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デイケアの二人

作者: 吉見健作

挿絵(By みてみん)


昼、吉川さんが歩いて来る。

「今日も、楽しみだな。まあこうやって治療を受けながら楽しめるのは理想的だと言える。」

そう思った。

向こうから三吉さんが自転車で来る。

「あ、吉川さん、こんちはー。」

「お、ネクタイ締めて、お出かけか?」

「え、今晩コンサートですよ。」

「そらいいな。」

キーっ!後ろの国道からブレーキ音がする。

吉「何や、何かあったぞ。」

三「見てみましょうか?」

二人は国道に出た。

すると女性が倒れている。見ると同じデイケア利用者の岡さんが介抱している。

三「岡さん大丈夫ですか?この女性は?」

岡「ここで急に倒れられたんです。」

吉「これは頭を寝かせといた方がええで。さっきの自動車のブレーキ音は?」

岡「この方が急に倒れたので、ブレーキかけたんですけど。。。あれ?もういない。」

三「関わりたくないから逃げたんですよ。」

吉「けしからんな。兎に角119番通報しよう。」

5分で救急車が来た。女性はやや気を取り戻したようである。

岡「僕も一緒に行きますわ。様子を見ないと。。。」

救急車は岡さんと女性を乗せてサイレンを鳴らして去って行った。

残った二人が心配そうに見ていた。

やがて彼らがデイケアの建物に入ると二十六歳のヒロシが椅子に腰かけている。

「あ、こんにちは。」と二人に挨拶する。

「休憩かい?」

「は、まあまあ」

「じゃあ行こうか。」

取り敢えず3人は2階のデイケアに行くために階段を上った。部屋に入ると二十人位の利用者がおられた。縫物をしてる女性ら、パソコンのブースを使ってインターネットにつないでる人、いろいろだ。三人は各々健康チェックする。体温、血圧、正常だ。


職員さんらが話してる

村西さん「今日から新しい利用者さんが体験で来られるんです。」

田村さん「あ、女性ですね。二十四歳。」

ヒロシはそれを右から左で通り過ぎるように聞きながした。

吉川さんがスタッフに「そこで女性が倒れたので、岡さんはその付き添いで救急車で病院に向かいましたよ。」

浦松さん「え??本当ですか?あとでこっち来られますかね?」

三吉「わかりません。もし何かあれば連絡下さるでしょう。」

彼はそう言って、

いつものようにピアノの方に行き弾きだした。

ヒロシは吉川さんと野球の話をし始めた。

そうこうするうちに、午後の時間が始まる。職員さんが前に出る。

高木さん「それではこれから、午後の会を始めたいと思います。午後からの利用は誰々さんとかれこれさん、それで体験利用の松本さんです。」みんな拍手。

ヒロシは普段は振り返ったりしないんだが、「松本さん」の方をちらっと見て驚いた。

「(あ、京子ちゃんだ!)」

京子の方もヒロシの視線に気づいた。そしてヒロシに会釈した。

吉川「なんや、自分ら知り合いか?」

ヒロシ「高校時代の二つ後輩なんです。」

三吉「へえ、じゃあ八年振りやろ。積もる話もあるやろし、吉川さん、ここは二人の邪魔しない様にしましょうか?」

吉川「よっしゃ。」


ヒロシ「京子ちゃん、またなんでデイケアに来ることになったの?」

京子「パニック障害なんです。電車とか乗れないんですよ。」

ヒロシ「えー、いつから?」

京子「去年からです。」

ヒロシ「それは大変や。移動とかどうしてるの?」

京子「自転車か自動車です。神戸大阪、京都辺りまでは車で十分です。」

ヒロシには到底理解できないメンタルの病気だ。かつては不安神経症、強迫神経症と呼んでいたものだ。

京子「先輩はどうしてここに来ることになったんですか?」

ヒロシ「躁鬱さ。近年は双極性障害と言われる。気分が上がったり下がったりするんだ。」

京子「へえー?でも見た目元気そうじゃないですか?」

ヒロシ「それが危ないねん。上がりすぎると攻撃的になるんよ。怒りっぽくなるし。。」


その間、部屋の真ん中あたりに腰かけて吉川さんが時局について論じてる。テレビでもよく取り上げられるような時世の話だ。下田さんも話に聞き入ってる。

三吉さんは相変わらずピアノ弾いてる。よっぽど好きなんだな。スタッフの岩沢さんが斉藤和義の歌をリクエストしてそれを弾き語りだ。南村さんもピアノ弾けるから、一緒に見てる。

女性のジェニーさんは、ジグソーパズルやってる。結構大きめなパズルなんだ。

同じく女性の中田さんは、亀さんの事を動物図鑑で眺めている。

でもここの人々って大人しい方だ。それに場所も広い。

そこに岡さんから連絡が入って、女性の付き添いもあって参加できそうもないとの事だ。

挿絵(By みてみん)

さて午後からのプログラムは広田神社まで散歩だ。ヒロシは体験の京子を誘って合計八人で行くことになった。職員は安井さん。三吉さん、ジェニー、中田さんも参加している。

安井「参道を北に歩いていきます。自動車に気を付けて下さい。」

ヒロシと京子は相変わらず思い出話に興じている。

京子「先輩、」

ヒロシ「もう先輩って呼ぶのやめよう。ヒロシさんて呼んでよ。」

京子「じゃあヒロシさん、いつからそんな双極性の病気になったんですか?元々すごく明るかったじゃないですか?」

ヒロシ「それがな、わからへんねん。元々からそういうフシがあったのかもしれん。中学校でもひどく落ち込んだりショボーンとしたこともあったんよ。」

京子「信じられないなあ。高校の時の先輩、、いやヒロシさんのイメージからは思いつかないです。」

ヒロシ「じゃあ京子ちゃんはどうしてパニック障害になったの?」

京子「それはね、大学時代にしょっちゅうコンパ出てたから、その度にお酒沢山飲んだんです。先輩に勧められて結構きついのを飲まされました。そしたら、乗り物に乗ると動悸がしたりするようになりました。それから特急に乗れなくなり、各駅停車も無理になりました。」

三吉「なるほどね~、未だに仰山酒飲ます風習が大学にあるねんな。」

ヒロシ「三吉さんの頃も酷かったんですか?」

三吉「僕らの頃はとんねるずの『一気、一気』ていう一気飲みをはやす歌が流行ってん。だから、OBが宴会に来ると、丼バチを用意して『おう三吉、ここに日本酒ついだるから一気飲みせえ』て言って飲まされる。みんなも『一気、一気』てはやし立てるんだ。他のクラブでも急性アルコール中毒で救急車来た例もある。」

ジェニー「私、こう見えてもお酒弱いんやんか。そんなん無理強いされたら絶対逃げるわー。」

安井さん「そう云えば僕らの頃もそんな風習がありましたわ。今、それ無理強いしたらアルハラ、つまりアルコールハラスメントの犯罪になりますよ。」

三吉「結局、健常者にも責任があるのではないかな?て思います。」

安井「さあ、そろそろ神社に着きますよ。中田さん、ここには亀さんいないですね。」

中田「ええぇ?家にいますから、、それでいいです。」とニコニコ顔。

みんなでお参りした。

安井「ジェニーさんはどんな事お願いしたのですか?」

ジェニー「え?ヒミツです。」とやはりニコニコ顔。

安井「ちょっと休憩しましょう。」

みんな近くのベンチに座った。

ヒロシはよっぽど懐かしいのか、再び京子ちゃんと話し出した。

ヒロシ「デイケアはどうしていくことになったん?」

京子「お医者さんが行くように薦めてくれたんです。」

ヒロシ「感想はどう?」

京子「広くていいですね。施設も清潔だし、みんなが調和しているように見えます。いやヒロシさんはどうしてですか?」

ヒロシ「うちにヘルパーさん来てて、その人が薦めてくれたんだ。他の利用者さんで行ってる人がいて楽しそうだということで、僕も行こうと思ったのさ。」

三吉「意気投合してるなあ。二人付き合ったらどう?」

ジェニー「いいわねー。おめでとー」

ヒロシ「いやあ、恥ずかしいけど、京子ちゃん、とりあえずデートしよっか?双葉筋にFeliz Gateていうワンちゃんも入れる喫茶店あるけど、そこに行かない?」

京子「うん、ヒロシさんの行くとこならどこでもいいです。」

それ聞いて、中田さんも微笑んでる。

ヒロシ「よしっ、早速行こう。」

二人はそう言って喋りながら勝手に歩き出した。

ヒロシ「いやあ、いい天気だなあ。」

どんどん歩いて行こうとするので、

安井「ちょっと待って下さい。デイケアに戻って終りの会まで参加しなきゃダメですよ。」

ヒロシ「あ、これまた失礼いたしましたっ!」

こうして、カップルも一組できたし、広田神社は無事に行けた。

みんなこれからもこんな風にお互いをケアし合って楽しんでいければいいなあ、と感じるのであった。


おしまい


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