交際一日目
「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。大丈夫だから、帰ろう」
そうして僕らは二人並んで歩き始めた。
隣に世奈以外の女子がいるって感覚は、人生で初めてだ。
「なんだか、意外ですね」
「うん? 何が?」
「私、真くんのこともっと怖い人だと思ってました。教室でも全然喋らないし、いつも一人だし……」
「あ、あはは」
友達いねーんだから仕方ねえだろ。
余計なお世話だ。
「でも、本当は勇気があって優しくて、面白い人だったんですね! どうして今まで隠してたんですか?」
「いや隠してたわけじゃなくてね……まあ、ちょっとしたきっかけがあったっていうか」
「きっかけですか?」
「そう。僕には幼馴染がいるんだけど、そいつと―――」
と、言いかけてふと気づく。
これって、彼女の前で別の女の話をすることになるんじゃないか?
僕は知ってるぞ。これ、修羅場になるパターンだ! 昼ドラとか月9とかで見ことある展開だ!
ヤバい、話を変えなければ。
幸いにもまだ『幼馴染』としか言っていない。今からでも十分に軌道修正が出来るはずだ。
頭の中で知略を巡らせ、僕が口を開いた瞬間。
「あ、もしかして三組の柊世奈さんのことですか?」
「……は、はい、そうです」
先手を打たれてしまった。
「やっぱりそうだったんですね。お二人で仲良くじゃれ合っているのを見たことありますよ」
「それは誤解だ! あれはじゃれ合いなんてもんじゃない、世奈から僕への一方的な殺戮行為みたいなものなんだ!」
「……世奈?」
ん?
……あっ、しまった。
やっちゃいました。
世奈のことを名前呼びなんかしたら、まるで仲が良いみたいじゃないか。
柊さんって呼ぶって決めたばかりなのに。
「いやほら、小さい頃から名前で呼んでたらそれが習慣になっちゃったって言うか……深い意味は無いんだから勘違いしないでよねっ!」
「分かってますよ。柊さんは明るくて運動も出来て、皆さんの人気者です。そんなすごい幼馴染がいるなんて、真くんもすごいです!」
……お?
なんかよく分からないけど、尊敬の眼差しを浴びているぞ?
世奈――もとい、柊さんが人気者というのは癪だけど、今はその恩恵にあやからせてもらおう。
え、誰が虎の威を借る狐だって? ぶっ殺すぞ?
「そ、そんなことなくもなくもなくもないよ。ま、まあ、今までは実力を隠してたって感じかな。だけどもう柊さんとは縁を切ったんだ」
「縁を切った? 喧嘩でもされたんですか?」
「そんなところ。簡潔に言えば方向性の違いだよ。僕も独り立ちをするときが来たのさ」
「なるほど、複雑な事情があるんですね?」
納得顔で頷く一葉さんだが、本当に分かっているのかは定かでない。
「まあ、概ねそういうこと。別に柊さんと僕の間に特別な関係があるわけじゃないから気にしないで」
「分かりました。でも、幼馴染さんと仲違いしたままで良いんですか?」
「良いんだよ。あいつも、僕のこと嫌いなんだろうから。家が隣同士って以外にろくな接点がないんだよね、僕ら」
「そういうものなんですか? 私にはそう言う相手がいないのでよく分かりませんが……」
「ああ、そういうものなんだよ。それより、絵の方は順調?」
「そう、そうです! 真くんに話したいことがあるんです。美術室で面白いことがあったんですけどね―――」
とまあ、こんな感じで僕と一葉さんの交際初日は終了したのだった。
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