デスペラード編 第13章〈教練Ⅴ〉
寝巻小唄です!
第2の日曜日から火曜日
第4の日曜日から火曜日
のどれかで3〜4回を目指して投稿します
概要は後書きで
壮絶な疑似勇者の歓迎を迎えて一日が経過したころ、疑似勇者候補生が利用する食堂の一角に昨日訓練場を賑わせた当事者たちが集まって食事をしていた。
「あの後、歓迎会やら何やらで自己紹介が遅れたけど改めてやろっか、それじゃ僕から、君達三人の教官を務めることになりました、新米教官のピュートンですこれからよろしく、戦闘面では主に前衛後衛どちらもできるから君達の戦い方に合わせた指導をさせてもらうよ、それじゃ次はアキレシス君自己紹介をお願いします」
ピュートンに言われアキレシスは席を立とうとすると「食堂だし座ったままで構わないよ」と彼の行動を制止して、アキレシスはそれに頷き座りなおすと自己紹介を始めた。
「このメンバーで自己紹介もなんだけど知らない人もいるし一応、アキレシスです昨日見てたならわかると思うけど戦闘スタイルは魔法剣士で前衛を得意にしてます、得意な魔法は風魔法で、後衛はできないことはないけど後方で待ってるのは合わないんで苦手です、よろしくお願いします」
アキレシスが言い終わるとピュートンと彼の隣に座っている気の弱そうな黒髪おさげで丸メガネの少女がパチパチと手を叩いていた。
「次はテミスさん、自己紹介お願いします」
「はい」
ピュートンに言われてアキレシスの横に間をあけて座っている水縹色の髪をした少女が返事を返し自己紹介を始める。
「テミスです、戦闘スタイルはピュートンさんと一緒で前衛と後衛どちらでもできます、得意不得意な魔法は特にありません、しいて言うなら光系統の魔法が得意ですよろしくお願いします」
彼女が言い終わると三人から拍手が起こる
「それじゃ最後にフラウさんお願いします」
「は、はい!」
テミスの自己紹介に目をキラキラさせていた丸メガネの少女はピュートンから声を掛けられてビクッと体を震わせそして自己紹介を始める
「えっと、わ、私の名前はフラウです!!えーと戦闘スタイル?は前に出るのはちょっと怖いので、えっとその~後ろの方で戦えたらなって…あ!でも皆さんの迷惑にはならないように頑張りますので…できれば仲良くしていただけると…嬉しいです」
しどろもどろになりながらフラウは自己紹介を済ませる、そんなフラウの姿にアキレシスは呆れたような目線をずっと向けていた。
「はぁー…ピュートンさん一ついいですか?」
「そんな遠慮しないでいいよアキレシス君質問したいならどんどん聞いて!」
ため息をつきながらピュートンに確認を取ったアキレシスは「それじゃ」と言って昨日から疑問に思っている事を聞いた。
「そこのお嬢さんが俺らと同じってのも気になるんですけどね、なんで今回の疑似勇者候補生は9人もいるんですか?大会の優勝者は分かりますし追加で推薦された人が入ってくるのも分かりますが多すぎません?疑似勇者騎士団はその名の通り騎士団です、一般の兵士ではありませんし疑似勇者騎士団は他の国の騎士団と違って身分の違いなくその実力で選ばれるはず、それなのに今回は9人も選抜された、この国の騎士団はこの国の軍隊よりも圧倒的な力を持ち第一騎士団長に至っては軍を動かす将軍でもある、そんな実力主義の騎士団が今回は優勝者全員を抱えるばかりかそこのお嬢さんを抜擢し9人も候補者を増やした理由は何ですか?」
そう結局は騎士団なのだ、国を守る兵士とは違い主君に仕える騎士、万が一にも主君に牙をむく騎士が居てはいけない、そんな騎士を実力だけで選ぼうとすればひねくれものや力自慢と頭の足りない連中も優勝者に居たりする、そんな者たちは落とされてしまうのだが今回はそんな事が起こらなかった上に明らかに騎士団、もっと言ったら兵士にふさわしくない少女まで抜擢されたのだ。
アキレシスとしては憧れを抱いていた騎士団だけにその落胆も多少なりともある、この国の騎士団は他国とは違い力あるものであれば平民でもなれてしまう憧れの職業故にもっと厳しいものだと彼は感じていたのだ。
「アキレシス君の思想は近衛騎士団に近い者だね、それじゃあ先ずは三人に質問しよう!この国の騎士団は第何騎士団まである?」
「だ、第六?」
「分かりません」
「第八騎士団です」
ピュートンの問いにそれぞれが答えるが正解をしたのはアキレシスだけであった。
「アキレシス君が正解!それじゃあ第八騎士団あるけどこの騎士団はみんな別々の思想で動いているけど答えられるかな?」
ピュートンの次なる筆問にはアキレシスも頭を抱える、彼にとって騎士団は一つの思想の元に活動しているものと思っていたのだ。どんなに頑張っても彼は答えを出せない、というよりもそもそも八つの思想で騎士団が別々に動いていたと彼は今初めて知ったのだ。
「第一騎士団は世界の為に、第二騎士団は民の為に、第三騎士団は国王の為に、第四騎士団は血筋の為に、第五騎士団は己が為に、第六騎士団は魔法の為に、第七騎士団は剣の為に、第八騎士団は有楽の為にですわね」
その回答はアキレシスとテミスの後方から聞こえてきた。
「アルシェ!」
「ア、アルシェちゃん」
テミスとフラウが同時にアルシェの声に気づきその場から駆け寄る。
「テミスさんとフラウ昨日ぶりですわね、私もこの席に座ってもよろしくて?」
「も、もちろん!」
「歓迎するわ」
女性三人がワイワイとしている中男性の方はアルシェの執事のスミスがアキレシスとピュートンを同じ席に座らせその隣にさりげなく座る。
「あら?スミス気が利くわね」
「感謝のお言葉痛み入ります!それにお嬢様の為ですので」
向かい側を開け男三人で座る様子にアルシェが気付き感謝を述べるとかしこまった風に即座に席を立ち一礼するスミスに「こいつぁプロだー」とその場の全員が思う
アルシェとピュートンを真ん中にスミスと向かい合う形でテミスが座り反対にアキレシス、その前にはフラウが座り男女が向かい合う形で話の続きを始める
「アルシェさんが言ったように騎士団にはそれぞれ思想がある、主に君主に捧げる誓いはあれど皆が本当に捧げてる誓いは各々が持っているわけだ、そして今回9人が合格したのは他でもない、みんなのその実力と運そして君等自身にも自信に絶対の忠誠が見て取れたから全員合格にしたわけだよ、それに謀反なんて早々起きないし起こせない、それは第五騎士団を見ればわかると思うけど、彼らは自分に忠誠を誓ってる、それでも謀反が起きないのはひとえに第一騎士団や第三騎士団がいるから、抑制する力があれば謀反を起こせない起こそうとしても第一騎士団に居る諜報部に即座に知られるよ」
ピュートンの話を聞きアキレシスは納得する、この騎士団は他の国とは違うがゆえにまかり通っているのだと再認識をして、だがしかしなぜそんな場所に彼女がいるのかを彼はピュートンに問う
「全員が受かったのは分かりますがそれではなぜ彼女が推薦されたのですか?見たところ戦闘には不向きですし先ほど言った理念が彼女からは感じられません」
「んーそれは…」
フラウはアキレシスに睨まれ視線を下げる、ピュートンは彼女がいる理由を話そうとした時フラウの隣に居たアルシェが、その声に少しだけ怒気を乗せながら理由を説明する。
「貴方たちより、いえ多分騎士団候補生や騎士団の一般の団員なんかより私の友である彼女の方が強いと思いますわ、彼女とまともに戦えるのは各騎士団の団長とピュートンさんくらいじゃないかしら?」
フラウを睨みつけているアキレシスに軽蔑の目を向けながらアルシェが答える。
「はっ!笑える俺に負けたお前が言ったって信じられねーよ」
「はぁーあんたはうるさいからちょっと黙ってて?それでアルシェ、貴方の言葉を疑うわけじゃないけどどういうことか説明してもらえる?」
流石和沸点の低いアキレシスだとこれ以上話が進まなそうで、テミスは大きなため息を一つこぼすとアルシェにどういうことか説明してもらうように言ったがその回答は彼女からではなくこれまた予想外のところから返ってくる
『それはあたしから説明するよ!』
突然どこかからそんな元気な声が聞こえてくるとフラウの左肩当たりの空間が捻じ曲がる
「あらお久しぶりね?元気だった?」
『フッフッフ!呼ばれてないけど飛び出しました!!!アタシは元気ゲンキ超ゲンキ!!!!』
アルシェは突然現れた小さな小さな手のひらに乗るような虫のような羽をはやした女の子に驚きもせずに軽く挨拶をする、目の前の少女の肩から変なのが飛び出てアキレシスは驚き、ピュートンは「やぁ!」と手を小さく振りテミスはその存在に納得がいったのか「なるほど」と小さくつぶやく、スミスはどこから取り出したのかその小さい女の子用のティーカップを取り出し器用にお茶を注いでいた。
『むー!あんまりびっくりする人がいないじゃない!!!でもでもあなたはとってもいい驚き顔だったわよ!あ、スミスちゃんお砂糖少しだけ入れてね!あら貴女超美人じゃない!アルシェちゃんも美人だけどうちの子も合わせたら三大美女じゃない!?やだーもう!!あっそこのお兄さんは優しそうでアタシはすごく好きよ!!』
羽をパタパタとはばたかせて『よろしくー』と飛び回るそれに皆が苦笑いする中一人だけ顔色を変える人物がいた。
「ピュートンさん…あ、あれって妖精?ですよね」
驚き顔から焦ったような顔になったアキレシスは唇をワナワナとさせてピュートンに聞くと「そうだよ?」と何事もないように返す
「そうだよじゃないですよ!!妖精ですよ妖精!!!黒騎士のおとぎ話に出てきた妖精!またの名をピクシーですよ!!なんで驚かないんですか?!人前に滅多に表れないそれこそおとぎ話にしか聞かない妖精が今目の前に!!!!」
アキレシスは先ほどの態度と打って変わって子供の様に妖精がいるとはしゃいでいる。子供のころに男の子がお目当ての虫を発見したかの如く
「はは、これで説明は省けたかな?フラウさんはね妖精付き妖精に愛された子だよこれでなんで彼女がここにいるのか分かったかな?」
「え、ええアルシェが言ったこともこれで納得いきました」
先ほどまで彼女のことに反対していたアキレシスがすんなりと引き下がった。
それもそのはず、妖精付きは加護複数持ちと同じかそれ以上で希少なのだ、精霊に愛されるものは多い例えば今彼らの目の前にいる妖精と同じ名前を関した、森妖精なども精霊から愛されている、精霊に愛されれば魔法などはほとんどが顔パスでエルフなどは無詠唱を使う者が多く詠唱をするものが珍しいほどだ。
それだけでわかる通り妖精はその小さな外見とは違い膨大な魔力、そして精霊からどんな生物よりも愛されている生き物である、それこそ神の門から現れる勇者と同じくらい精霊に愛されている彼女等妖精に愛された者、精霊に愛された勇者と同等の力を持っているといっても過言ではなかった。
『あれ~もしかしてアタシの説明もいらなかった?!』
「いいえ、説明をお願いしていい?」
妖精がぷくーと頬を膨らませて少しだけ怒った態度をとる妖精、それにテミスが真剣な顔で説明を求める。
『フフッありがと!お仲間ちゃん!アタシわねここのフラウちゃんと契約した妖精ハル!!なんで契約したかっていうとね~彼女私たちの姿隠しを見抜ける才能があってね~同胞にしかいつも気づかれないのにこの子ずっとアタシの目を見てきてね!!それでビビット来ちゃって契約したの~』
さらりとすごいことを言われてフラウとアルシェがテミスの方をじっと見つめる、それにアキレシスがやれやれと首を振りピュートンとスミスは我関せずで「このお茶おいしいねー」とやり取りをしていた。
「ハルにばらされちゃったけど私も半分妖精よ、私の父が人間で母親がエルフなの」
隠してはいなかったがテミスが隠したかった事実、二人に嫌われるかもしれないと少しだけ身構えながらそうつぶやくテミスにハルは「私やっちゃった?」とフラウのおさげの後ろに隠れる
「貴女、ハーフエルフでしたの?…」
「そうだったんだ…」
(ああまたか)
テミスは村の人々の様に二人も拒絶するのかと少し諦めた感覚で肩を落とす。
「だからそんなに美人なのね羨ましいわ」
「は、初めて見ました!!!す、すごいです!!種族を超えた愛!!!生まれにくい異種族同士のお子さん!!!」
続いた言葉にテミスは驚きで俯きかけた顔を上げる。
「わ、私が怖くないの?」
おそおそるテミスが二人に聞く、そんな様子をはたから見ていたアキレシスも信じられないといった顔を二人に向けていた。
「何がですの?もしかしてハーフエルフが魔王になりやすいとでも思っていますの?確かに魔物や魔族魔人を従えて戦争を起こすハーフエルフは歴史上少なくないですわ?しかし魔王なら人族からも出たではありませんか?何を怖がる必要が?貴女は自分に誇りを持ちなさいな」
「そうですよ!!!せっかく異種族同士の間で生まれた貴重な原石なんです!!獣人族と人間のハーフだって珍しくないですし、セリアンスロープとエルフのハーフだっているんです!!!人間とエルフのハーフが悪目立ちしているだけで怖がる必要はないんです!!」
そんな二人の言葉にテミスは自然と涙をこぼす。
「ありがとう二人とも」
そんなやり取りを微笑ましく眺めるピュートンとスミスとは裏腹にアキレシスには困惑の色が見て取れた。
「そ、そんな簡単に?おかしいだろ…」
そうこぼしたアキレシスをアルシェが睨みつけて文句を言おうとした時、フラウがバンっと机をたたき声をあげる、アルシェからしたら驚くことで奥手な彼女がすることではないと思っていた。
「何もおかしいことはないです!!!テミスさんの反応を見るにきっと今までわかってくれる人が居なかった場所に居たんだと思います!!私もそうでした!妖精が見えるからと怖がられて、でも私にはアルシェが居たから、テミスさんがここに居るってことは、それはテミスさんをここまで導いた人がいたんだってわかります!!だって!テミスさんの周りにあふれてる精霊さんは温かいんです!!!貴方みたいに精霊さんからあまり興味を持たれていなくて心の荒んだ人とは違うあったかい人が傍にいたんだって!!!」
フラウの怒った姿にテミスやピュートンだけではなくアルシェやスミス、ハルまでもが驚いていた。
「す、すまない、俺がいた町ではその~いろいろあったから」
フラウに気おされたのか沸点の低いアキレシスでも今の言葉に反論できずに素直に謝罪の言葉を述べる。
「分かってくれればいいんです!!…はぅすみません…」
鼻をフンスッフンスッと鳴らしていたフラウは今までのやり取りで正気に戻ったのかいつもの気弱な態度に戻りそろそろと席に着く。
「驚いたわ、フラウがここまで怒るなんて」
「私、禁断の恋みたいなのが好きで、テミスさんのお母様やお父様の様な恋がいつかしてみたいなって」
テレテレと顔を赤くし俯きながらフラウがアルシェのつぶやきに答える。
「はは、それじゃ話がだいぶ変な方向に言ったから戻すね」
そう言ってピュートンは随分と曲がりくねった話を本題に戻す。
これから彼らに行う訓練方法について、その訓練がいかに過酷なのかを知らぬまま彼らはその話に耳を傾ける
どうも寝巻小唄です。
今回でテミス、アキレス視点はいったん終わりでバドンの方に場面が移ります!
いやー長かった訓練だけですよ?短くできたんじゃ?って思う方も居ると思いますが自分はこれが書きたかった。
彼らが強くなる過程最強が最強になる布石、もちろん努力するのは彼らだけじゃなくて本作の主人公もしっかり努力します、まあええ彼らの数倍は残酷で過酷で色々な壁を用意しますが、それを超えられなければ主人公ではない!と思います。
喋り過ぎましたねそれではまた次回Twitterのフォローなどをしてしばし出るのをお待ちください




