限りなく憂鬱に近いブルー
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それからどうやって家に帰ったか、僕は覚えていない。
だけどその日から一葉さんは、靴箱で僕を待ってくれなくなった。
……結局は元通りになっただけだ。
思い返してみれば一週間にも満たないほんの数日の出来事だった。
人生初めての経験ばかりだった。
それを僕は、あの一瞬で全て失ってしまった。
東桂木親衛隊の鬼瓦でさえ僕に何も言わなかった。
僕に同情しているのか、それとも一葉さんに寄りついていた変な虫がいなくなって安心しているのかは分からないけど。
もう放課後居残っておく理由は無くなったのに、僕は演劇部に通い続けていた。
途中で投げ出すのも悪いような気がしたのが半分と、一葉さんや世奈との一件を忘れたかったのが半分だ。
そうしている内に一週間が過ぎた。
「……さて諸君! 我々は重要な決断を迫られているっス!」
いつもの空き教室に集まった僕らは、教壇の上で熱弁を振るう苔河先輩を眺めていた。
「重要な決断ってなんですか?」
「今から話すっスよ、佐藤君。黙って聞いておくっス!」
「は、はい……」
僕が大人しくなると、苔河先輩は満足げに頷いた。
「よろしい。それではよろしいかな諸君、私たち演劇部は無事に創部を認められた。そうなると次に考えなければならないのは、迫る一か月後の文化祭でどの出し物をするかということっス!」
「文化祭、出るんですか?」
「出るっス!」
「先輩、三年生ですよね? 受験生なのにそんなことしてていいんですか?」
「良いっス! どうせ留年が決定してるっスから!」
おっと。
これは失礼。
うっかり聞いてはいけないことを訊いてしまった。
けっこうナイーブな話題かと思ったけど、苔河先輩はまるで気にしない様子で話を続ける。
「私たちが使える時間は準備込みで30分っス! 本当なら3時間プラス15分休憩くらいの舞台をロングラン公演したかったんスけど、こればっかりはしょうがないっス!」
四人しかいないのに3時間は無理だろう……。
「質問があります、部長」
凛としたようすで手を挙げたのは高天原さんだった。
「どうしたっスか? 疑問点があるならどんどん言って欲しいっス!」
「もし部長さえよければ私が脚本を書きます。いえ、書かせてください」
「おおっ! 素晴らしいやる気っスね! ぜひお任せするっス!」
「大体20分くらいの長さで、場面転換や登場人物は少ない方が良いですよね?」
「そうっス。照明は使えるって話っスけど、大道具小道具の出捌けはむしろない方が良いっスね、人数も少ないし……」
おっと、なんか専門的な話になって来た。
よく分からないのでぼうっとしていたら、同じようにぼうっとしていた鉦緒さんと目が合った。
お互いに気まずい愛想笑いを浮かべる。
しかし、文化祭か……。
僕も舞台に上がれって言われたらどうしよう。
それはさすがに自意識過剰か。
突然バンドのボーカルに抜擢される妄想をするようなものだ。
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