世界は悲しみに満ちているよ
「僕にどうしろって言うんだよ?」
「ここまで教えてあげてるのに分からないの? ちょっとは自分で考えなさいよ。じゃ、お先に」
そう言い残し、世奈はバスに乗って行ってしまった。
……世奈の言いたいことはよく分かった。
結局、僕が今ここでいくら悩んでいても意味はないんだ。
病気は一葉さんの問題で、僕がそれをどうこうできるわけじゃないんだから。
でも、だからといって何もしないまま一葉さんが弱っていくのを黙ってみているわけにもいかない。
本当に好きなら、素直に僕の思っていることを一葉さんに伝えられるはずだし、そうするべきだ。
「幼馴染離れが出来ない男だな、僕は」
バス停に背を向け、僕は一葉さんの家へ戻った。
※※※
さて。
一葉さんの家に来たのはいいけれど、勝手に上がって大丈夫だろうか。
そりゃあ、勝手知ったる人の家とは言うけれど。
玄関の大きなドアの前で僕がしり込みしていると、内側からドアが開き、一葉さんが顔を覗かせた。
「真くん……文化祭に行かれたのではないのですか?」
「やっぱり一葉さんが心配で戻って来たんだ」
「私なら大丈夫です。さ、行ってください」
「……じゃあ、一つだけ質問していい?」
「なんでしょう?」
「どうして手術を受けないんだよ、一葉さん」
僕の言葉に一葉さんは驚いたような顔をした。
「なぜ真くんがそれを知ってるんですか」
「保健室の先生から聞いたんだよ。一葉さんの病気には手術が必要なんだって」
「……それを聞いて、真くんはどう思ったんですか?」
「必要なら手術をするべきだろうけど……そうしないのには何か理由があるんだろ?」
一葉さんが頷く。
「成功率が低いんです」
「!」
「手術をすれば私の病気は完治します。でも、失敗すれば私は死んでしまいます。それでも真くんは手術を受けた方が良いと思いますか?」
僕は言葉に詰まった。
こういう時何を言えばいいんだろうか。
「……君はどうしたいの?」
「私だって、今のままじゃいけないと思っています。だけど、手術は怖いです。失敗すれば二度と真くんに会えないと思うとますます怖くなります」
「一葉さん……」
「それでも真君は、私に手術を受けろと言いますか? 死ぬかもしれない手術を」
どうしたらいいんだ?
僕が答えるべきことは何だ?
どうすれば―――いや。
好きなら、素直に思っていることを言えるはずなんだ。
「僕は手術を受けて欲しい。そして、一葉さんと一秒でも長く一緒に居たい」
一葉さんは何も言わなかった。
ただ、僕を玄関に残したまま静かにドアを閉じた。
……世奈の言うことなんかを鵜呑みにしたせいだろうか。
分からない。
分からないけど、ただ一つ確かなのは、僕の言葉は一葉さんが求めているものではなかったらしいということだ。
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