幼馴染は砕けない
「何しに来たんだよ……」
「『シンを笑いに来た』―――そう言えばシンの気が済むんでしょ?」
「済むわけねーだろ、馬鹿」
僕が言うと、世奈はあからさまに不機嫌そうな顔になった。
「馬鹿ですって? あたしが? あんたもちょっと見ない間に偉くなったものねえ?」
「そう言うならこっちも言わせてもらうけどな、そもそもそんなに偉いのかよ、お前」
「お前ェ!? ……ははーん、分かったわ。さては反抗期というやつね。今ならあたしの寛大な心で許してあげるから、早いうちに謝っておいた方が良いわよ。痛い目に遭いたくなければね」
「お前に謝るくらいなら、痛い目に遭った方がマシだ」
「……ッ! いい覚悟じゃない! 立ちなさい。あたしとあんたどっちが上なのか、叩きこんであげるわ!」
言うが早いか世奈は僕の胸倉を掴み上げ、音さえ置き去りにするような速度の拳を繰り出した―――が。
僕は、反射的にそれを受け止めていた。
片手で。
「何年見て来たと思ってんだよ、お前のパンチ」
「あ、あんた……まさか、今まで手加減して……」
「どうした? 主従関係を叩きこんでくれるんじゃなかったのか?」
今の僕に怖いものはなかった。
小さい時からずっと怖かった世奈と絶縁してから、恐怖という感情をどこかへ忘れてしまったみたいだ。
だから、クレーマーおばさんにも東桂木親衛隊にも立ち向かえた。
そして――柊世奈にも。
今なら勝てるかもしれない。
ずっと昔からのトラウマを克服できるかもしれない。
そう、今の僕ならば。
「普段穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた今の僕は、阿修羅すら凌駕する存在だ!」
いうなれば、スーパー佐藤真!
かかってこいやぁ! 柊世奈!
僕は立ち上がった勢いを利用して世奈に襲い掛かった!
「あ、あたしは空手の黒帯だ! なめるなよーっ!!」
世奈の悲鳴にも似た叫び声と共に繰り出された回し蹴りは、見事に僕の側頭部へクリーンヒットした。
メメタァ。
……あれ? どうして地面が近づいて来るんだ……!?
ドグシャア。
「あ、あんたが悪いんだからね。急に、襲い掛かって来るから……!」
荒く息を上げながら、世奈が言う。
「お、お前は、いつもそうだ。いつもいつも僕のせいにして……っ!」
くっそー、調子に乗りすぎた。
視界がぐるぐる回っている。
「う、うるさいわね。それはいつもあんたが悪いからでしょ?」
「……僕は、お前のそういうところが嫌いなんだよ」
「ふーん。あっそ。じゃあこれも要らないわけね」
「はぁ?」
世奈は胸ポケットから紙切れのようなものを取り出し、僕に見せた。
そう、それは僕が失ったはずの高価な紙切れ――『真っ黒なスイレン』だった。
蛇足な元ネタ解説!
※1 「『シンを笑いに来た』―――』
富野御大監督の、某リアルロボットアニメから。一年戦争時ライバルだった二人が再開するシーンは感動。民間機でモビルスーツ落としちゃうんだから、やっぱあいつは化け物だよ……。
※2 「普段穏やかな心を持ちながら――」「あ、あたしは空手の黒帯だ! なめるなよーっ!」
某七つの球を集めると願いが叶うマンガから。ごめんなさい鳥山先生。
※3 「メメタァ」「ドグシャア」
某、途中から波紋の設定がほとんど出て来なくなったマンガから。何をするだァーっ!




