デスペラード編 第9章〈教練〉
寝巻小唄です!
第2の日曜日から火曜日
第4の日曜日から火曜日
のどれかで3〜4回を目指して投稿します
概要は後書きで
ロブロムの辺境の村、広場にはたくさんの村人が集まり今日の主役の二人を待っていた、そう今日この村では今まさに新たな疑似勇者候補が王都に向けて出発の準備をしているのだ。そんな中一足先に来ていたテミスにナオが話しかける。
「テミスねぇ少しの間だったけど剣を教えてくれてありがとう、これからもっともっと訓練して再来年には二人に並ぶような疑似勇者に成れる様に頑張る」
「ええ、貴女の剣はバドンに似てとても丁寧で力強いわ、無理はしないで頑張りなさい」
ナオはここ二日ほどテミスに剣を見てもらっていた、テミスは初めて見たナオの剣技に拙い部分を感じたものの基本に忠実で、しかしどこか彼の剣技を思わせるその姿に驚いた。
だが考えればそんな驚くようなことではないのだ、何せ彼女は彼の妹で、彼が家の庭で素振り稽古をしている時もずっとその姿を見ていたのだろう、そんな彼女の目はしっかりと彼の強い部分を見極めていて、その目もさることながらその技を身に着ける才能にテミスは改めてこの兄妹はすごいのだと感心させられた。
「それにしてもアキレシスさんにはこの二日間会えなかったけど大丈夫?メッセージバードなんか来てたりは…」
ふとナオがこの二日間会えなかった兄の親友のことを聞いた。
ナオはこの二日間何度も彼の家を訪れたが、テミスが家から出て修行を付けてくれている時以来、彼は家にすら帰っていないのだと彼の両親から聞かされていたのだ、だから同じ疑似勇者候補になったテミスに何かメッセージバードなど届いてないのかと思ったのだが。
「来てないわね、そろそろ時間になるのに集合場所にも来てないし現実を見て諦めたんじゃないかしら?」
「テミスねぇって本当にアキレシスさんが嫌いだよね?」
「仕方ないじゃない、私はバドンにしか興味がないし変な視線送られてきても困るだけなんだから」
テミスの言葉にあきれ顔でナオはそう返したが、テミスはバドン以外に好意的な目を向けられても気持ち悪いと感じてしまう、それは彼女が幼いころにバドン以外から迫害され憎悪の感情を向けられていたことからの反発的な物なのだとナオも理解していて「仕方ないね」と苦笑いで返す。
「随分な言い草だけど僕は逃げたりなんかしないよ、この一週間は隣国のギルドに冒険者として入って強いパーティーの方にいろいろ指導してもらってたからねあまり帰ってこれなかったんだよ」
準備を済ませた状態のアキレシスが時間ギリギリに集合場所に到着し、集まっている村人たちの間をかき分けながら二人にそう返す。よく見ると彼の体中は切り傷や痣だらけで二週間前とは別人のような雰囲気がした。
「本当に地獄耳ねあんなところから会話が聞こえるなんて、変態なの?」
「失礼な!!修行の成果が出ていると言ってほしいね、これはれっきとした風魔法の探知能力で、修行によって聞き取れる場所は拡大して聞きたい内容を聞き分けられるようになったから使用していただけだよ、そしたら君が僕の悪口を言ってるのが聞こえてきたから反論したまでだ!」
「そんな犯罪者みたいな能力を自慢しないでほしいわね、変態力を鍛えても強くなれないわよ?」
「だから!!!」
「二人とも馬車が来たよ!喧嘩はやめて!」
街道から来る馬車を確認して、ヒートアップする二人の間にナオが入る。
ナオが間に入ったことで少しだけ冷静になったのか二人は、彼女に頭を謝罪をすると周りで見ていた村人がクスクスと笑っている声が聞こえ二人は少し気恥ずかしさを覚えた。
それから少しすると馬車が二人の前で止まり御者が馬車を降りて村人と二人に一礼する。
「アキレシス様、テミス様の両名をお迎えに上がりました、ご準備の方はよろしいでしょうか?」
「ええ」
「はい」
それぞれが答えると業者は一例をして、二人の荷物を馬車の後ろの格納スペースに入れていく。
「それじゃ頑張ってね二人とも」
「応援してるぞ!!!」
「気張って行けよ!!!!!」
「舐められないようねに!」
ナオの言葉に続き、村人から二人へ激励が飛ばされる、テミスはそんなことに関心はないのか少しだけ村人に手を振ると馬車の中に入っていく、残されたアキレシスは少しあきれながらも村人の方に振り向きお辞儀をして別れの挨拶を済ませる。
「これから二年間、僕たち二人は王都の強い人たちのもとで修業をします!この間亡くなった僕の親友のような人をこれらか二度と出さないために僕たちは今よりももっと強くなって帰ってきます!不安もいろいろありますが僕たちをここまで育ててくれたのは村のみんなです!!ありがとうございました!そして行ってきます!!!」
彼の言葉を聞き村人から歓声が上がる、彼らはこの村で生まれこの村で育ちそして今日この村を出ていく、彼らの大切なものを次こそ失わないように新たな力をつけるため、この国の最強たちに育て上げてもらうために、失ったものの重さを胸に二人の若者は最強の一人になる一歩を踏み出す。
歓声の中アキレシスは馬車に乗り込み扉を閉める、閉めた後でも村人の歓声はやまずそうして馬車は走り出した。
「えらく臭いことを言うのね」
「うるさい」
馬車の中の二人は短く言葉を交わすと、静かに馬車に揺られながら窓の外を眺める、この先の王都で待つ自分たちの運命を変える人物との再会が有るとも知らずに。
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王都の王城の前では人だかりができていて、本日新たにやってくる疑似勇者の8名を今か今かと待っている、そんな中王城の騎士団候補の為の教官室では窓を少し開け暖かい部屋に少しだけ冷たい風を入れながら、一人静に目をつむりこの間のことを思い出している男がいた。
「ピュートン貴様には騎士団の副団長を降りて新たに来る疑似勇者の面々を教育してもらう」
騎士団の会議が始まる前義父に呼び出され開口一番でそんなことを言われた。
「僕は用済みってことですか?貴方の命令に背いたから…義父さん何故あんなことを貴方は容認できるんですか!?今のこの国は間違ってる!将軍であるあなたがなぜ...なぜ王にやめろと進言しないんですか」
少しの沈黙の間ピュートンの顔を見てアルドレフは大きい溜息を一つこぼすし彼の問いに答える。
「言いたいことはそれだけか?俺はこの選択が正しいと知っている、今の貴様に何と言われようと曲げることはない、それにいずれ貴様もこれでよかったと思うだろうよ」
「っ!」
ピュートンは静かに驚いていた、その言葉に対してではなく今目の前の男、疑似勇者騎士団の団長たる彼の表情が、いつもの険しい顔じゃなく昔見た優しく温かい表情であった事に、そんな予想外の衝撃を受け返答に困っているといつの間にか険しい表情に戻った義父は続いて報告を続ける
「貴様には一年間だけ教官として働いてもらう、そして後に疑似勇者候補二年目の実践演習でその席を降りてもらい候補が旅立つより先に貴様にはある場所に向かってもらう、詳細は一年後に追って伝える話は以上だ質問は?」
「演習には誰が付いていくんですか?通常ではみんなを指導した教官が付いていく事になっていますが、自分が抜けた後は誰がその後釜に?」
指導した教官以外が演習に付き合うなど初めてのこと、二年目に交代をしたら彼らの実力を把握していない教官が一緒に付き添い無茶をさせてしまう可能性がある、故に無茶をさせないように二年間同じ教官が指導するのが通例なのだが。
「アレスとエレナに後釜をさせる、あやつら二人は今回の件で計画の邪魔になった、一年目はいいが二年目にこの王都に居られると面倒になるからな、次回の計画の邪魔をしないようにお前の後釜に据える」
突然の告白にピュートンは眉にしわを寄せた、今回の計画はいうなれば自分が破壊したようなものなのに、その本人の前で堂々と次の計画があると口に出したのだ。
「僕に聞かれていいんですかそれ?」
遠回しに今度も邪魔をするぞの意味を込めてそうピュートンは返す、しかしそんな彼の返答にも動じることなく険しい顔を彼に向けてふっと少し笑って見せ、彼の返答に応じる
「気にするな、貴様は嫌でも一年後には自らこの計画に手を貸すことになるんだからな」
「それはないです」
アルドレフの返答を聞きピュートンは即座に否定する、例えどんなことがあったとしても過去に彼が見た義父の背中を思い出し、自分だけでもこの国の民の最後の砦になろうと決心しているのだ。その覚悟が揺らぐことは絶対にない、そんな彼を見て義父は書類に目を落とし最終確認する
「ふん、まあいい他に質問はな?」
「ええ」
その問答を最後にピュートンは部屋を後にする。
そしてそのあと審問があり今に至る
『わああああああああああ』
外が歓声にまみれ新たな疑似勇者候補達が到着したことを彼に伝えた。閉じていた瞳をゆっくり開けて彼は自分が指導するだろう彼らと、窓から少し見える民衆の影を見て立ち上がる
「僕が民を犠牲にするなんてありえないですよ....」
そう小さくつぶやき教官室を後にする。
彼が居なくなった部屋では外からの歓声が聞こえるだけ、だが彼が座っていた机の上に淡い光が灯る、その小さい光はあたりをキョロキョロすると誰にも見られないように少し開いた窓から彼を追うように部屋を後にした。
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ロブロムの辺境の村森の奥、国境を少し越えたアラヴィス公国領に存在する魔物の森にひっそりとある一軒家では昨日の説明をロインズが行っていた。
「バドン、昨日はあのまま説明もなしに終わってしまったけど、今日貴方のスキルについて私が分かることをまとめてきたから教えるの」
そう言い骸骨の顎をカタカタと鳴らしながらロインズは説明を始める、議題は主にバドンに出現したスキルについて、魔王覚醒や、勇者覚醒、英雄覚醒などの使用やその危険性についてだった。
初めにこのスキルを使うとスキル欄から覚醒は消え称号に魔王や、勇者、英雄などが付くらしい
曰く、英雄覚醒のスキルは主に肉体を強固に成長させるが、その反動によりその先への成長の道は閉ざされてしまうとのこと故に使用時を見誤ってしまえばさらに成長できるはずだった可能性をつぶしてしまうことになる、故にそのものの成長の死につながる。
曰く、勇者覚醒のスキルは対魔王特化であり魔王に合わせて肉体を強くしてくれるらしいが、大体のスキル使用者はその体が急成長に間に合わなく四肢が爆散して体を維持できなくなり肉体的死を迎える、しかし神の門と呼ばれる門から現れた勇者たちはすでにこの条件を達成しているのか、彼らはすでに勇者覚醒のスキルを使用した後の称号である勇者をもって門から現れるのだ。
曰く、魔王覚醒は絶大な力を与える代わりに自我を蝕む強力な呪いがあり、そしてその呪いはある程度の実力や精神力を鍛えたものであっても自我を消滅させてしまう、いわば精神的な死を迎える、このスキルを使用するには始まりの精霊が持つ無色の魔力を纏わなければいけないのだと。
始まりの精霊が放つ魔力は無色透明、鑑定眼(神)で見ようとしても色がないので見れないらしく、だがバドンが持つ鑑定眼(狩人)なら数値を認識できその存在を確認できる、魔力の色は透明なのだが、精霊が持つ魔力自体はあるので数値が現れるのだ。
しかし始まりの精霊が何を触媒にしているかはいまだにわかっていない、存在が確認できるだけでこの世界の住人は使用できない、だが始まりの精霊を門から現れる勇者は使用できるし、この世界で魔王になった者も使用しているところを確認したとロインズは語った。
「だから媒介できる条件みたいなのがあると思うの、それが分かったらそのスキルは使用してもいい、だけど注意してほしいのそれを一度使うと戻れなくなる、貴方が貴方である理由をそのスキルはなくすの、だから使用するときは誰かあなたを支えられる人のそばで、貴方をこっちに引き戻せる人がいる場所で使ってね?」
そう言い終わったロインズの顔は骸骨ながら少し寂しそうな、そんな雰囲気をバドンは感じる、その悲しげな雰囲気とは別にバドンは先ほどの話もそうだが彼女の話に気になる点をいくつも見つけて彼は疑問を投げかける
「どうしてロインズさんはそんなことを知ってるんですか?黒騎士と旅をしていたって言ってましたがもしかして黒騎士はスキルを使って自我を?それにほかの二つのスキルの力も何故把握しているんですか?」
そう彼女は魔王であった黒騎士と旅をしていたのだ、この魔王のスキルを知っていて当然だった、しかし他二つに関しては何故把握しているのか不明な点が多い、もし魔王覚醒を黒騎士が使用したなら彼は自我を失ってしまいそしてロインズの手によって葬られたのではないか、そう彼は考えたのだが、予想外の回答がロインズの口から返ってくる。
「黒騎士様が使用したのは魔王覚醒ではなく英雄覚醒の方なの、そして勇者覚醒をしたのが私、私の体はスキルの力に耐えられなくて散らばったけど、神様がくれた加護で私はネクロマンサーとして生き返ったの、それでもう一つあなたの間違った認識もここで改めさせてもらうわ、魔王覚醒を使用したのは黒騎士様ではないの、本当の彼はたった一人の女性を救った英雄だったのよ」
「え?..でも..」
おとぎ話にもなっている魔王黒騎士、魔族の中では彼は英雄視され、人族でも人気があるほど有名な魔王、そんな彼が実は魔王ではないと彼のそばにいたロインズはそういったのだ
「彼はね、ある魔王の代わりに魔王にされたの、魔王の存在を隠したかったある国がちょうど人外の力を手に入れた彼に目を付けて」
バドンはそこまで聞きある可能性を思い浮かべていた。それは確かに闇に葬られるであろう真実に、黒騎士の物語は黒騎士になる話、そして黒騎士の旅の物語が描かれていた。
その中で黒騎士が魔王になりなしたことが一つだけあるそれは
「バドン本当の魔王はね、その国の姫様なの....」
それはバドンが想像した通りの言葉、黒騎士である彼が自らある国から誘拐した姫様がいた。
彼がなぜ姫を誘拐したのか今までわからなかった、しかしもしロインズの言う通り黒騎士が本当に魔王ではなかったなら、その時に誕生した人族からの魔王は誰だったのか?
「それは隠したいわけですよね…王族から魔王が誕生したなんて言えないですもん」
「そう王族から人類の敵を生み出したことが知られないために、彼らは黒騎士様を魔王にしたの、だから私はその三つのスキルを知ってる、そして貴方が姫様と同じスキルを思っている事にも驚いたしそのほか二つを持っている事にも驚いた、だからそれを使用した結末も知ってるの」
そう忠告されバドンは驚きで声も出なくなる、黒騎士が魔王出なかったことはうれしいが、その国の姫様が魔王覚醒を使用したとなると結末は決まっていた。
だからロインズは時折寂しそうな雰囲気を出していたのだ、そうバドンが落ち込んでいるのを見たロインズは「フフッ」と笑う
「なんで笑うんですか、姫様が魔王覚醒を使ったってことは自我が飲まれて....」
そこまで言ってバドンは自分の間違いに気づいた。
(そうだよだってロインズさんは言ってたじゃないか)
ロインズが言ったことを思い出し、バドンは彼女に驚きの表情を向けると、それがおかしかったのか彼女は笑いだしてしまう、そんな彼女が笑い終わるのを待って改めて彼は呆れた顔で聞いた
「姫様は無事だったんすね」
「フフッええ!そうなのよ、だから貴方が悲しそうな顔したときに笑ってしまって」
そう姫様は無事だったのだ、彼女は言っていた、引き戻してくれる人が居る時に使用しなさいと、それは引き戻せた前例があったから、だから彼女は彼の寂しそうな表情で笑みをこぼしたのだ。
姫様は無事だった、それは物語でもある黒騎士が姫様を魔王の城に誘拐したことからも分かる、もし姫様が自我を失っていたなら城に誘拐することはない、もし誘拐したとて暴れられても困るからだ、だから黒騎士は何らかの方法で姫様を引き戻した。
「どうやって引き戻したか教えてもらっても?」
そうどうやって引き戻したのか今のバドンにはそっちの方が重要だった。
「そうね、教えてあげるの、黒騎士様は姫様とあることを行ったの、それはね姫様が魔王覚醒を使用する前に二人で行った儀式、今の恋人同士が行っているごく当たり前の事、あなたにもかかわりが深い儀式、それは彼らが初めて使用したの、人類で初めて婚姻の儀を行ったのは黒騎士様と姫様なの」
衝撃が走る、あの婚姻の儀を行ったのは黒騎士と誘拐された姫様が初めてだったことに、だがすぐにバドンは納得した顔になる、なぜなら婚姻の儀は二人の魔力だけではなく感情なんかの共有や相手とのつながりを強固にする魔法なのだから。
「納得しました、それなら始まりの精霊を使わなくても平気だったんですね、それじゃあ俺はまだどれも使えないですね」
バドンは肩を落としてそう言う、彼は現在婚約の儀を使用できない、中途半端にその名残が残っているせいで上書きができないのだ、そうは言っても彼は結局やらなかっただろう、何せ彼女とのつながりが切れるのを彼が一番恐れているから。他の覚醒についてもだ、自分が中途半端だと一番理解しているバドンはどれも使えないことを理解していた、しかし魔王覚醒のことは別にいいとでもいうようにロインズはバドンに嬉しい報告をする。
「だからこれから私が修行を付けてあげるの、勇者覚醒を使えるように」
「マジっすか」
「大マジなの」
驚き顔で聞き返すバドンにロインズは即座に返答する、彼はいつ魔王のスキルに魅入られるかわからない、彼が持つ魔王覚醒はそれ程強力なスキルなのだ、何せあの優しい姫様が無意識に使ってしまうような恐ろしい力なのだから。
だから一刻も早く彼に強くなってもらい勇者覚醒を使用してもらう方が彼女にはよかった。体ができれば爆散の心配はいらない、その特訓方法も黒騎士に教わっていた。
自分では最後までできずにスキルを使用してしまったが、彼なら心配いらないだろう、そう彼女は思い未だにガッツポーズをしている彼に目を向けフフッと小さく笑う。
今回は早くかけた。
ここから少し修行パートに入るので退屈かもしれませんが、面白くなるように頑張ります。
ここから先主人公のバドンのパートは減るかもです。この修行でメインになってくるのはアキレシスとテミスあとはピュートンさんくらいですね。
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ではまた次回




