鬼の目にも涙
※※※
というわけで(どういうわけだ)カラオケ店へやってきた。
映画館→昼飯→カラオケという昨日と全く同じスケジュールを辿っている。
カラオケの部屋番号まで同じだったし。
店先に居た受付の人が昨日とは違っていたのは幸運だったかもしれない。
特に意味があるわけでもないが、僕は昨日座った席と同じ位置に座った。
そういえば昨日はここで世奈が僕に密着してきて……。
「考え事ですか、真くん?」
マイクの準備をしながら、一葉さんが僕に言った。
僕は動揺を押し隠しながら返事をする。
「う、うん、まあそんなとこ。あ、そうだ、飲み物取って来るよ。何が良い?」
「そんな、申し訳ないですよ。私が行きます」
「いや、良いよ。好きなのを言ってよ」
「えーと、それじゃオレンジジュースを……」
「分かった。じゃ、ちょっと待ってて」
「本当にいいんですか?」
「このくらい大したことないって。それじゃ」
一葉さんを残して部屋を出る。
よし、今のところ大きな問題は起きてない。
昨日世奈と一緒に回ったコースだから道に迷うこともないし、昨日世奈と喋ったようなことを繰り返し喋るだけだから、会話が途切れることもない。
ありがとう世奈―――。
そう思った瞬間、唇に昨日の感覚が蘇った。
世奈とのキスの感触が。
……やっぱりあれは現実だったんだよな?
いや、早急に記憶を抹消するんだ僕。少なくとも今思い出すようなことじゃない。
今は一葉さんとデートに来ているだから!
ドリンクバーのある出入口までやって来て、ふと自動ドアの向こうを見てみると、そこには知っている顔があった。
「げ」
思わず僕は声を上げていた。
東桂木親衛隊の鬼瓦が、店の外から僕の方をガン見していたからだ。
強面なその男は、僕に向かって手招きしている。
……無視すると後が面倒そうだ。
仕方ないので、僕は一度店を出た。
「よォ、元気か?」
無表情なまま僕に片手を上げて挨拶する鬼瓦。
「……元気だよ。それで、何の用?」
「用っつーほど用があるわけじゃねーけどな。いっこだけ謝っときてェと思ってさ」
「謝る? 君が僕に?」
「ああ。お前、バスの中で大人に絡まれてた東桂木さんを助けてくれたんだろ?」
「いや、助けたって言っても一緒に逃げただけだし……」
「東桂木さんの窮地に駆け付けられなかったとは、親衛隊の名折れなんだァ! そればかりか恩人であるはずのお前を集団で襲うなんて……ッ!」
肩を震わせながら鬼瓦は涙を流した。
なんだこいつ、情緒不安定なのか!?
っていうか一葉さんもそうだけど、涙脆い人が多いのか!?




