文化祭へ向けて
気さくな様子で鬼瓦が片手をあげ、彼の登場に恐れおののく演劇部員たちに挨拶する。
「き、君……演技はできるっスか?」
「経験はないが、まあやってみるぜ。任せてくれ。東桂木さんに恥をかかせるような真似はしねェ」
「え、わ、私ですか?」
「……いや、気にしねェでくれ」
そうか、一葉さんは自分のファンクラブの存在を知らないんだ。
もしかすると、本人に存在を悟られてはいけない的な暗黙のルールがあるのかもしれない。
「そういえば、東桂木さんに関わっちゃいけないんじゃなかったの?」
気になったので鬼瓦に訊いてみた。
鬼瓦は困ったように自分の短い髪を撫でながら、
「ま、直接かかわるわけじゃねーからいいんじゃねェの? それに今のあの人はお前って相手がいるんだからさ」
「……答えづらいな、その言い方」
「自信持てよ佐藤。俺はお前のこと、気に入ってんだよ。そういやあのバカ強ェ女はどうした? 幼馴染なんだってな」
「世奈のこと? あいつなら……まあ、今も仲良くやってるよ」
鬼瓦の目つきが鋭くなる。
「浮気かァ?」
「冗談じゃない。こっちも色々大変だったんだから」
「ま、どっちだっていいけどよ。ファンクラブ側としては、お前があの人と別れてくれた方がメリットは多いんだけどな」
「余計なお世話だ」
「だろうな」
「二人とも、何をこそこそ話してるのかは知らないっスけど、打ち合わせをするからちょっと静かにしててほしいっス」
背伸びをしながら部長が言う。
どうやら、僕らが全然話を聞いてなかったのに怒っているらしい。眉毛が逆八の字になっている。
「す、すみません。静かにしてますから」
「あァ、気をつけます」
「よろしい。それで、この部屋のセットのことっスけど……」
部長や東桂木さんが顔を寄せ合って打ち合わせをしているのを尻目に、僕らは教室の隅の方に座った。
「案外真面目な部活なんだなァ?」
「部長のモチベーションが高いんだよ。こっちは少し困る」
「あんなに小さい体で、偉いじゃねェか。支えてやるのが男ってもんだ」
「まあ、それはそうだろうけどさ」
「あ、あのぉ、私もご一緒していいでしょうか……?」
か細い声で僕らの会話に割り込んできたのは鉦緒さんだ。
「もちろんどうぞ」
僕が言うと、鉦緒さんは小さく頭を下げて僕らの隣に座った。
……とまあ、こんな風にして、文化祭に向けての準備は着々と進んでいったのだった。
※※※




