最初の一歩
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「―――で。演劇部がどうしたんですか?」
「話を聞いていなかったっスか? 復活させるんスよ。君と私で」
即行で空き教室へ飛びこんだ僕は、机を挟んで苔河先輩と向かい合っていた。
先輩を落ち着かせるのに少し時間がかかったことは追記しておこう。
「どうして僕がそんなことを? まだ夏前ですし、部活を決めてない一年生もいっぱいいるんじゃないですか?」
「二歳違うと話がかみ合わないっスからね……」
「言い訳がましいですね。そんなものですか、あなたの部活にかける思いというのは」
うう、と敵意をむき出しにして唸る苔河先輩。
「だったら君は見知らぬ下級生に話しかけられるっスか!?」
「僕は無理です。だから部活に入ろうなんて思わないし、ましてや部を創設しようなんてことも思わない。というか、先輩は僕に話しかけてるじゃないですか。その調子で他の人を誘ってくださいよ」
「私だって、見境なしに誰かを誘うような尻軽ビッチじゃないんスよ! ちゃんと見込みがある人間を選別してるっス! 君は私のお眼鏡にかなったってことっス!」
喜んでいいのか悲しめばいいのか。
「僕が向いてるとは思えませんけどねえ……」
「いやそんなことはないっス。私の目に狂いはないっス。君は未来の浅利慶太になれる男っス!」
「僕に劇団を立ち上げろと!?」
「どうしても嫌というのなら、これでどうっスか!」
苔河先輩は机の上に勢いよく何かを叩きつけた。
おっ、賄賂か……?
「ってこれパンツじゃないですか! さっきも貰いましたよ!?」
「えーい、まだ足りないというのならっ!」
まるで手品師がそうするように、空中から次々とパンツを取り出し机の上に並べる苔河先輩。
器用だな……。演劇部より手品部をやるべきじゃないのか?
「何枚持ってるんですか……?」
「実家がパンツ屋なんス。だから下着には事欠かないっス」
だとしてもこんなに大量の下着を学校に持ってくる必要はないだろ……!?
「まさか先輩、失禁癖でもあるんですか……?」
「ぎゃああああああっっ!? せ、セクハラっス! 痴漢がいるっス!」
突然、苔河先輩が目を白黒させながら暴れだした。
「じょ、ジョークですよ」
「最っっっ低のジョークっス! ドン引きっス!」
先輩が僕に向かって机を蹴倒し、その上に並べられていた下着が雪崩のように床へ散らばる。
その時、タイミング悪く教室のドアが開いた。
「お前たち、何をしているんだ!」
体育教師の龍堂寺だ。
生徒指導も担当しているこの男に、こんなところを見られてしまうとは!
密室の教室で男女が二人きり、そして散らばる下着……!
これでは猥褻な誤解を受けても仕方がない!
不覚!
僕がうまい言い訳を頭の中で思案している間に、苔河先輩が颯爽と立ち上がり龍堂寺と向き合った。
そして、やけに活舌良くしゃべり始めた。
「演劇の練習です! 今度の学園祭でやるんです!」




