デスペラード編 第5章〈運命Ⅴ〉
寝巻小唄です!
第2の日曜日から火曜日
第4の日曜日から火曜日
のどれかで3〜4回を目指して投稿します
概要は後書きで
今私の目の前で起こった出来事に脳の処理が追い付いていない。
彼の攻撃は確実にあの魔人を死に至らしめる攻撃だった、死んだ者が引き起こす魔力消失も確認できた。
しかし、そんな事実はないというようにあの魔人は立ち上がり彼を…
「我はいま一時のチャンスを神から授かった、すまんな強者よ…今回は我の勝ちだ」
そんな言葉を魔人が言い放つ…
ああそうか…目の前の魔人は今まさに神の加護を受けたのか…彼にすら与えなかった加護をどこかの神が目の前の災厄に力を与えた…ああこの世界はなんて理不尽なのだろう、いや…違うな、この世界の神は私が生まれた時から心底私の事を嫌っているだけなんだ
私情けなく座り込みまだ温もりがある彼の腕を抱きしめ、無力さを感じながらも魔人の目の前だというのに子供みたいに泣き始める
「女よ我の妃になるがいい」
そう言い魔人が私の方に歩みを進めるが、私は動けない…いや動かない…もう戻らない彼の腕を抱きしめながら絶望に打ちのめされこんなのは嘘だと涙を流すしかできない
「はああっ!!」
魔人が私に触れようとした時そんな声が聞こえた、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げるとそこには居るはずのない人たちが魔人に攻撃をしていた
「大丈夫かい?!」
そう慌てた声で私に声をかけてきた男性に、叶わぬと知っていながら縋る思いで口を開く
「彼を....助けてください....」
口から出た言葉はかなり掠れた声で、それは男性に届いたのか分からない、使えるものは少ないが魔法の中には人を生き返らせる物もある、そんな希望の薄い望みにかけて彼のまだ温かい腕を抱きしめる
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「アレス!!あそこ!!女の子がいるわ!助けてあげて!!!」
「分かりました!!姉さんもご武運を!!!」
悲鳴を聞きつけ大急ぎで声が聞こえた方向に駆け出した二人が目にしたのは、オーガに襲われている少女の姿だった。二人は手慣れた様子で片方がオーガに攻撃を加えもう片方が少女を救出する。
「ぐはっ…くそ!もう他の強者が駆けつけてきたか!!!」
そう叫ぶオーガに駆け付けた二人は驚きで体をこわばらせた。目の前の相手をよく見ればただのオーガではなく上位種に進化した魔人であることに気づき体から汗が噴き出す
「もう我には戦う気力は残ってない、女よ次に会った時こそ必ず貴様を連れていくぞ!!!」
そう言い残し魔人は飛ぶようにその場を去る、何が起こっているかわからないエレナだが今はあの魔人と戦わなくてよかったと胸をなでおろす、そうしてアレスが保護したであろう少女の方に向かう
「アレスそっちの方は…」
そう言いかけて異変に気付く、女の子に擦り傷などはあるものの目立った外傷はない、しかしそんなことよりも彼女の抱きしめている物に気づいた
「ねぇさん!!こっちっす!!」
声の方を振り向くとアレスとぎりぎり人の形を保っている肉の塊がそこにあった。
「っ!!!」
「今から蘇生術を使用します!ねぇさん許可を!!」
「いいわ!急いであげて!」
そういわれエレナはアレスに許可を出す。通常蘇生術は使用してはならない決まりだが、ある例外を除きそれが可能になる、その例外は疑似勇者の素質が見られたもの、今倒れている少年はあの魔王もどきと戦い少女を守りながら戦ったとすると相当の実力者だとわかる、しかし二人はそんなことが無くてもきっと助けに入っただろう。
そうこうしているうちにアレスは腕の主を横に寝かせ少女が握っていた腕をもとの位置に置き蘇生術を始める、すると肉の塊だった者の外傷はみるみるなくなっていき元の姿に戻っていった、しかしそんな中アレスは途中で蘇生の手を止めた。
「姉さん、すんません魔術の蘇生で俺ができるのはこれが限界っす…奇跡を操る祈禱術師である聖女様なら蘇生できたかもしれませんが申し訳ありません」
「そんな!!ここまで修復できたんだから生き返らせられるはずよ!!!」
「反応がないんす…どんだけリジェネレイトしても魂が肉体に戻ってこないんす…聖女様のリジェネレーションであればあるいは、しかしここから聖女様のいるトーレス国には二日ほど…魂の還元がはじめっているため蘇生時間はあと5時間ぐらいしかありません…間に合わないでしょう?つらいとは思いますがこれが現実っす…」
「そんなこと…この子の前で言わなくたっていいじゃない…」
エレナは無力感に襲われる、自分たちがもう少し早めに来ていたらこんなことにはならなかっただろう、自分がなりたかった騎士はいつもピンチには必ず駆けつけて助けてくれるかっこいい存在だったはずなのに、今の自分には救った彼女にどんな顔をして接すればいいのか分からなくなっていた。
「悪いな嬢ちゃん…もう少し早く駆けつけていたらこんなことにはならなかった…でもよこいつは物凄いやつだよ…あの瀕死の魔人を見たらわかる、あいつは満身創痍だった、あれをあそこまで追い込める奴はなかなかいない、俺らがきっちりやれてればよかったが俺たちじゃ満身創痍とは言ってもあの魔人を倒せなかっただろう、団長や副団長ならいざ知らず、力不足で悪い」
「…いいんです、大丈夫です…もう…」
いつもお茶らけた姿のアレスが頭を下げて謝罪する、反応するのは気力のない声、今にも消えそうなそんなさみしそうな力ない声に二人は何も言えずに立ち止まっている
「彼のご両親にも伝えたいの一緒に来てくれる?」
このままではだめだとエレナはしゃがんで少女の目線に合わせながらやさしい声でそう問いかける、無言のままテミスは首を縦に振り力なく立ち上がると村の方を指さす
「…向こうの方に彼の家があります、ついてきてください」
力のない声でそうつぶやくと少女はきれいになった少年の遺体を抱き上げようとする
「それは俺たちが…」
そうアレスが言いかけるとただならぬ殺気が少女からあふれ出る、力なく横たわる彼に触れさせようとする気はなく自分の意志で村まで連れていくとそんな意思を感じて二人は押し黙る
そして少女は倒れている少年の唇に口づけをして持ち上げる、それは母が子を抱き上げるかの如くとてもやさしくそして物悲しく…
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おにぃが死んだ…それは突然だった。
私が授業を受けているとバタバタと村長、テミスねぇの義父が慌てて教室に入ってきて、その後ろには私と同じで状況が全くつかめず困惑しているアキレシスさんが付いてきていた。
「ナオ!!話してる時間はないナオの家に急いで向かうから一緒に来てくれ!!」
唐突にそういわれて混乱しながらも私は村長とアキレシスさんに連れられ一緒に家に向かった。
そしてそこで見たのは変わり果てた姿の兄だった。
今朝方にテミスねぇと一緒に授業をさぼって剣術の修行をすると先に家を出た兄の骸がそこにはあった。最初は寝てるんだと思ったがそうではないとすぐに悟った、肌の色がやけに青白くとてもきれいで何よりそのすぐそばで母が力なく座り込み泣いていたからだ。
テミスねぇは茫然として兄の顔を見ている、涙も見せずただただ見つめている、この人は本当に兄の彼女だったのだろうかこんな涙も見せないやつが…
そんな的外れな考えが頭を埋め尽くす、しかしそれはその場にいた二人の疑似勇者に間違いだと気づかされた。
曰く、兄は魔王もどきの魔人との戦闘で死んだと、魔王の情報は王都の方に届いており急いで駆け付けたが間に合わなかったと、魔人の様子を見るにほぼ瀕死の状態で逃げたらしい。
そしてそれを追い込んだのが兄なのだ、兄はこの魂の抜けたような顔をした女を守り死んだと…
フザケルナ…
「ふざけてんじゃねーぞ!!!!てめぇ疑似勇者の選抜抜けたんだろ?!勇者を倒してんだろ?!!なんでてめぇは生きてんだよ?なんでおにぃが死ななきゃなんねーんだよ!!!!!おにぃよりてめーのが強いはずだよな!!!!なんでてめぇが守れねーんだよ!!なんでてめぇが守られてんだよ…ふざけんなよ!!ふざ…け…」
今までに感じたことのない憎悪で私はテミスねぇの胸ぐらをつかむ、テミスねぇが悪くないのは頭ではわかっているのにこんな理不尽には耐えられなかった。
優しい兄、いつからだろう私はそんな兄に恋にも似た感情を持っていた、小さい時から私の父親代わりで、冒険者に修行を付けてもらっていた時も疲れているはずなのに私と遊んでくれた、一切の不満を漏らさず優しく微笑みかけてくれる笑顔が大好きだった。
きっとテミスねぇも一緒だ、私よりきっと兄が好きだった、兄は相手に恨まれても疎まれても隔てなく接していて、テミスねぇはそんな兄に救われ依存していた。兄から片時も離れたくないと兄のそばに片時も離れることなく立っていた。それもそのはずだこの村の皆が最初はテミスねぇを怖がり、忌嫌っていて石を投げつけていた、そんな中で兄だけがずっとそばにいて彼女を孤独から救ったのだ。
そんな大切な人を目の前で失った悲しみは計り知れないだろう、私たちは現場を見ていない、魔人との戦闘なんてきっと悲惨だったはずだ、テミスねぇが私の言葉に耳を傾けられないくらい心を壊すほどに…そんな相手に私は罵声を浴びせてつらい気持ちは一緒なのに…
おにぃがいたら怒られるかな…怒りに起きてきてよ…
私はそう願い力なくその場でへたり込み涙を流す。
しかしそんな願いは受け入れられないのだろう…この世界の神様は兄を嫌っているのだから…
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親友が死んだ俺の先をいつも行き、俺が追いかけ続けた親友がいなくなった。
あいつの剣術はきれいで、その剣を俺はいまだに越えられていない。
疑似勇者の選抜者を選ぶ村の大会で俺とバドンは戦い、俺はギリギリで勝利した…そんな俺はやっとあいつの一歩先を進んでいたと思い込んで喜んでいた、あいつは加護を持っていないのに
勇者と戦いでは俺は敗北しテミスは勝ち上がった、そのテミスに剣を教えているのはあいつだった…
少しの嫉妬があったが俺は勇者との戦いに善戦し頑張ったんだと心のどこかであいつにまた差をつけたと喜んだ…
でも結局俺はあいつに何も届いてなかった、魔王並みの魔人相手に加護なしのあいつは善戦し魔人を瀕死に追い詰めた、ほぼ無傷のテミスを見るにあいつは守りながら相手を追い込んだのだろう…
(何が一歩先を行っただ!!!うぬぼれやがって!!お前が勇者と戦っていたらきっと俺みたいに負けずに勝っていたんだろうよ!!お前はいつだってそうだ!俺にないものを全部持って先に行っちまう!!でももう俺はお前を追い越せねよ…追いかけるお前がいないんじゃ何にもできねーよ)
『神様は不公平だね』
ふとお前が言った言葉が脳裏に浮かぶ、この世界でお前より強い騎士なんてもうきっと現れない、加護なしで魔人を追いつめられる最強はお前しかいないよ、でもそんなお前も神様に見捨てられて、それでもあがいた結果がこれだ神様が不公平なんじゃない、この世界が神も人間も獣も全部を不公平にしているんだと俺はこの時に気づいた。
(ああ、この世界がこんなに俺たちに不公平なんだったら、俺が公平に全員を救ってやる俺がすべてを変えてやる、だからさそっちに行ったら楽しい話をしようぜ)
俺はそう固く誓い力強くこぶしを握り締めた。
どうも寝巻小唄です!
投稿遅れて申し訳ありません
まあ今回はうっすいです何せ主人公が死んでしまったので。
なので次回から主人公は…そこはお楽しみに早いですがそれではまた次回
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