キスしてほしい
「着いたか……。じゃあ、今日はお別れだな」
「う、うん」
僕はそのまま家に帰るつもりだったのに、なぜか世奈は僕の家の前で立ち止まってしまった。
だから僕も、なんとなく気まずくなって立ち止まった。
「……世奈、帰らないのか?」
ちなみに世奈の家は僕の家の隣である。
「帰るわよ。帰るけど……」
「ん? もしかして何か忘れ物した? 取りに行く?」
「ち、違うわよ。あたしがそんなミスすると思う?」
「いや、思わないけど……」
ちょうど辺りは薄暗くなり始めた頃で、道端の街灯があちこちで点灯していた。
辺りには人気もなく、僕らはただ二人きりで立ち尽くしていた。
「え、えーと、今日、楽しかったわね」
沈黙を無理やり壊すように世奈が言った。
「ああ、楽しかったよ。さっきも同じようなこと言ったけど」
「……また二人で遊ぼうね、シン」
「ん、ああ、うん……」
僕は曖昧に返事した。
遊ぶだけならデートとか付き合うとかってわけじゃないんだ。一葉さんも許してくれるだろう。
―――いや、それはダメだ。
僕が一葉さんと付き合っていることを今ここではっきり言わないと、世奈に隠し事をし続けることになってしまう。
僕は覚悟を決めて口を開いた。
「あの、世奈――――」
だけど、僕の言葉は途中で遮られた。
口を塞がれたからだ―――世奈の唇に。
全身の血が熱くなって、体中から火が出そうな感覚だった。
永遠みたいな一瞬が過ぎ去って、世奈の顔が僕から離れていく。
「あは、あたしの初チューあげちゃった」
のぼせたように頬を赤くしながら、世奈が小さく笑った。
「せ、世奈、なんで」
「今日さ、不良に絡まれたときにあたしを庇ってくれたでしょ。そのお礼。……カッコ良かったよ、シン。またね」
くるっ、と回れ右して、世奈は自分の家に戻って行った。
一人取り残された僕は……いつの間にか部屋にいた。
ベッドに横になる。
天井を見上げる。
同時に、世奈の唇の感触が脳裏によみがえった。
「ぐわあああああああっっっ!!?」
あふれ出る感情に任せるまま、僕はベッドの上を転がりまわった。
考えられる中で最悪の事態だ!
なんでこうなったんだ!?
誤解を解くどころか、余計に深まってんじゃねえか!
どうするんだ僕!
世奈に全部がバレたとき、殺されても文句言えねえぞ!?
突如、僕の枕もとでスマホが鳴った。
ひとまず呼吸を落ち着かせ、僕はスマホの画面を開いた。
一葉さんからメッセージが届いていた。
『明日のデート、どこへ行きますか?』
……そうだった。
一葉さんとのデート先を決めるために世奈に連絡したんだった。
こ、こうなったら仕方ない。
『見たい映画があるんだけど、良いかな?』
『もちろん。私も映画大好きなんですよ!』
『それなら良かった。その後、カラオケとかどう?』
『分かりました! 明日が楽しみです!』
『それじゃあ、集合時間は――――』
……こうして僕は、映画館からのカラオケコンボを二日連続で喰らわされる羽目になったのだった。
自業自得だけどさ。
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