デスペラード編 第14章〈教練Ⅵ〉
「簡単に説明すると妖精とは精霊に愛された存在の事なの、勇者と同等かそれ以上に愛された彼女たちはある契約を人間と施してくれるの、それが何かあなたならわかる?」
話を振られたバドンは既に満身創痍、右腕が千切れて体中をズタズタに何かに切られた跡がある。
そんな様子の彼を横目にロインズは偶然か必然かピュートン達が食堂で妖精について話し合いをしていたのと同じような話を彼に聞かせる。
「その話今じゃなきゃダメですか?俺もう死にそう…」
ボソッと本音をこぼすバドンは目の前の骸骨がニコッと笑ったような気がして背筋を冷ややかな汗が流れた。
「貴方が私の忠告を無視して魔力枯渇状態で無謀にもゴブリンに挑むから悪いの!これは躾なの!悪いことをした子にはちょっと痛い思いをして反省させた方がいいって黒騎士様も言ってたし、それにあなたは私がいる限り死なないから大丈夫なの、反省しなさい」
「うぐっ…すみません」
バドンは図星を突かれて素直に謝る、彼は今ロインズの元で修業を始めていた。
ロインズの元で修業を始めて今日で5日が経過していて、彼は出された修行の課題を未だに突破できずに焦る気持ちで無謀なことを行い現状のズタボロな姿になって帰ってきたのだ、そんな彼を見たロインズは案の定説教を始めた、そのついでの話として妖精について彼に話をし始めた。
「簡単に説明すると妖精とは精霊に愛された存在の事なの、勇者と同等かそれ以上に愛された彼女たちはある契約を人間と施してくれるの、それが何かあなたならわかる?」
「分からないです」
ズタボロの状態のバドンにロインズは質問を投げる、バドンは妖精について何となくは知識としては持っている、黒騎士の物語にも妖精は出てきていたので興味本位で調べたこともあったが、妖精に愛される才能を持つ子供の事例は神の加護を複数所持している人間以上に滅多にいない、故に妖精について書いたどの本も曖昧なことしか書かれていなかったのだ。
「妖精は滅多に人前に姿を見せないし人と仲良くなる事は滅多にないの、それは世間に妖精の情報が出回っていないことがその証拠ね、それでも彼女たちはたまに私たち人間の中から彼女たちの好みに合う人間と契約をするの、その契約は貴方にも関係があるの、ここまで言えば何の契約かくらいは察しがつくんじゃないの?」
「すみません…現状の状態と魔力枯渇状態で頭がぼーっとして話が…」
「もう!!今回だけ許してあげるの!治してあげるからちょっと待ってるの」
このままじゃ話が進まないとロインズが折れてバドンの治療をし始める。
本来なら肉体の損傷はロインズのネクロマンスの影響で直ぐに治せるのだが、魔力枯渇状態では治りが極端に遅くなる、理由は簡単だ魔力枯渇状態とは簡単に言えば術者の魔力をゼロにした状態のことを言うのだから、いくらネクロマンスで治せるといっても対象に一切の魔力が無ければその治りも極端に遅くなる、もとをただせばネクロマンスもヒールの一種で対象の魔力を活性化させ肉体の損傷を補う役割がある、しかし対象に一切の魔力が無い場合は外部の魔力を使用しなければならない為治すのが困難なのだ、理由はシンプルで外部の魔力を操作するのはどんなに卓越した魔術師にも非常に難しい事だからだ。
この世界の物にはどんなものにも魔力が宿っている、その辺の草木や川の水、石ころや昆虫にも魔力は宿っていたこの世界に欠かせない仕組みになっていた。
この世界に欠かせない魔力だからこそ魔力枯渇を引き起こしてしまえば想像もできない苦痛が待っている、それはどんな物に対しても常に平等に、その平等に先日バドンは殺された。
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「ロインズさん修行って何をするんですか?」
それはバドンがロインズの修行をするとなった初日の出来事だった、勇者覚醒のスキルを扱えるように訓練をすることが決まったその日にバドンはロインズにその方法を聞いた、彼自身、父やSランクの冒険者のロンに弟子入りをして剣術を磨き上げた。
その実力はSランクに届かないまでもAランクでは上位の者に届く実力が確かにバドンにはある、それだけで一生安泰の実力なのだが彼の友人や恋人だった者はその先に進もうとしていた。
疑似勇者候補生、二年の訓練を経てSランク冒険者と同じ扱いになる疑似勇者に成れる、そんな彼らに追いつきたいと彼は心の中で願いその夢を叶える事のできる存在が目の前に居るのだ、彼が胸を期待で膨らませるもの無理のないことだった。
「貴方が初めにやるのは魔力枯渇状態でのAランクモンスターの討伐なの、今の貴方のその肉体じゃ勇者覚醒に耐えれない、だから最短で最大負荷を掛けれる魔力枯渇状態で貴方の体に負担をかけ肉体強化するの、現にこの方法が一番早い」
「魔力枯渇ってあの全身の体重が倍以上になって、下手すれば転ぶだけで骨が折れて倦怠感でまともに動けなくなる状態のあれですか?」
そうこの世界の生物は魔力がゼロに近づくと倦怠感に襲われ始め、魔力が無くなったと同時にその倦怠感と体重の急激な増加で体を動かなくして、三半規管に異常をきたし目の前をグルグルと回し方向感覚を狂わせてしまう恐ろしい状態だった。
「初めはまともに起き上がれないと思うの、でもゆっくり二年間続けたらあなたの肉体は適応するの、適応したら今度は今までの様に剣を振る練習をするの、この修行が終わるのは大体五年くらいかかってしまう、でも貴方の今の状態なら五年は持つからゆっくり強くなるの」
「了解です!!!」
彼女にそう説明されバドンは元気に返事をする、修行は一朝一夕ではないことを彼は知っている、剣の修行も実際はまだまだ奥がある、目の前の骸骨、ロインズであれば魔法の修行もさせてもらえるだろうそんな希望に胸をはせていたバドンは魔力枯渇の修行を初めて一時間で意識を失った。
初めのうちは何かが体の上に乗っかり押しつぶされる感覚に陥りうつぶせの状態になった。そのあとは目の前がグルグルと周りだし倦怠感と重圧で体を起こすこともできずそしてあばら骨と頭蓋骨が砕けて彼は死亡し意識を失ったのだ。
「あんなの聞いてませんよ!!!」
目が覚めたバドンはロインズを見るなり開口一番にそう叫ぶ。
それもそのはずだ修行で本当に死ぬなんて聞いた事がない、死ぬ思いをする修行をしても結局は生きているのが人間なのだ、しかしここではそんな常識は通じなかった。ロインズは何を当たり前なとため息をこぼしもう一度説明を始める。
「貴方は別に死んでも私が治してあげれるの、だから何が不満なのか分からないの、貴方は何度も死ななきゃいけない、そうじゃなきゃ強くなれないの、この世界の人はみんな脆弱だから、それとももう修行やめて強くあることをあきらめるの?」
そんな煽り文句を言われてバドンは黙っていられなかった。
現に目の前に最強がいるのだ、そんな彼女が教えてくれるのであれば何度だって死のうとそう覚悟を改めてバドンは宣言する
「あきらめませんよ!強くなる方法が目の前にあるんですから!!」
「よろしい!」
バドンの返事にロインズは笑顔で答える、彼女が骸骨でなければ彼もその笑顔に気づけたのだが、骸骨姿で笑う彼女の顔は判別できないのだ、骸骨故に。
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そうして5日が経過し、今に至る、そうバドンは現在立つことは愚か剣を持つことさえ困難な状態でゴブリンと戦おうとしたのだ。
彼がボロ雑巾の様に戻ってきてしまっても仕方がなかった。
「それで妖精の契約が俺に関係があるって話ですけど、もしかしなくても婚約の儀がかかわってますか?」
「回復早々よくそんな頭が回るの、そして正解なの!今現状不完全で残っているあなたのその婚約の儀の元となった契約を妖精は行うの」
骸骨のくせに百面相をするロインズの器用さにバドンは苦笑いを浮かべつつ、質問を続ける
「元になったってことは、誰かが妖精の契約を解読して魔法を書き換えったってことですよね?いったい誰がそんなことを…」
「貴方にも一度だけ話したことがあるでしょ?」
「なるほど」
そう婚姻の儀を初めて使用した人物となれば黒騎士と魔王になった姫様だ、彼らがどうやったかは分からないが妖精の儀式を改変させ婚姻の儀を作りそして姫様が心を取り戻すきっかけにもなった。
「婚姻の儀を作ったのは姫様なの、姫様は妖精に愛された少女だった、そして彼女の才能はそれだけじゃなく、天才的な魔法使いでもあったの、だから彼女は妖精に許可を取り婚姻の儀を作ったの」
「でもなんで今そのことを俺に言うんですか?修行と何か関係が?」
「修業とは関係ないの、貴方は今婚姻の儀を執り行えない、それに代わって元になった妖精の儀式をして万が一に備えようと思ったの」
そうバドンがいつスキルに吞み込まれるのかは現状把握できていない、不測の事態が起きた場合に、彼を連れ戻すことのできる予備の方法をロインズが模索した結果、妖精の儀式を行いパートナーである妖精に引き戻してもらおうと考えたのだ。
「でも妖精って珍しいんですよね?そんな簡単にできないんじゃ」
「それは…」
ロインズがバドンの質問に答えようとした時二人の間の空間がねじ曲がり小さな羽をはやした妖精が姿を現した。
「こんにちわぁ~ロインズちゃ~ん、そしてお弟子くぅ~ん、私の名前はアルプぅ~ロインズちゃんの説明を遮って悪いのだけどぉ~ここからは私が説明するわねぇ~」
ゆったりとした口調だが少しだけ早口にも聞こえる不思議な話し方でアルプと名乗った妖精が割って入ってきた、そのいきなりの出来事にバドンは開いた口が塞がらない、そしてロインズも額に手を当て首を振ってため息をついていた。
「それじゃあ説明足りないのアルプ、妖精は本当にせっかちなの、死なないくせにどうしてそんなに焦るか分からないの」
「だってぇ~人間って寿命が短いでしょ~う?説明してる間にぃ~死んじゃうかもしれないじゃな~い?だからぁ~焦っちゃってぇ~ごめんねぇ~」
口調は変わらないのに喋る速さが急に遅くなったように感じてバドンは少し感心した、(こんなにゆったりと早く喋ったり遅く喋ったりできるんだなぁ)と心の中で現実逃避をしつつ
「まあ見てわかる通り彼女は私と契約している妖精なの、彼女には貴方と契約をしたいっていう妖精を見つけに行ってもらうからここからは彼女の説明を聞くの」
「はぁ~い!それじゃ~バトンタッチしてぇ~私が説明しまぁ~す、先ずはお弟子君なんだけどぉ~今の婚約の儀わぁ~消さない方向でいくでいいのよねぇ~?」
「はい、その方向でお願いします」
「それじゃ~簡単にだけどぉ~多分お弟子君をぉ~好む子は多いと思うわぁ~死んでからも一途だし好印象ねぇ~あとは相性のよさそうな子を見つけてあげるだけだけどぉ~容姿とかの好みとかぁ~性格の好みとかぁ~あるぅ~?」
「い、いえ、特にないです」
「そぉ~私みたいにぃ~お胸が大きい子がいいとかぁ~ないぃ~?」
「大丈夫です…」
(これ俺何聞かれてんの?!これって結婚相談とかなにかなのか?!)
アルプから変な質問をされ始めバドンは困惑した表情をし始める、それもそうだいきなり容姿がどうとか性格がどうとか、王都で今流行っている結婚相談所なる物があると彼は聞いた事があったがそんな感じの質問をされ始めたのだ。
「バドン困惑するのは無理もないの、でもこれは重要なことなの、妖精は魔法にはたけてるけど力じゃどうやっても勝てないから、契約をした瞬間から妖精はその人のパートナーになるの、だから魔法で攻撃はできなくなっちゃう、その隙に暴力を振るわれたりしたことが大昔にあったの、だから妖精は自分から選ばない限りこうした質問を妖精付きじゃない人にしてるの、彼女たちも自分を守るためにやってるから真剣に答えてあげてね」
「了解です」
ロインズの説明を聞きバドンは考えを改める、こんな質問が来るという事は昔に何か重大なことが起こったのだろう、そういった過去があるから妖精は警戒心が強く今ではそうして妖精は人前に滅多に表れなくなってしまったのだとバドンは思った。
お久しぶりです寝巻小唄です。
失踪してました。いえ厳密にいうと仕事忙しすぎて書けねーよってことで放置してしまいました申し訳ありません。
なるべく月2で更新していきたいと始めましたが今年も無理でした。
なので来年は…仕事を変えたのでまあできるでしょう!!と訳の分からない意気込みをします。
というわけで来年から週4目指して書いていきます!!
文字数も書いていなかった期間他の小説様を見てかなり自分がまばらになっていると感じたので統一していきます。
来年からは4000から4500字以内になるのでいいところで切れてしまったりしますが、なるべく多く来年は投稿いたしますので楽しみにしていてください!
それでは良いお年を!




