白い闇を抜けて
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食事を終えて、後片付けをしたあと、僕らは他愛もない話をした。
その頃にはずいぶん夜も遅くなっていた。
「一葉さん、そろそろ僕帰るよ。バスもなくなっちゃうし」
「もうそんな時間ですか?」
「うん、明日も学校だし」
僕は腰かけていたベッドから立ち上がろうとした。
その時不意に袖を引かれ、バランスを崩してしまった。
ヤバいと思った時にはもう遅く、僕は隣に座っていた一葉さんに覆いかぶさるように、ベッドの上
に倒れていた。
「ま、真くん……」
「一葉、さん……」
すぐ目の前に一葉さんの顔がある。
怯えたような、それでいて何かを待っているような顔をしている。
一葉さんの白い肌が僕の鼻先にある。
石鹸の香りがする。
いわゆる、床ドンと呼ばれる体勢だ。
僕の心臓が激しく鼓動を打っているのが聞こえる。
こっ、このまま行きつくところまで行っちゃっていいのだろうか。本能の赴くままに。
卒業しちゃっていいのだろうか。
いやしかしそれは!
「真くん」
「う、うん」
「目、瞑ってください……」
「は、はい……?」
混乱していた僕は一葉さんに言われるまま目を瞑った。
この時点で気付くべきだった。
こういう雰囲気の時に目を瞑れと言われて、その次に何が起こるのかを。
一葉さんの腕が僕の首周りに絡まる。
その瞬間、僕は両腕で踏ん張っていた最後の力が抜けた。
僕の体は一葉さんの体と完全に密着して、僕の唇はそのまま―――一葉さんの唇と重なった。
思わず僕は目を開けていた。
な、なんだこれ。
なんだこれ!?
どういう状況なんだ!?
今どこで何が起こってるんだ!?
頭の中が混乱している間に、僕は一葉さんにマウントポジションを返され、気が付けば彼女に馬乗りにされていた。
「真くん、今日は両親とも家に帰ってこないんですよ」
僕のお腹のあたりに跨ったまま一葉さんが言う。
そ、それってつまり、そういうことだよな!?
どうする? どうするのよ僕?
選択肢は二つ。
このまま進むか。進まないか。
このまま進めば――――いや、ダメだ。
わずかに残った僕の理性が、それはいけないと告げている。
そんな18禁な展開は。
で、でも、今更この空気をぶち壊すようなことは――――!
『男ならちゃんと女の子を守ってあげなきゃだめなんだからね』
「世奈……」
僕は思わず、幼馴染の名前を口に出していた。
はっとして一葉さんの顔を見上げると、一葉さんは半分泣いて半分笑っているような顔をしていた。
「やっぱり、真くんの心にはいつも柊さんが居るんですね……」
「い、いや、違うんだよ一葉さん、今のは」
「いいえ、全部分かってましたから。今日お喋りしているときだって、真くんは時々思いつめたような顔をしてらしたんです」
「そ、それは……」
「昨日のあの一件が気になっているんですよね?」
「…………」
図星だ。
「ずっと一緒に過ごして来た人をそう簡単に忘れられないのも分かります。でも、私はあなたのことが好きです。真くんの心を独り占めしたいんです」
「一葉さん……」
「嫌な女だと思われるかもしれませんけど、それが私の正直な気持ちです。ですから、真くん―――一度、距離を置きましょう」
「距離を、置く?」
「あなたが柊さんを忘れられるまで、バスの中で出会うまでのあなたと私に戻りましょう。そしてもし、真くんが私だけの真くんになってくれるというのなら……その時にもう一度私を迎えに来てください」
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