歌は文化の極みだよ
※※※
「あー、楽しかった!」
結局カラオケには三時間くらいいて、そのまま帰る運びとなった。
幸か不幸か、あれ以降は特にいやらしい展開にはならなかった。
「意外と歌うまいんだな、世奈」
「当たり前よ。普通の人とは腹筋の鍛え方が違うんだから」
少し枯れた声で世奈が言う。
最近はやりのアイドルソングからJPOPまでを完璧に歌いこなす世奈は、はっきり言って凄かった。
一方の僕はと言えば―――。
「シンはさー、もうちょっと練習した方が良いわよ」
「う、うるせえな。ほっとけよ」
音楽の神様からも見放されているらしく、僕の歌に『音程』の二文字はなかった。
おかしいな。風呂とかで一人で歌ってるときはうまく聞こえるのにな。
「昔から歌下手だったもんね。小学校のときに歌のテストがあったの覚えてる?」
「覚えてる覚えてる。なかなか合格点が貰えずに何度も再テストがあったんだ」
「あれね、再テストになったのって学校中でシンだけだったんだよ」
「…………」
知りたくなかった事実だ……。
てっきり他のクラスでも何人か追試を受けてるとばかり思っていた。
「それに、あの音楽の先生、あたしたちを担当した年で途中退職しちゃったんだって。音楽を教えられる自信がなくなったとかで」
それって原因僕じゃん!
言われてみれば確かに、リコーダーとかも一人だけ吹けなかったような気がする。
合唱コンクールのときも一人だけ口パクで良いって言われたし。
卒業式の合唱でさえ口パクだった。
……歌が心を潤してくれるなんて嘘だな。ねえ、カヲル君?
「くっそー、カラオケなんて嫌いだ! 二度と行くもんか!」
「あはは、そんなにムキにならなくていいじゃない。あれね、コツがあるのよ」
「……コツ?」
「そうそう、例えばマイクとの距離を一定に保つとか、歌う時に姿勢を固定するとか……あと、誰も知らないような変なバンドの歌うたわないとか」
「曲の冒頭にMC入れたりサビでヘッドバンキングしたりしちゃダメなのか!?」
「……それでシンが楽しいなら良いんじゃない? あたしも楽しかったし」
世奈が困ったような笑顔で答える。
な、なんで急に大人みたいなことを言うのかなあー!?
「どうしたらいいんだ? 僕も少しは歌、上手くなりたいと思ってるんだよ」
「そうね、一番簡単なのは口をちゃんと開けて歌うことかな」
「口を開けて?」
「そう。大きく口を開けると、その分音程が安定するのよ。今度試してみたら?」
「わ、分かった。ありがとう」
「べ……別に、お礼を言われるようなことじゃないわよ」
「なんで赤くなってるんだ、世奈?」
「う、うるさいわね! あんたには関係ないでしょ!」
顔を赤くしながら両手を振り回す世奈。
一体どういう感情の現れなんだろう?
と、その時ちょうど僕の家の前に到着した。
いよいよ長かった一日が終わろうとしている。




