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ワンダフルナイト



※※※



 特に約束をしていたわけではないのだけれど、僕が靴箱へ行くと一葉さんが居た。

 壁に凭れて外を眺めていた彼女は、こちらに気付いたように顔をあげると僕に微笑みかけた。


「真くん、一緒に帰りましょう」

「……ああ、うん」


 なぜか僕は気が進まなかった。


 世奈の泣き顔が脳裏を過ったからだ。


 今まで忘れていたのに。


 あいつが泣いたところを見たのは初めてだ。


 小さい頃からずっと一緒だったのに……。


「考え事ですか? おいて行っちゃいますよ、真くん」

「え? あ、ごめん」


 気づけば一葉さんはもう靴箱を出ていた。


 僕は慌ててその後を追いかけた。


「今日は真くん、何をされていたんですか?」

「部活だよ。なんか、新しく部を作りたいって三年生がいてさ、その手伝い」

「新しく部を? どういう部なんですか?」

「演劇部って言ってたかな」

「へえー、演劇部。真くん、お芝居できるんですか?」


 からかうように一葉さんが言う。


「全く経験ないけど、これを機に才能が開花しちゃって来年の朝ドラとかに出てたりして」

「そうなると良いですね! 朝から毎日真くんの顔が見られますから」

「それだったら一葉さんが出るべきだよ。朝から僕の顔なんか見たら、気分が悪くなる人多いんじゃない?」

「卑屈な男の人は嫌われますよ、真くん!」


 怒ったのかと思ったら、一葉さんは意地悪な笑顔を浮かべて僕の方を見上げていた。


「……気をつけるよ」

「もちろん私はどんな真くんも愛することができる自信がありますけどね!」


 一葉さんが得意げに胸を張る。


 おっ、そこそこある……。


 と、一葉さんは不意に僕から離れた。


「……目がいやらしいです、真くん」

「ごめん、つい」


 謝ると、一葉さんは唇を尖らせて、


「えっちなのはいけないとおもいます!」


 と言った。


 僕は萌えた。



※※※



 他愛もない話をしている間にも僕らの乗ったバスは進み、一葉さんが降りる停留所へ到着した。


「じゃあ、また明日ね、一葉さん」

「はい。CD、家に帰ったらすぐ聞きますね」

「うん。おやすみ」


 僕は一葉さんに小さく手を振った。

 だけど、一葉さんは席を立ったまま動かなかった。


 どうしたんだろう、と僕が思っていると、


「あの、真くん」

「何? ……降りなくても良いの?」

「いえ、降りますけど、あの……」


 一葉さんが口ごもる。


「どうしたの? 困り事? もしかして前に言ってた病気のこと?」

「そうじゃないんです。あの、真くん。少し寄って行きませんか?」

「どこに?」

「私の家です」



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