二者択一
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「佐藤君……実は男子役が足りないんスよね」
「はい?」
次の日には、高天原さんは脚本を仕上げてくれていた。
内容は笑いあり涙ありの学園コメディって感じでかなり良かった。
良かった―――のだが。
「登場人物は男子一名、女子二名。男子に一人出てもらわないと困るっスよ」
はあ、と深いため息をつく苔河先輩。
「別に僕じゃなくてもいいじゃないですか。宝塚だって女の人が男役やってますし」
「それはその道のプロがやるからうまくいくんスよ。こちとらずぶずぶの素人っスよ?」
確かにそうかもしれない。
だけど、僕だって素人だ。
「無理ですよ。無理無理。お芝居なんてやったことないし」
「でも他に男子が居ないんスよ! 佐藤君しかいないっス!」
「そう言われても……」
「じゃあ特別に譲歩してあげるっス! もし明日の放課後までに別の男子生徒を連れてくることが出来たら、その人に頼むことにするっス!」
「つまり、劇に出たくなければ身代わりを用意しろってことですか?」
「そういうことっス!」
なるほど分かった。
しかし僕、友達いないんだよな。
ここは恥を忍んで初舞台を踏む覚悟を決めるか……。
「とりあえず最大限の努力をしてみますよ」
「そんなに出たくないんスか? きっと君ならうまくやれると思うっスよ?」
「僕に演技の才能なんてありませんよ」
実際、『進学校に通う一般生徒』の演技ができなかったから今の僕がいるようなものだし。
……学校でも大人気な美少女の彼氏の演技も、幼馴染の好意を受け止められる懐の深い男の演技もできなかったわけだし。
「そうっスかねえ……それは残念っスけどねえ……」
「まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいですよ」
「あ、そうだ。もう二つ言っておきたいことがあるっス」
二つもか。
多いな。
「何ですか?」
「一つ目は、舞台美術を用意してくれる人を見つけて欲しいってことっス。背景やセット代わりになる絵みたいなのが欲しいんスよ」
「……なるほど。もう一つは?」
「殺陣のシーンがあるっスから、武道の経験がある人を紹介して欲しいっス。もちろん知り合いにいればの話っスけど」
はっきり言って、どちらにも心当たりがある。
美術と言えば一葉さんだし、武道と言えば世奈だ。
さすがに二人同時に声を掛ける勇気は僕には無い。
どちらか片方にお願いするか、もしくは自分たちだけでやるか――。
さて、どうする?
武道なら、世奈に散々サンドバックをやらされた僕にも多少の心得がある。
要は世奈がやっていたような動きを教えてあげればいいだけだ。
となると問題は背景美術。
言うまでもなく僕は絵が下手だし……。
なら、頼める相手は一人だけだ。
東桂木一葉さん、あの人にやってもらうしかない。
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