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明日やろうは馬鹿野郎



※※※



 一葉さんとのカラオケは普通に楽しかった。


 相変わらず一葉さんの歌声は念仏みたいで、僕の歌は一つも音程があっていなかったように思うけれど、普通に盛り上がった。


 結局歌というのはハートだ。


 突撃ラブ〇ートだ。


 マク〇ス7だ。


 熱気バ〇ラだ。


 僕の歌を聞けえええええ!!!!


 ……ちょっと落ち着こう。


 僕らの乗っていたバスが停車する。


 一葉さんが立ち上がる。


「私、ここで降りるので。真くん、今日はありがとうございました」

「いや、僕の方こそ。楽しかったよ」


 僕の言葉に、一葉さんは笑顔で応えた。


「私もです。また明日、真くん」


 一葉さんは軽い足取りでバスを降りると、僕の方を見て手を振った。


 僕も振り返す。


 バスが発車し、停留所が見えなくなるまで、一葉さんはずっと手を振っていた。


 一瞬、さっきまで一葉さんが座っていた座席の匂いを嗅いでみようかと思ったが、やめておいた。


 多分いい匂いがするんだろうけど……。


 ちょっと想像してみる。

 いや、一葉さんの匂いではなく、バスの座席に頭を突っ込んで臭いをかぐ自分の姿をだ。


 うーん、とても衆目に晒すことは出来ない。

 やっぱりやめておくのが正解だろう。


 っていうかそもそも思いつくなよ、僕。


 ポケットの中でスマホが振動した。

 取り出して画面を見ると、一葉さんからメッセージが来ていた。


『今日は楽しかったです! また今度デートしましょうね!』


 僕は安堵のため息をついた。


 一葉さんとの初デートはとりあえず成功だったらしい。


 彼女の歌がド下手だったのには少し驚いたけど、それも愛嬌だ。僕も人のこと言えないし。


『僕も楽しかった。一葉さんと音楽の趣味があうなんて思ってなかったし』

『共通点が増えて嬉しいです! でも、実はあまり詳しくなくて、知ってる曲も少ないんです……』

『よかったら、CD貸そうか?』

『本当ですか! やったー!』

『明日持ってくるね』


 ふいに僕は胸の奥にもやもやしたものを感じた。


 世奈の件だ。


 あいつにはまだ、僕が一葉さんと付き合っていることを言えていない。


 いっそ今ここで言うか?

 電話じゃなくても、メッセージを送るだけで伝わるだろう。


『世奈には悪いんだけど、僕、付き合っている人がいるんだ』


 文章を入力してみて、思う。


 これじゃまるでナルシストじゃないか。


 もし世奈が僕と付き合う気なんてなかったらどうするんだ?


 いやさすがにそれはないか。キスまでしちゃったわけだし。


 だけどあの世奈のことだし、僕をからかってるだけってことも……。


 そんな風に悩んでいる内に、バスは僕の家近くの停留所まで来ていた。


「す、すみません、降ります!」


 僕は慌てて立ち上がり、バスを降りた。


 ……世奈の問題はとりあえず後で考えることにしよう。



※※※




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