桜舞い散る坂道で
※※※
校内には教室に残っている生徒も何人かいた。
もちろん僕の知り合いは一人もいない。
なんだか息が詰まりそうだったので、気晴らしに校舎の外へ出た。
運動場ではテニス部や陸上部が練習していたり、校舎の周りをランニングしたりしていた。
うちの高校は校門付近に桜の木が植えられていて、入学式の頃には満開になる。
僕はその桜の木をぼんやり見上げていた。
「この学校は好きっスか」
「……?」
女の子の声だ。
横を見ると、見知らぬ女子生徒が立っていて、こちらを見上げていた。
かなり小柄だ。下級生だろうか。
「私はとってもとっても好きっス。でも、何もかも変わらずにはいられないっス」
女子生徒は世奈よりも少し短いくらいのショートヘアで、何かを訴えかけるような目をしたまま言葉を続ける。
「それでも、この場所が好きでいられるっスか!?」
……やっべぇ。
絶対アレな人だ。
出来るだけ関わらない方が良いタイプ。
僕は気づかないふりをして女子生徒に背を向け、その場を立ち去った―――。
「ちょっと待つっス! あんた、絶対気づいてたっスよねえ!? 返事は!?」
直後、背中に強い衝撃を受けた僕は受け身を取りながら地面を転がり、その勢いを利用して再び立ち上がった。
目の前にはさっきの女子生徒が仁王立ちしている。
こいつ、僕に体当たりしやがった!
「返事ぃ!? 何の返事だよ!?」
「私の問いかけに対する返事っス! 次の楽しいこととか嬉しいことを見つければいいだろって答えるところっスよ!」
「そんなの知るかっ! 何の話だ!」
「あんたと私はここで運命的な出会いをして、演劇部を復活させる運命にあるっス!」
「演劇部ぅ!?」
「そうっス!」
ビシッ、と僕を指さしながら女子生徒は言う。
「そんな部活、この学校にあったのか?」
「廃部になったっス! だから復活させるっス! この私、苔河汀と一緒に!」
「い、嫌だね! お前みたいにすぐ暴力に訴える奴にかかわるとろくなことがないんだよ! 僕は知ってるんだ!」
「まるで女性にトラウマを抱えているような口ぶり……でも、それとこれとは関係ないっス。こんな時間にフラフラしてるくらいだからどうせ暇っスよねえ!?」
「暇だったら何だって言うんだ!」
「私と一緒に演劇部を復活させるッス! 今なら副部長の座を差し上げるっス!」
「廃部になったような部の副部長の座なんていらねえよ!」
「へへ、そんなこと言わずに。こいつでどうっスか?」
苔河は僕にすり寄って来ると、僕の手に何かを握らせた。
なんだこれ、布……?
広げてみると、それは女物の下着だった。




