人類未踏の地
なぜか僕の胸は大きく高鳴った。
「わ、私の家って」
「バス停からすぐなんです。少しだけでいいですから」
一葉さんの左手が僕の肩に添えられる。
ここまで言われると断るわけにもいかない。
「分かったよ。少しだけね」
鼓動を早める心臓をなだめすかしながら、僕は冷静なふうを装って、一葉さんと一緒にバスを降りた。
……えらいこっちゃ。
女の子の家に行くなんて、小学校のころ世奈の家に行ったとき以来だ。
―――また世奈だ。いい加減にしろよ、僕。世奈のことなんか今は考えちゃダメだろ。
っていうかそれより、本当について行っちゃっていいんだろうか。
ご両親とかが御在宅だとなんか気まずいっていうか、菓子折りの一つでも持って行ったほうが良かったかもしれないっていうか。
「真くん、どこまで行っちゃうんですか!?」
「え?」
立ち止まり振り返ると、一葉さんが僕の後方で手招きしていた。
「こっちですよ。この家です」
「この、家……!?」
それは大豪邸だった。
暗くてはっきりとは見えないが、庭には小さなプールまである。
もちろんビニールプールとかではない、普通のプールだ。
「さ、遠慮せずにどうぞ、真くん」
「あ、は、は、はい……」
門をくぐった先にある豪邸には、灯りが一つも点いていなかった。
一葉さんは手慣れた様子で玄関の大きな扉の鍵を開けた。
「あんまり緊張しないでください。私たちの他には誰も居ませんから」
「だ、誰も……!?」
それってつまり、二人きりってこと!?
いかん、逆に緊張してきた。
これは男を試されているのか、僕は……!?
「私の両親、いつも仕事であんまり家に帰ってこないんですよ。特に今の時期は忙しいらしくて」
「へ、へえー……」
それにしても広い玄関だな。
鹿の彫刻とか置いてあるけど……。
「靴はその辺りに脱いでおいてください。私の部屋、二階なんですよ。迷子にならないでくださいね?」
「は、はい」
一葉さんに案内されるまま僕は長い廊下を歩いた。
ちょっとした旅館みたいだな、この家。四階まであるみたいだし。
階段を上がってすぐのところで一葉さんは立ち止まった。
目の前にあるドアには、『一葉』と書かれたネームプレートが下がっていた。
「ここが私の部屋です。少し中で待っててください。お菓子とか持ってきますから」
「う、うん」
一葉さんがドアを開けて、中へ入るよう僕に促す。
そして僕は、ついに女子高生の部屋へと足を踏み入れた。




