきれるって…ど、どういうことですか?」
「ここからわぁ~私がぁ~説明するわねぇ~」
バドンの激しい同様にロインズは彼から顔をそむける、それを見たアルプがロインズに代わり説明を始めた。
アルプ曰く妖精は肉体を持たない、厳密には肉体を持たないのではなく、彼女たちにとっては肉体は多種族とのコミュニケーションでしか使用しない鎧みたいなものだ、言うなれば彼らは幽霊に近い存在で、しかし明確な違いもあり、肉体を持っていない間の彼女たちは精霊と同様に肉眼では見えない存在になる、そしてそれを応用した魔法が肉体を持っている時にでも見えなくする魔法透明化なのだとか、バドンはそんな彼女たちと同等の存在になってる、その証拠にとアルプはロインズにある事を提案する。
「ロインズちゃ~ん彼にぃ~ネクロマンスの魔法でぇ~何か命令してみてぇ~」
「分かったの」
《我が従僕に告げる、その場で三回回れ》
・・・・・・・・
「どうしよう…」
ロインズはアルプの提案を受けてネクロマンスを発動するが何も起こらない、彼を起こした直後の命令に背くバドンとは違い、今の彼は自ら彼女の助手になると決め彼女の元に居る、そんな今の彼は彼女からの命令があった場合に即座に反応するはずなのだが、彼は動かない、そして命令に背こうとするそぶりも見えないという事はバドンはロインズのネクロマンスから完全に開放された証拠だった。
「え?!それじゃあ…俺次死んだら終わり?」
「肉体は壊れちゃうわねぇ~」
ロインズのネクロマンスから解放されたバドンはもう彼女とのつながりがない状態、彼女が死なぬ限り死ねないという制約が無くなった以上彼はいつでも死ねる状態になっている、しかし妖精と同種となったという事はもう一つ利点があった、それは…
「でも、妖精と同種になったってことは俺も不老不死ってことですよね!別に心配する事じゃ…」
バドンはそこまで言ってからロインズの様子に気づく、彼女は先ほどバドンの顔から目を背け今は顔を俯けて肩を震わせていた。
「…さ…い」
そんなロインズはギリギリ聞こえない掠れた声で何かをぶつぶつとつぶやいていて、そんな彼女の言葉にバドンは耳を傾ける。
「ごめ…な…い、ごめん…な…さい、ごめ…ん…なさい…」
「な、なんで泣いてるんですか?お、俺魔力増えて強くなったし、ロインズさんの魔法破ったんですよ!ほ、ほめてくださいよ…」
ロインズは俯き流せぬ涙を流していた。そんな彼女をバドンは初めて見て彼女が喜ぶようにお茶らけるが彼女が泣きながら謝罪をすることをやめようとしなかった。
「バドンちゃ~ん、あのねぇ~彼女が泣いてるのわねぇ~もうあなたを救えないかもしれないからなのぉ~」
「ど、どういうことですか?」
「それはねぇ~貴方がもしぃ~魔王覚醒を使ってしまった時に備えてぇ~私たち精霊と彼女のネクロマンスでぇ~貴方を呼び戻すことを計画していたのぉ~でぇ~もぉ~貴方が彼女の魔法を破ったことでぇ~もし貴方が万が一にでも魔王覚醒を使ってしまったらもう戻せないのぉ~」
「ほ、本当ですか…?」
そうつぶやいたバドンはアルプの真剣な表情を見てそれが嘘ではないことを悟る、ロインズが計画していた万が一の対策、そのすべてをバドンが異常な存在になったことでできなくなり、彼女は自分自身を攻めて涙していた。
彼女にとってバドンはもう弟子以上に大切な存在になっていたのである。
「で、でもまだ妖精と契約できますよね?」
「もう無理ねぇ~私たちはぁ~同族との契約はできないのぉ~」
「…そうですか」
妖精は妖精同士では契約ができない、理由は簡単だ、彼女たちの種族は単体で完成されてしまっていた。
彼女たちは肉体に囚われない、必要な時に肉体を生成して不必要になったら捨てればいいのだ。
彼女たちは感情に縛られない、純粋であるが故に彼女たちを精霊は愛するのだ。
彼女たちは間違いを犯さない、そんな彼女たちだから間違うことのある人間に惹かれるのだ。
彼女たちは憎しみを持てない、人間の悪意や欲望にさらされた彼女たちは既に人間を許している、しかしそれでは彼等の為にならぬと姿を消しているのだ。
そんな完璧な彼女たち自身だからなのか分からないが、彼女たち同士では契約は履行されない、これは大昔に彼女たちが遊びの中で見つけた答えの一つでもある
「ロインズさん!!!大丈夫です!まだ勇者覚醒があるでしょう!ロインズさんが提案したんです!これにもなんな秘密があるんでしょ!」
「ウッ…グスッ、ウン」
バドンは考えても仕方ないとロインズが元々やろうとしていた事に考えを変えた。
初めからロインズはバドンに魔王覚醒を使用させる気はない、もしもの為に妖精との契約やロインズのネクロマンスが必要なだけだ。彼女が初めからやろうとしているのはバドンの持っているもう一つの機能勇者覚醒の方である。
「で…でも、問題があるの」
「なんです?全部解決しましょう!」
バドンの元気な様子にようやくロインズは落ち着きを取り戻し、そしてその問題とやらをバドンとアルプに語る
「バドンの肉体は以前のままなの…そして恐らくその魔力だと魔王覚醒が勝手に発動するまであと二年もないの」
「大問題ねぇ~…」
ロインズの言った問題はアルプとバドンの想像をはるかに超えたものだった、当初は五年だったタイムリミットがあと二年まで短くなったのだ。
「大丈夫!!何とかしますよ!」
それを聞いてもなおバドンは笑顔でロインズに返す、彼の不安が彼女に気づかれないように。
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ロブロム王国疑似勇者騎士団実技演習場にて3人の候補生と1人の教官の姿が見える
「それじゃ今から僕がいいっていうまで三人には無詠唱をの訓練をやっていきます!」
「無理ですよ?」
「できるかしら?」
「ハ、ハルが居れば、なんとか」
ピュートンの言葉に三者三様に答えを返す、彼らがこれから行うのは言うまでもなく勇者や魔王、の選ばれた存在や妖精や森妖精といった特殊な種族しか使用できない裏技を使えるようにするというのだ、ここでの反応ならアキレシスの反応が一番にまともだったろう。
「できなきゃ君らは次のステージに上がれないよ」
そう言われアキレシスとテミスはムッとした顔をして、フラウはアハハ…と諦めたような乾いた笑い声をあげた。
「まあお手本から見せていただこうかな?フラウさん前に来て僕と戦おう!」
「え!?」
そう言われたフラウは動揺を隠せない様子でおずおずと一歩前に出た。
「二人は見ててね!これが無詠唱同士の戦いだから、それじゃいくよ!!」
そうして唐突にフラウvsピュートンの戦いが始まる
「きゃぁぁあ」
ピュートンの放った氷の槍に変な悲鳴を上げながら岩の壁でフラウは防御する、しかしその壁に阻まれ彼の姿を見失ったフラウはキョロキョロとピュートンの姿を探し始めた。
その様子は傍から見たら滑稽なのだが、テミスとアキレシスは彼女が只者ではないと知っている。
「はぁああ」
どこからともなくフラウの背後にいきなり出てきたピュートンに対して姿を現せたと同時に彼女は彼の出現位置に火の玉を放ち彼に近づかせる暇を与えず中程度の距離で魔法を撃ちあっている、その戦闘を二人は真剣な眼差しで見ていた。
「凄い…」
唐突にアキレシスの口からそんな言葉が出た、それもそのはずだ弱いと思っていた彼女は今まさに疑似勇者の第一弾副団長だった男とまともに魔法合戦をしていたのだから。
「そこまで!ふぅーさすがだね!フラウさん!」
「あ、ありがとうございましゅ…」
褒められたことにより最後を甘噛みしてしまったフラウはシュウゥゥと顔から湯気が出るのではないかというほどに顔を真っ赤にさせていた。
「フラウさんは合格だ!フラウさんは二人が無詠唱を使えるようになるまで他の人達と座学や訓練をやってていいよ!二人が無詠唱を使えるようになったらまた呼ぶから今日は解散!」
「はい!」
そう言われたフラウはピョコピョコと飛ぶように走り、出口付近でくるっと振り返るとピョコっと一礼して演習場を後にする
「それじゃあ二人も始めようか!」
「はい!!」
ピュートンの言葉に元気よく答えた二人だが彼らはこれから一か月近くピュートンにボコボコにされ続けることをまだ知らない
寝巻です!!!
今回は前回の続きとそしてちょっとテミスとアキレシスサイドのお話です!!
いやーバドンどんどん人外になっていっちゃうし
アキレシスとテミスに関してはボコボコにされるのか…かわいそうに…
とまあ今回はここまでですが来週なんと!!色々新事実が?!まあ次回のお楽しみという事で!
それではまた次回




