PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK
「ま、まあ、気にしないでよ。勘違いはよくあることさ」
「倒れた俺達を保健室に運んでくれたのもお前なんだろ? 俺は何てことをしちまったんだァ……」
両手を地面に付き、うなだれる鬼瓦。
「よ、寄せよ。ほら、顔を上げて」
「すまねぇ、佐藤! 何か困ったことがあったら言ってくれ! 俺達親衛隊はいついかなる時でもお前の味方になるからよォ!」
突然立ち上がった鬼瓦は、僕の両肩に手をのせ熱い口調で語りだした。
「は、はあ、まあ、そりゃどうも」
「だからてめー、東桂木さんを泣かすんじゃねえぞ。その場合は血祭りにあげてやるからな」
「……そりゃどうも」
牽制された。
もちろん、一葉さんを泣かせるつもりはないけど。
「そいじゃ、ごゆっくり。邪魔しちまって悪かったなァ!」
そう言うと、鬼瓦は店のすぐ横に停められていた原チャに跨り、ヘルメットを被った。
こいつの原チャだったのか、これ……。
「ああそうだ、佐藤」
思い出したように鬼瓦が言う。
「何?」
「東桂木さんの歌がたとえどんなものだろうとも、この俺が文句は言わせんからな」
「……どういう意味?」
「フッ、今に分かる。じゃあなァ!」
原チャを走らせ、鬼瓦は街の中に消えて行った。
……なんだかすごく疲れた。さっさと飲み物を用意して一葉さんのところに戻らなきゃ。
※※※
飲み物の入ったグラスを両手に抱えカラオケ屋の廊下を歩いていると、どこからか念仏を唱える声が聞こえて来た。
防音設備が甘いんじゃないのか? これじゃ声が外に駄々洩れじゃないか。
一葉さんが待っている部屋に近づくにつれ、念仏は徐々に大きくなっていった。
なんだか嫌な予感のする僕だったが、自分の気持ちに気づかないふりをして、一葉さんのいるであろうカラオケルームの前で立ち止まった。
―――念仏は、その部屋の中から聞こえていた。
「ま、まさか」
鬼瓦が言っていたことを思い出す。
東桂木さんの歌がたとえどんなものだろうと――――。
「あ、真くん!」
中で抑揚のない念仏のような歌を歌っていた黒髪清楚系超絶美少女が僕に気付き、ドアを開けてくれた。
「い、一葉、さん」
「ごめんなさい、先に歌っちゃって」
いたずらがバレたみたいな軽い調子で一葉さんが言う。
「いや、僕の方こそ待たせちゃったみたいで……」
部屋に入ると、僕の良く知っているイントロが流れて来た。
こ、この歌は―――ッ!
「あの、せっかく一人だったので、ちょっとマイナーな歌を……でも、真くんが戻って来たので止めますね」
リモコンの演奏停止ボタンを押そうとする一葉さんの手を、僕は思わず掴んでいた。
「これ、『ルイズメリー』の『エンドレスレイニーブルー』だろ……!?」
「真くん、知ってるんですか……!?」
「実は大ファンなんだ……もう二十年以上前に解散したバンドだけど、CD全部持ってる」
「本当!?」
「『ルイズメリー』のボーカルは後々ソロプロジェクトで大ヒットしてるけど、僕はバンド時代の方が好きなんだ」
「私もなんです! それじゃ、『ツキウミ』は知ってますか!?」
「当然さ。ヴィジュアルバンドシーンを一躍有名にしたバンドだよね。じゃああれは? 『Reg-en-bogen』……」
「めちゃくちゃ有名ですよ! わーっ、こんなところで話が合うなんて思いませんでした!」
テンションが上がったのか、一葉さんは僕の両手を掴んで勢いよく上下に振った。
僕と彼女の間に共通の話題があったなんて僕もびっくりだ。
と、ちょうど曲が終わった。
「じゃあ、次は僕が曲入れていい?」
「どうぞどうぞ!」
よし。
ヴィジュアル系の元祖で、盛り上がる曲と言えばこれしかないだろう。
声帯、持ってくれよ!
「『〇』だぁあああああああっっ!!!」
※※※




