デスペラード編 第16章〈教練Ⅷ〉覚醒Ⅱ
“私は平気です_様…姫様の元に向かってあげてください”
嘘を吐いた…
“一人でも平気です_様!!姫様が予言した少年の捜索は任せてください!一人旅はきっと楽しいです!”
嘘を吐いた…
“私の助手になってくれる?”
嘘を吐いた
…私はまだ誰にも本当の事を言えない
幼い頃の私には姫様だけが光だった。
そんな私は恋をした。
でもその人は私が好きだった姫様を愛した。
それでも良かった、3人で過ごした楽しい日々があったから、でもそれだって長くは続かなかった。
魔王の門が開き姫様を吞み込んだ日からすべてが変わった。
__様と旅をした、気が遠くなるほどの長い時間を、_様と二人で旅をして姫様と姫様が最後に残した予言の少年を探した。
私と_様は世界の隅々を旅してまわったが姫様の痕跡は欠片すら見つからない…
そんなある日突然姫様の情報を持つ人物が私たちの目の前に現れた。
〝君らの姫様は世界を救う為に君らの前から消えたんだ、もし君らがまた彼女に会いたいのなら生きなさい、生きて生きて、死にたくなっても足掻いて生き抜きなさい、そうして君らが生き抜いた未来に彼女はいるよ”
アラクネの王がそう語る、私と_様はその言葉に縋るしかなかった…
姫様を失い_様が衰弱していく様子を見ていられなくなった私は、互いの為と偽り別々の道を行くことを提案した。
_様と別れて数百年が経過した…
しかし未だに姫様の痕跡は見つからない、そして姫様が最後に残した予言の少年にも出会えない、私は孤独に押し潰されそうになり、そんな自分と決別するべく勇者覚醒をして肉体を捨てた。
さらに数百年が経過した…
もう生きるのも止めようと三人で過ごした幸せな日々が多く残る王国に、骨を埋める為に通った森の中で魔族と鉢合わせした。
その魔族は上から目線で偉そうに「神に選ばれた私は最強の魔王になるのだ」と私を部下に勧誘してきた。
そんな魔族に何故か腹が立ちグチャグチャに壊した。
その時奇跡が起こった。
大昔にずっとお側で触れていた姫様の魔力と同じ魔力の波長が私の失ったはずの肌を掠めたのだ、しかしその魔力は姫様よりもものすごく小さくそして直後に消えかけてしまった。
姫様の手掛かりかもしれない少年を私はネクロマンスで蘇らせた。
蘇らせてから気づいた、彼が姫様が予言していた少年なのではないかと。
でも違った、彼のステータス紙には婚約の儀が施されていた。
やっと会えたと思ったのに、私を孤独から救ってくれる、私だけの王子様に…
姫様と同じ魔力を持つ私だけの…
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「…ちゃ…ロ…ズ…ちゃ…ロインズちゃ~ん!」
「何!?」
数十年ぶりの深い眠りに陥っていたロインズは大声で呼ばれベットから飛び起きる。
「よぉ~くこんな時に寝てられるわねぇ~ロインズちゃ~ん」
ゆったりとした口調だが早口に聞こえる不思議な口調でロインズの回りをパタパタと飛ぶアルプは半目状態でじっとりとロインズの顔を覗き込んでいた。
深い眠りから急に起こされ未だに頭の回らないロインズは、寝ている間に何者かがここを特定して襲撃してきたのかと慌てて頭を働かせようとする。
「空が落っこちてきたみたいなぁ~こぉ~んな魔力の重圧のなかでぇ~、よぉ~く寝ていられるわねぇ~感心しちゃうわぁ~」
アルプの言葉が耳を通って頭が理解したとき、ロインズは背筋が凍る感覚を覚える。
「古の龍が攻めてきたの?!!」
「ではなさそうなのよねぇ~、彼女の魔力わぁ~ここまで綺麗な魔力の波長をぉ~していなかったはずなのぉ~」
「じゃあ何が…」
「わからないわぁ~何千人もの人間がぁ~ぐちゃぐちゃに混ざりあってぇ~一つの綺麗な宝石みたいになってるぅ~こぉ~んな不思議な魔力わぁ~見たことがないわぁ~」
その魔力はアルプの言った通り色々な人間の魔力がごちゃごちゃに混ざっていて、例えるなら肉や野菜、果物や発酵物なんかを混ぜ合わせたような吐き気がするジュースを、誰もが飲めるような美味しそうなジュースに見えるよう、上辺だけを取り繕った代物だ。
もし本当にそんな数の人間の魔力を一つにしているのであればエンシェント並みの魔力になっているのも頷けた。
「家の中にバドンの魔力を感じない…急いで元凶のところに向かうの!バドンは死んじゃってるかもしれないけど、私のネクロマンスで復活できるからその時はアルプ、貴女に時間稼ぎをお願いするの」
「分かったわぁ~、どこまで通じるかわからないけどぉ~やれるだけやってみるわぁ~」
そうして強大な魔力の元凶の元に2人は急いで向かう。
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“あの人を助けて!!”
“あいつを殺したい!!”
“彼に謝りたい…”
“彼女が欲しい”
“王都に住みたい”
(無数の人の感情が押し寄せてくる)
バドンは仰向けの状態で悠長にそんな事を考えている、その感情一つ一つは彼らにとって大事なものなのだろう、恨みも辛みも、幸せな願いも叶わぬ夢も、今は存在しない魂達がバドンに理解してもらおうと、遂げてもらおうと託す様に彼の空いた魔力の器の中に流れ込む。
「叶えてあげられるかは分からないけど…君らの願いは受け取ったよ…」
彼がそうつぶやくと魔力の荒らしは次第に収まっていく。
「…バドン?」
ふと足元から声が聞こえバドンは仰向けの体を起こすと、そこには慌てて駆け付けたのだろう乱れた服のロインズと、険しい顔をしたアルプが立っていた。
「ロインズさんとアルプさん?どうしたんですかそんなに慌てて」
二人の尋常ではない慌て具合を見てバドンにも緊張が走る、ロインズの立てた小屋みたいな家は森の中なのに魔物の襲撃がない、それはロインズが魔物避けの魔法を張っているからだ。
それを突破した魔物がいるのならば二人が険しい顔をしているのも頷けるのだが、二人の雰囲気からしてそうではないらしい。
「そ…その魔力…」
「下がってぇ~ロインズちゃ~ん」
ズガガッ
ロインズの言葉を遮りアルプがバドンにいきなり風魔法で攻撃を仕掛ける、鋭く風の刃がバドンを切り裂くはずだったのだがバドンは両腕をクロスして後ろに押される形になっただけでそこまでダメージが入っているようには見えない。
「どうして!???」
それを見たアルプは悲鳴のような叫び声をあげた。
「ちょっと!いきなり何するんですか!?」
「アルプ何するの!まだそうと決まったわけじゃ…」
「ロインズちゃん!!!今の見てわからない!?異常事態なのよ!!あれは貴女のお弟子君じゃないわ!!!」
いつものゆったりとした口調じゃない本気で焦っている時のアルプの声にロインズは肩をビクッと震わせる、アルプが焦るのも無理はなかった。
「精霊が…私に力をくれないのよ!?あれは私と同種!いいえそれ以上の何かなの!!あれを倒さないと貴女のお弟子君は救えないわ!!!」
「ちょっと!!!話を聞いてください!!」
バチッ
そうして再度攻撃を仕掛けようとアルプが魔法を使用したとき、彼女が展開していた魔法が大きな音と共に砕け散った。
「嘘…精霊に拒絶された…」
アルプは生まれてからこれまでなかった出来事にショックを受けて、地面にぺたりと座り込む、その様子を見たバドンは「はぁ~」と一つ大きなため息をして生きている事に胸をなでおろし二人に近づこうとする
「来ないで!そこで止まるの!」
「え?!」
急な停止命令にバドンは体をビクッと跳ね上げその場で止まる
「あなた本当にバドンなの?」
「へ?」
「だからあなたは本当にまだバドンなのかって聞いてるの!!」
「…そうですが?」
質問の意味が分からずバドンは間の抜けた顔でロインズの質問に答えた。
「証拠を提示できる?」
「…無理ですね」
ヒュンッ
バドンの言葉にロインズは土魔法で作った弾丸をバドンに放つ、彼女の魔法は彼の顔のほんの数センチのところをかすめるが彼もそれを理解しているのか躱すそぶりを見せなかったが、彼は別の理由で慌てる。
「ちょっと待ってくださいよ!!無理でしょ!?自分を証明するの!!」
「証明ができないならここで死んでもらうしかないの!」
「だから…」
そこまでして彼女たちは何の証明が欲しいのか分からないバドンは頭を悩ませていると、地面に座っていたアルプの方からも質問が飛んでくる。
「あなたは女性のどんな部分に性的な興奮を覚える?」
「グッ…それは…首筋と太ももです…、特に太ももが好きです」
この質問は妖精との契約に必要だと言われてアルプに聞かれた質問だった。
この質問で疑いが張れるならと恥を忍んでその質問に回答する、回答をしたバドンの顔は一目見るだけで分かるくらいに赤くなっていった。
「ごめんなさいね、本当にまだお弟子君みたい」
「よかったの…」
「分かってくれて一安心ですよ」
三人は深い溜息を一つ吐いて気分を落ち着かせて、ロインズの小屋にひとまず戻ることにした。
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「ゼウス、我が同胞にして神々のまとめ役よ貴殿の耳に入れておかねばならぬ話がある」
玉座の間の扉をバンッと思いっきり開け放ちながら筋骨隆々の大男が、髭が首を隠すほどに伸びた男をゼウスと呼び彼の前まで歩みを進める。
「いきなりなんだ?貴様は…、確か名はアレースだったか?して俺の耳に入れたい用とはなんだ?」
「地上に膨大なマナの渦が発生したと報告を受けた、この報告によりスキル魔王覚醒を使用したものが800年ぶりに現れた可能性が高い、我らは今あの黒玉野郎にくぎ付けにされてる、我が子らに支援したくてもできない状態だどうする?」
神殺しを見つけた神々はそいつの根城を特定し、一刻も早くそれを殺すため全勢力で戦いを仕掛けたが、のらりくらりとその対象に逃げられ時間を取られていた。
「アレに割く人員を減らし支援すればいいだろう?何故それができぬ」
目の前の同胞に対してお前は馬鹿なのか?と言いたそうな顔でゼウスはアレースを睨みつける
「それができたら苦労せぬわ!あの黒玉、こちらの戦力と同じ戦力を八度だぞ!?八度もそろえてきよった、もしこちらの戦力を少しでも落としてしまえばこの拮抗した状態が崩れるやもしれん!そんな危ないを貴様は渡れるか?」
「無理だな」
「であろう!?」
そう黒玉野郎と呼ばれた神殺しは八度の全面戦争で、襲ってきた神の数、そしてその神々と同程度の力を持った黒い人型を集めて神側に多大な被害をもたらしていた。
神々からの死者は未だ報告されていないまでも、神々側も戦争で多くが手傷を負ったり魔力をかなり消耗させられたりと色々と時間を稼がれ、そして一番厄介なのがその都度彼ら神々を嘲笑うように黒玉はその戦場から姿を消す。
「今奴は防戦に徹しているが、我らが子らに意識を向けた直後に攻撃に転じてくるやもしれん、そんな中で子らの世界に魔王が誕生した可能性が出た、これは偶然だと思うか?」
「いや、狙ったのだろうな、我らが子らを優先すると考えて」
「であろう?!何か策はないか?と聞きに来たのだ」
アレースは腕を生み「俺には見当がつかん」とそれはそれは堂々とした佇まいでゼウスが答えを出すのを待っていた、そんなゼウスは自身の髭を触りながら「フフッ」と小さく笑った。
「それは俺が対応しておく貴様は引き続きあの黒いのを何とかすることに専念してくれ」
「おお流石は全知全能の神の名を賜った同胞だ!!俺には分らない事だろうがクロノスにはその策を伝えておけ、あやつは貴様の弟を憎からず思っていたのだろう?あやつは頭も切れる、助けになるやもしれぬぞ」
ガハハハッと大笑いしながら来た道を戻るアレースの姿を見送りながらゼウスは先日の全員を集めた集会の事を思い出していた。
「あの娘か…本名は何だったか…しかしアバドン…いやアランよ貴様は多くの者に好かれていたのだな…」
あの集会で一番最初に声を上げた女性を思い出しながらゼウスは、彼は一人玉座の間で亡き弟を夢想した。
あけましておめでとうございます!
どうも寝巻小唄です。
今回の話どうでしたか?
神々サイドの話本当はもっと後半でもよかったんですが、決めた文字数に足りなくて、まあ書いたら超えちゃったんですが…
ともあれ物語はここから多分かなり動くと思います!!
次回はお久しぶりのテミスサイドのお話です!彼らが今後どうバドンとかかわってくるのか、そしてそろそろ疑似勇者の選抜大会で現れた勇者サイドのお話も入れます!!
Twitterもやっているのでフォローしたりしてお待ちください
第2と第4の日曜もしくは月曜の20時に投稿していきたいと思いますが、進行度から増えたりする可能性があるので増える際は前の話のあとがきもしくはTwitterで報告します来週もあります!。
ではまた次回来週にお会いしましょう。




